著者の所属・活動拠点の国は、チリ、スペインです。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
総説の目的
間欠的断食(IF)は、食べる時間と食べない時間を規則的に繰り返す食事法です。肥満の予防や管理の方法として注目されており、体重や血糖の調節、心臓や代謝の健康によい影響があると報告されてきました。IFが主に制限するのは食べる量ではなく食べる時間帯ですが、結果として摂取量が減ることも多いとされます。
一方で、断食によって腸内細菌が変化し、その変化が体の代謝や免疫の調節にどうつながるのかという仕組みは、十分には解明されていません。著者らは、これまでの総説が腸内細菌の構成の変化や代謝の結果を中心にまとめてきた点に着目しました。そのうえで、細菌の作る物質、体内時計、腸の粘膜の免疫を結びつけて整理することを目指しました。この論文は新たな実験を行ったものではなく、ヒトと動物の既存研究をまとめた総説で、特に肥満と2型糖尿病に重点を置いています。
取り上げた断食法と腸内細菌の変化
著者らが主に扱ったIFは三つです。食事を普通にとる日と強く制限する日を交互に繰り返す隔日断食、週のうち2日を断食日とする「5:2ダイエット」、そして毎日決まった時間帯にだけ食事をとる時間制限食です。時間制限食では、16時間食べずに8時間の間に食事をとる「16:8」が最も一般的です。
腸内細菌の多様性、つまり一つの腸の中にどれだけ多くの種類の細菌がバランスよくいるかについては、研究によって結果が分かれていました。健康な人では時間制限食で多様性が高まったという報告があります。一方、過体重や肥満の人を対象とした12週間の時間制限食では、目立った変化がみられない研究が複数ありました。細菌の種類の構成についても、アッカーマンシア・ムシニフィラや酪酸を作る細菌が増えたとする報告がある反面、変化がなかったとする報告や異なる変化を示す報告もありました。
著者らは、こうしたばらつきは期間の違いだけでは説明できないと述べています。断食の方法、対象者の体質や普段の食事、服薬、断食をどれだけ守れたか、便と腸粘膜のどちらを調べたか、解析手法の違いなどが影響していると考えられます。条件をそろえやすい動物実験の結果をヒトに当てはめる際には慎重さが必要だとも指摘しています。また、細菌の種類が大きく変わらなくても代謝が改善する例があることから、どの細菌がいるかよりも、細菌が何をしているかという機能の変化の方が重要である可能性を論じています。
細菌が作る物質、体内時計、免疫とのつながり
著者らが細菌の働きの中心として挙げるのが、腸内細菌が作る短鎖脂肪酸です。5:2ダイエットで短鎖脂肪酸を作る細菌が増えたという報告が紹介されています。短鎖脂肪酸は、満腹感や血糖の調節に関わるホルモンの分泌や、腸のバリア機能、免疫の調整に関わるとされます。胆汁酸についても、時間制限食がその組成の変化と関連していたという報告が紹介されています。ただし著者らは、細菌の関連遺伝子が調べられていないため、この変化を腸内細菌の働きによるものと直接結論づけることはできないと述べています。このほか、心血管病との関連が指摘されるTMAOという物質について、IFや時間制限食で血中濃度が下がる可能性を示した臨床研究も紹介されています。
体内時計との関係では、時間制限食によって時計遺伝子の発現が高まったというヒトの研究が紹介されています。食事と断食のリズムは体内時計と腸内細菌の日内変動を同時にそろえる強い信号であり、両者は互いに影響し合っていると考えられています。このため著者らは、断食の効果は食べないことそのものだけでなく、食事のタイミングと細菌のリズム、体のリズムがかみ合うことからも生じうると論じています。ただし、詳しい分子の仕組みはまだ解明されていません。
免疫については、代謝症候群の成人を対象とした8週間の修正型IFの研究が紹介されています。この研究では腸内細菌の変化とともに、血中の細菌由来の炎症物質(リポ多糖)や炎症性物質が減っていました。マウスの研究では、断食した個体の便を別のマウスに移植すると、自己免疫性の脳脊髄炎に対する保護効果が移ったと報告されています。これは、腸内細菌が免疫への作用に因果的に関わることを支持する結果とされています。一方で、腸の免疫細胞が作るIL-22が脂肪組織に働きかけるという仕組みは、現時点では1件の動物研究で示されたにとどまり、ヒトでの確認が必要だと著者らは強調しています。
この総説が示すこと
著者らは、IFが腸のバリアを常に守るとは限らない点にも注意を促しています。10日間の医学的に管理された断食では、食事を再開した後に炎症性物質が増えたことが報告されています。また、マウスで時間制限食を長期間続けたところ、腸のバリアが弱まり、腸炎が悪化した例もあります。効果は断食の方法、体の代謝状態、病気の状況によって大きく変わると考えられます。
著者らのまとめによれば、IFが腸内細菌の構成や代謝物を変え、一部の状況では炎症を抑える方向に働くという全体像は筋が通っています。ただし、その全体像はまだ不完全です。とくにヒトの腸粘膜で免疫がどう変化するかを直接示した証拠は限られています。断食の効果を細菌の種類の増減だけで判断せず、細菌の働きや食事のタイミングまで含めて捉える必要があることを、この総説は示しています。
原著論文の著者・所属:Natalia Diaz-Garrido(Universidad Católica del Maule, Facultad de Ciencias de la Salud, Escuela de Nutrición y Dietética, Curicó 3340000, Chile)、Alejandro Regaldiz(Programa de Doctorado en Biociencias Moleculares, Facultad de Ciencias de la Vida, Universidad Andres Bello, Santiago 8370186, Chile)、Sebastián Zagmutt(Department of Biomedical Sciences, Faculty of Medicine and Health Sciences, Universitat Internacional de Catalunya, 08195 Sant Cugat del Vallès, Spain)、Pedro Cisternas(Núcleo de Investigación en Nutrición y Ciencias Alimentarias (NINCAL), Facultad de Salud y Ciencias Sociales, Universidad de Las Américas, Santiago 7500658, Chile)、Marianela Bastías-Pérez(Centro de Investigación Biomédica en Red (CIBER) de Fisiopatología de la Obesidad y Nutrición (CIBEROBN), Instituto de Salud Carlos III (ISCIII), 28029 Madrid, Spain; Centro de Investigación en Ciencias Biológicas y Químicas (CICBQ), Facultad de Medicina Veterinaria y Agronomía, Universidad de Las Américas, Santiago 7500658, Chile; Núcleo de Investigación en Nutrición y Ciencias Alimentarias (NINCAL), Facultad de Salud y Ciencias Sociales, Universidad de Las Américas, Santiago 7500658, Chile)、Adrián Cortés-Martín(Sport and Health University Research Institute (iMUDS), University of Granada, 18016 Granada, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Natalia Diaz-Garrido, Alejandro Regaldiz, Sebastián Zagmutt, et al. Intermittent Fasting and the Gut Microbiota: Mechanisms Linking Microbial Remodeling to Metabolic and Immune Regulation. Nutrients 2026-08-14. DOI: 10.3390/nu18162657. 原著ライセンス:CC BY.