この研究は、インドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Sustainable Chemistry for Climate Action
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何のための研究か
食品に残った農薬を正確に測ることは、食の安全や環境保全、そして公衆衛生を守るうえで欠かせません。この総説の著者らは、その分析に広く使われている「LC–MS/MS(液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析法)」をめぐる近年の技術動向を整理しています。
LC–MS/MSは、試料に含まれる成分をまず液体クロマトグラフィーで分離し、続いて質量分析装置で二段階にわたって検出する手法です。著者らは、この手法が微量の物質を高い感度と選択性で捉えられること、そして食品のように多くの成分が入り混じった複雑な試料にも適していることから、農薬残留の測定において重要な分析技術になっていると述べています。
何を調べたか
著者らは、2020年から2025年の間に発表されたLC–MS/MSによる農薬残留分析に関する研究論文142報を対象に、内容を比較・整理しました。取り上げた試料は食品、環境、生体由来のものまで幅広く含まれています。
整理の観点は、試料の前処理、QuEChERS法による抽出、クロマトグラフィーによる分離、分析法の妥当性確認(バリデーション)、そして環境負荷の小さい「グリーンな」分析手法の五つです。QuEChERS法とは、農薬残留分析で一般的に用いられる、簡便で迅速な抽出・精製の手順を指します。
さらに著者らは、異なる試料や分析の流れを代表する13の分析法を選び、GAPI(グリーン分析手順指標)とAGREE(分析グリーン性指標)という二つの評価指標を用いて、それぞれの環境面での性質を評価しました。
報告された主な内容
著者らによれば、対象とした研究には、より高感度で効率的、かつ持続可能な分析手順へと向かう明確な傾向が見られました。具体的には、抽出操作の小型化、溶媒使用量の削減、精製工程の改良、そして環境に配慮した分析実践の採用が増えているといいます。著者らは、こうした方法が、信頼できる農薬残留の測定を保ちながら、薬品の使用量と分析にともなう廃棄物を減らしうると述べています。
一方で、未解決の課題も指摘されています。試料に含まれる他の成分が測定を妨げる「マトリックス効果」、分析法の頑健性(条件が多少変わっても安定した結果が得られるか)、そして極性の高い農薬の分析が、依然として難しい点として挙げられました。
今後の方向性として著者らは、より環境負荷の小さい前処理、バリデーション手順の統一化、そして高度な質量分析技術やデータ処理手法の統合を挙げています。
この総説が示すこと
この総説は、農薬残留を「どれだけ正確に測れるか」だけでなく、「どれだけ環境に負担をかけずに測れるか」という視点が、近年の分析研究のなかで確かな位置を占めつつあることを示しています。測定の信頼性と持続可能性を両立させようとする流れと、その途上に残る技術的な課題の双方が、142報の研究を横断する形で整理されています。
著者:Sivasabari Kathirvel(Department of Pharmaceutical Analysis, KMCT Institute of Pharmaceutical Education and Research, Kozhikode, 673601, Kerala, India (Affiliated to Kerala University of Health Sciences, Thrissur- Kerala, 680596 India)、Naba Fathima(Department of Pharmaceutical Analysis, KMCT Institute of Pharmaceutical Education and Research, Kozhikode, 673601, Kerala, India (Affiliated to Kerala University of Health Sciences, Thrissur- Kerala, 680596 India)、Sana Fathima(Department of Pharmaceutical Analysis, KMCT Institute of Pharmaceutical Education and Research, Kozhikode, 673601, Kerala, India (Affiliated to Kerala University of Health Sciences, Thrissur- Kerala, 680596 India)、Ruby AS(Department of Pharmaceutical Analysis, KMCT Institute of Pharmaceutical Education and Research, Kozhikode, 673601, Kerala, India (Affiliated to Kerala University of Health Sciences, Thrissur- Kerala, 680596 India)、K. S. Kokilambigai(Department of Pharmaceutical Analysis, SRM College of Pharmacy, Faculty of Medicine and Health Sciences, SRM Institute of Science and Technology, Kattankulathur, Chengalpattu, Tamilnadu, 603203 India)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sivasabari Kathirvel, Naba Fathima, Sana Fathima, et al. A selective review of LC–MS/MS-Based Pesticide Residue Analysis (2020–2025): Advances in QuEChERS methods, multi-matrix applications, and analytical validation. Sustainable Chemistry for Climate Action 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.scca.2026.100239. 原著ライセンス:CC BY.