著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
サルモネラ菌(ネズミチフス菌、Salmonella typhimurium)は世界的に問題となる代表的な食中毒菌の一つです。軽い胃腸炎から重い全身感染まで引き起こすため、食品の安全管理で重要な検査対象となっています。従来の検査法には、菌を培養して数える方法、遺伝子を増やして調べるPCR、抗体を使うELISAなどがあります。著者らは、これらの方法には時間や手間がかかったり、菌の数がごく少ないときの感度が十分でなかったりする課題があると指摘しています。
そこで研究チームは、細菌に感染するウイルスの一種であるM13バクテリオファージを遺伝子改変して利用し、「色の変化」と「ラマン散乱光」という二つの信号で同時に菌を測定する検出法を開発しました。性質の異なる二つの信号を組み合わせることで、互いの結果を照らし合わせて確かめられるようにするのがねらいです。
検出の仕組み
M13ファージは長さ約880ナノメートルの細長いウイルスで、表面を覆うたんぱく質を遺伝子操作で作り変えることができます。研究チームは、先端に数個あるたんぱく質(pIII)にサルモネラ菌を見分けて結合するペプチドを提示させました。さらに、側面に約2700個あるたんぱく質(pVIII)を改変し、ストレプトアビジンと結合する酵素の標識(SA-HRP)を多数付けられるようにしました。1本のファージに多くの酵素を載せることで、信号を増幅させる設計です。
検査ではまず、サルモネラ菌に対する抗体を付けた磁性ビーズで菌を捕まえ、磁石で試料から集めます。そこに改変ファージが菌に結合し、「ビーズ・菌・ファージ」が重なったサンドイッチ状の構造ができます。ファージに付いた酵素は試薬のTMBを酸化し、溶液を青く変えます。この青色の強さを641ナノメートルの光の吸収で測るのが一つ目の信号です。
二つ目の信号には、表面増強ラマン散乱(SERS)を使います。これは金属のナノ粒子の近くで分子が出す微弱な散乱光が大きく強まる現象で、物質ごとに特徴的なスペクトルが得られます。研究チームは酸化されたTMBを、金ナノ粒子を付けた磁性材料と混ぜ、1602 cm⁻¹付近の特徴的なピークを測定しました。電子顕微鏡による観察では、菌の表面に磁性ビーズとファージの層が付いている様子が確認されたと報告されています。
主な結果
反応温度や時間などの条件を調べた結果、37℃で80分間の反応が最適とされました。この条件で菌の濃度を1ミリリットルあたり40個から4000万個(4×10¹〜4×10⁷ CFU/mL)まで変えたところ、色の信号とラマン信号のどちらも、菌濃度の対数との間に良い直線関係が得られました。検出限界は、色の測定で1ミリリットルあたり3.4個、ラマン測定で2.7個と算出されています。
1ミリリットルあたり約3個という極めて少ない菌の液を調べた実験では、ラマン測定による推定値が、寒天培地で菌を数える従来法の結果とよく一致したと報告されています。また、大腸菌O157:H7やシュードモナス属菌など他の細菌を、サルモネラ菌より高い濃度で加えても目立った信号は出ず、サルモネラ菌にだけ強く反応しました。
実際の食品での検証として、エビ、牛肉、ピーナッツの試料にサルモネラ菌を加えて測定しました。加えた量に対する測定値の割合(回収率)は、二つの測定法を通じておおむね97〜122%の範囲でした。サンドイッチ構造は14日間保存した後も、当初の信号の約80%を保っていたとされています。
この研究が示すこと
この研究は、遺伝子改変したファージに「菌を見分ける役割」と「信号を増幅する役割」を同時に持たせ、色とラマン散乱光の二つの方法で少数のサルモネラ菌を検出できることを示しました。著者らは、ファージに提示する認識部分を変えれば、他の標的にも同じ仕組みを応用できる可能性があると述べています。
一方で著者らは、1本のファージに実際に何個の酵素が結合しているかは正確に分かっていないこと、ほかの血清型のサルモネラ菌に対する特異性はまだ調べていないことを、今後の課題として挙げています。
原著論文の著者・所属:Shengnan Zhan(Zhejiang–Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315211, China)、Yanke Wang(Zhejiang–Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315211, China)、Yihui Yang(Zhejiang–Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315211, China)、Qi Chen(Jiangxi Provincial Key Laboratory of Bioengineering Drugs, National Engineering Research Center for Bioengineering Drugs and Technologies, Institute of Translational Medicine, Jiangxi Medical College, Nanchang University, Nanchang 330031, China)、Xizhi Shi(Key Laboratory of Aquacultural Biotechnology, Ministry of Education, School of Marine Sciences, Ningbo University, Ningbo 315211, China)、Hui Wang(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Nanchang University, Nanchang 330047, China)、Wenhua Yang(Key Laboratory of Processing and Nutritional Health of Tropic and Subtropical Aquatic Specialty Foods, Guangzhou 510380, China)、Xin Zhang(Zhejiang–Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315211, China)、Tao Huang(Zhejiang–Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315211, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shengnan Zhan, Yanke Wang, Yihui Yang, et al. M13 Bacteriophage-Based Sandwich Assay for Salmonella Detection: A Dual-Signal Approach Combining Colorimetric and SERS Techniques. Foods 2026-10-16. DOI: 10.3390/foods15203681. 原著ライセンス:CC BY.