著者の所属・活動拠点の国は、イギリス、デンマーク、オーストラリアです。
掲載誌:Social Science & Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
英国政府は2016年に「清涼飲料業界税(SDIL)」を発表し、2018年に導入しました。砂糖入り飲料を対象に、段階的な税率を設けた税です。
論文によると、こうした砂糖入り飲料税の経済評価は、これまで主に、病気が減ることで医療費がどれだけ変わるかを見積もる手法で行われてきました。一方、課税に伴って通常予想される経済的な損失(税の効率損失)と、食生活に関連する病気が減ることによる経済全体への利益を合わせて評価した研究や、経済と健康の間のトレードオフを検討した研究は、これまでなかったといいます。研究チームは、この税が英国経済全体と人々の健康にどのような影響を及ぼすかを、両面から見積もることを目指しました。
経済モデルと健康モデルを組み合わせる
研究チームは新しい分析の枠組みを構築しました。一つは、英国経済を産業部門ごとに表し、時間を追って経済の変化をたどる「計算可能な一般均衡(CGE)モデル」です。もう一つは、栄養に焦点を当て、集団の病気や死亡の推移をシミュレーションする疫学モデル「PRIMEtime」です。この二つを連結し、2018年から2040年までの将来について、税による経済への影響と健康上の利益を推計しました。
健康上の利益は「障害調整生存年(DALY)」という指標で示されています。DALYは、病気や障害、早すぎる死によって失われる健康な生活の年数を表すもので、「DALYが救われた」とは、失われるはずだった健康な年数が守られたことを意味します。
主な推計結果
推計では、この税によって将来86,951 DALYが救われるとされました。健康の改善に関連する経済的な利益は24億9千万ポンドと見積もられ、そのうち13億3千万ポンドは消費者の需要の変化によるもの、11億5千万ポンドは砂糖入り飲料の「製品の改良」によるものとされています。
一方、税の効率損失が加わるため、全体としては実質GDPの累積で20億1千万ポンド(0.004%)のコストが生じると推計され、論文はこれを限定的なコストとしています。救われた1 DALYあたりのコストは23,116ポンドと算出され、著者らはこの結果から、この税には費用対効果があると示唆されるとしています。
また、製品の改良は健康に関連する経済的利益の46.2%を占め、税の効率損失全体の25.6%を埋め合わせると推計されました。
研究が示すこと
この研究は、砂糖入り飲料税の影響を、医療費だけでなく経済全体と健康の両面から評価する枠組みを示したものです。著者らは、製品の改良が経済的利益の大きな部分を占めるという推計結果から、健康への効果と費用対効果を最大限に高めるには、製品の改良を促す税の設計が重要だと述べています。
原著論文の著者・所属:Henning Tarp Jensen(London School of Hygiene and Tropical Medicine, United Kingdom; University of Copenhagen, Denmark. Electronic address: [email protected])、Marcus R. Keogh-Brown(London School of Hygiene and Tropical Medicine, United Kingdom)、Linda J. Cobiac(Griffith University, Australia)、Cherry Law(University of Reading, United Kingdom)、Nina T. Rogers(University of Cambridge, United Kingdom)、Harry Rutter(University of Bath, United Kingdom)、Martin White(University of Cambridge, United Kingdom)、Richard D. Smith(University of Exeter, United Kingdom)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Henning Tarp Jensen, Marcus R. Keogh-Brown, Linda J. Cobiac, et al. The impact of fiscal food policies on the macro-economy: The case of the UK soft drinks industry levy. Social Science & Medicine 2026-08-12. DOI: 10.1016/j.socscimed.2026.119688. 原著ライセンス:CC BY.