この研究は、アメリカ、カナダの研究機関の研究論文です。

掲載誌:PLoS ONE

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

脂肪肝というと肝臓だけの問題と思われがちですが、近年では心臓や血管の健康とも関わりがあるのではないかと注目されています。特に「代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)」と呼ばれる、肝臓に脂肪がたまるタイプの病態は、心血管疾患のリスクを高める可能性が指摘されてきました。しかし、食事を工夫して肝臓の中性脂肪(肝臓にたまった脂肪)を減らすことが、実際に血管の健康にどのような影響を与えるのかは、これまで十分にわかっていませんでした。今回紹介する研究は、この疑問に短期間の食事介入という形で迫ったものです。

この研究では、MASLDと診断された人、またはそのリスクが高いとされた成人47人を対象に、2週間の食事介入試験が行われました。参加者は「低炭水化物食(1日の炭水化物量30g未満)」グループ(24人)と「低カロリー食(1日約1,200〜1,500kcal)」グループ(23人)のいずれかに割り当てられました。肝臓の中性脂肪含量は、MRIを用いたプロトン密度脂肪分画という手法で測定されました。あわせて、血管の健康状態を示す指標として、動脈の硬さを表す脈波伝播速度(PWV)と、血管内皮の働きを示す上腕動脈の血流依存性血管拡張反応(FMD)が調べられました。さらに、将来の心血管疾患リスクを推計するフラミンガムリスクスコア(FRS)も、介入の前後で評価されています。

研究でわかったこと

解析対象となった47人のうち、ベースライン時点で31人がMASLDと診断されていました。介入の結果、全体として肝臓の中性脂肪含量はベースラインから15%減少したと報告されており、この変化は統計的に意味のあるものだったとされています。興味深いことに、低炭水化物食と低カロリー食という異なるアプローチの間で、この減少幅に明確な差は見られなかったとのことです。

血管の指標にも変化が見られました。動脈の硬さを示す上腕-足首間PWVは41cm/s低下したと報告されており、これは動脈の柔軟性に何らかの変化があったことを示唆しています。また、血管内皮機能を示すFMDは約1.0ポイント(絶対値として)上昇したとされ、将来の心血管疾患リスクを示すFRSも低下したと報告されています。

もう一つ注目される点は、肝臓の中性脂肪の減少幅と、安静時心拍数の変化との間に正の相関が見られたことです。この相関は、年齢や体重変化の影響を統計的に調整した後でも認められたとされています。一方で、肝臓の中性脂肪の変化そのものと、PWVやFMDといった血管機能の指標との間には、直接的な相関は見られなかったと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、2週間という短期間の食事介入の前後を比較する形で行われたものであり、長期的な効果や、どちらの食事法がより優れているかを結論づけるものではありません。また、肝臓の中性脂肪の減少と血管機能の改善が同時に起きたことは示されていますが、要旨で報告されている統計的な関連は主に心拍数の変化との間で見られたものであり、血管機能の変化との直接的な相関は認められなかった点にも留意が必要です。あくまで一つの研究の結果であり、これだけで肝臓の脂肪を減らせば血管の健康が改善すると断定できるものではない点には注意が必要です。

まとめ

今回紹介した研究では、MASLDまたはそのリスクを有する成人を対象に、2週間の食事介入によって肝臓の中性脂肪含量が減少するとともに、動脈の硬さや血管内皮機能、心血管リスクスコアにも変化が見られたことが報告されました。また、肝臓の中性脂肪の減少幅は安静時心拍数の変化と関連していたことも示されています。食事と肝臓、そして血管の健康との関係を考えるうえで、興味深い手がかりを与えてくれる研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):代謝機能障害関連脂肪性肝疾患またはそのリスクを有する成人における肝中性脂肪の短期的減少が血管健康に及ぼす影響(プロス・ワン・2026年08月)

著者:Tianyu Wang(Department of Kinesiology and Health Education, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)、Isabelle Gallagher(Department of Psychology, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)、Jessica Park(Department of Psychology, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)、Yanrong Li(Department of Psychology, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)、Marie Caillaud(Centre de Recherche, The Centre Hospitalier Universitaire Sainte-Justine, Montréal, Québec, Canada)、Taha A. Alhalimi(Department of Kinesiology and Health Education, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)、Lin-Sheng Chen(Department of Kinesiology and Health Education, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)、Natalie McLaurin(Department of Kinesiology and Health Education, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)、Jack Knight‐Scott(Department of Radiology, Children's Healthcare of Atlanta, Atlanta, GeorgiaUnited States of America)、Jeffrey D. Browning(Department of Clinical Nutrition, University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, Texas, United States of America)、Andreana P. Haley(Biomedical Imaging Center, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)、Hirofumi Tanaka(Department of Kinesiology and Health Education, The University of Texas at Austin, Austin, Texas, United States of America)