牛乳などの乳製品は、加工や流通の過程でサルモネラ菌の一種であるネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)に汚染されることがあり、食品衛生の現場ではこの菌をいかに早く正確に見つけるかが課題となってきました。従来の検査法は、菌を培養して増やしてから調べる方法が主流で、結果が出るまでに時間がかかることが知られています。今回、中国・吉林大学公衆衛生学院のJuan Wangらの研究グループが、牛乳中のネズミチフス菌をより短時間で、より高い感度で検出できる新しい検査システムを開発し、その成果をnpj サイエンス・オブ・フードに発表しました。

光とCRISPR技術を組み合わせた検出のしくみ

この研究で開発された手法は、複数の技術を組み合わせている点が特徴です。まず、光熱ナノ材料と呼ばれる物質を使って菌を溶かし、菌の内部にある遺伝情報(ゲノムDNA)を取り出します。次に、複数種類のcrRNA(CRISPR技術で標的を認識するためのガイド分子)を同時に使う「マルチcrRNA戦略」によって、検出したい遺伝子配列があるという信号を増幅させます。さらに、トレハロースを用いた水性二相システムという仕組みを利用することで、通常は複数の工程に分かれるRPA(遺伝子を増幅する反応)とCRISPR/Cas12aによる検出反応を、一つのチューブの中でまとめて行えるように設計されています。

検査結果と操作性について分かったこと

この検査システムでは、調べたい試料を加えるだけという1ステップの操作で、40分以内に結果を得られることが示されました。また、検出できる菌の量の下限(検出限界)は1ミリリットルあたり10コロニー形成単位(10 CFU/mL)であったと報告されており、微量の菌でも検出できる可能性が示唆されています。これらの結果は、従来の培養法に比べて迅速な検査を目指す技術として位置づけられるものです。

この研究を読むうえでの注意点

この研究で示された結果は、研究グループが実施した実験条件のもとで得られたものであり、この一つの研究をもって結論が確定したわけではない点に留意が必要です。要約として提供された情報には、本手法の限界について具体的な記載はありませんでした。実際の食品検査の現場で広く使われるようになるかどうかは、今後さらなる検証が必要になると考えられます。

まとめ

今回の研究は、光熱ナノ材料による菌の溶解、複数crRNAによる信号増幅、そして水性二相システムによる反応の一体化という複数の工夫を組み合わせることで、牛乳中のネズミチフス菌を40分以内、検出限界10 CFU/mLという条件で検出できる可能性を示したものです。食品中の病原菌検査を迅速化する技術の一例として、今後の研究の展開が注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Juan Wang, Xiang Li, Jing Zhang, et al. Photothermal nanomaterial-assisted multi-crRNA-enhanced one-tube RPA-CRISPR/Cas12a system for sensitive detection of Salmonella Typhimurium in milk. npj サイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01090-1. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.