日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:PLoS neglected tropical diseases
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
レプトスピラ症は、げっ歯類をはじめとする哺乳類が保有するレプトスピラという細菌による、人と動物に共通する感染症です。研究チームは、ブータンの亜熱帯地域では、この病気が十分に認識されていないと説明しています。
著者らは、住民の血液中の抗体を調べ、過去にレプトスピラにさらされたことを示す人がどの程度いるのか、また、どのような生活環境や行動が抗体陽性と関連するのかを明らかにしようとしました。
何を、どのように調べたか
研究チームは2024年、ブータン南部のサルパン県にある6地域で、住民の抗体と生活状況を同じ時点で調べる横断研究を行いました。参加者503人のうち、血液試料の状態などにより11人を除き、成人492人を解析しました。平均年齢は41.4歳でした。
血清中の抗体を、顕微鏡的凝集試験(MAT)と、IgM・IgGという2種類の抗体を測るELISAで調べました。MATは、血清とレプトスピラを反応させ、抗体によって菌が凝集するかを見る検査です。今回は急性の感染を診断するためではなく、過去の接触を示す抗体を捉える基準を用いました。
生活環境や過去12か月の行動についても尋ね、田植えへの参加、沸かしていない水を飲む習慣、居住環境などとMAT陽性との関連を分析しました。その際、性別や居住環境、教育歴など、複数の要因を統計的に考慮しました。
主な報告結果
MATで抗体陽性だったのは492人中95人で、陽性率は19.3%でした。推定の不確かさを示す95%信頼区間は16.0~23.1%です。研究チームは、対象となった成人のおよそ5人に1人に、過去のレプトスピラへの接触を示す証拠があったと報告しています。これは、調査時点で5人に1人が発症していたという意味ではありません。ELISAによる陽性率は、IgMが22.4%、IgGが16.1%でした。
田植えに参加した人のMAT陽性率は34.1%で、参加しなかった人の14.4%より高く、他の要因を考慮した調整オッズ比は4.74でした。また、沸かしていない水を飲む人では25.4%、飲まない人では13.5%が陽性で、調整オッズ比は2.34でした。オッズ比は陽性と陰性の比を群間で比べた指標で、発症する確率がそのまま何倍になるという意味ではありません。
居住環境にも関連がみられ、農村部を基準にした抗体陽性の調整オッズ比は、人口の密集した都市部で4.08、その他の都市部で2.94でした。MAT陽性試料では、菌の血清型のうちAustralisへの反応が49%、Lai-likeへの反応が13%と多く報告されました。
この報告が示すこと
著者らは、この調査を、地域住民のレプトスピラへの接触状況を把握するための基礎情報と位置づけています。そのうえで、予防行動の周知、作業時の長靴や手袋などの使用促進、医療機関での検査・監視体制の強化につなげる必要があると述べています。
ただし、同じ時点で抗体と生活状況を調べた研究のため、報告された行動が抗体陽性に先行したかは判断できず、因果関係や感染経路を確定するものではありません。行動の回答には記憶の誤りも入り得ます。また、田植えとの関連の推定値は、一部の参加者を除いた解析で大きく変わったため、著者らは慎重な解釈を求めています。この報告は、現在の患者数ではなく、地域で見過ごされてきた可能性のある接触の広がりに目を向けるものです。
原著論文の著者・所属:Monu Tamang(Graduate School of Public Health, International University of Health and Welfare; Health and Medical Research Centre, Central Regional Referral Hospital)、Rie Takeuchi(Graduate School of Public Health, International University of Health and Welfare)、Thinley Dorji(Central Regional Referral Hospital; Health and Medical Research Centre, Central Regional Referral Hospital)、Kinley Choki(Central Regional Referral Hospital; Health and Medical Research Centre, Central Regional Referral Hospital)、Tshokey Tshokey(Jigme Dorji Wangchuck National Referral Hospital; Khesar Gyalpo University of Medical Sciences of Bhutan)、Chenga Dawa(Central Regional Referral Hospital)、Choki Dolkar(Ministry of Health, Royal Government of Bhutan)、Kesang Wangchuk(Central Regional Referral Hospital; Royal Centers for Disease Control)、Dorji Tshering(Royal Centers for Disease Control)、Sangay Tenzin(Central Regional Referral Hospital; Health and Medical Research Centre, Central Regional Referral Hospital)、Kinley Wangchuk(Central Regional Referral Hospital; Royal Centers for Disease Control)、Rinzin Wangchuk(Royal Centers for Disease Control)、Naoko Yamamoto(Graduate School of Public Health, International University of Health and Welfare)、Yasuyuki Kato(School of Medicine, International University of Health and Welfare)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Monu Tamang, Rie Takeuchi, Thinley Dorji, et al. Seroepidemiology of human leptospirosis in subtropical Bhutan, 2024. PLoS neglected tropical diseases(出版社:Public Library of Science) 2026-11-04. DOI: 10.1371/journal.pntd.0014821. 原著ライセンス:CC BY.