日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Diseases

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を目的とした研究か

慢性的な便秘は高齢者によく見られ、排便の習慣だけでなく生活の質や日常生活の動作にも影響しうる問題だと、研究チームは指摘しています。高齢者では便秘が虚弱や複数の持病、多剤併用と重なりやすく、安全で扱いやすく、体に負担の少ない選択肢が日常診療で求められているという問題意識が、この研究の出発点にあります。

プロバイオティクス(有益とされる生きた微生物)は実際の診療でも広く使われていますが、その効果の大きさや一貫性は、菌の組み合わせ、剤形、投与期間によって異なると著者らは述べています。とくに高齢者に絞った根拠は限られており、作用の仕組みに踏み込んだ臨床データも乏しいままでした。

そこで研究チームは、Clostridium butyricum TO-A、Enterococcus faecium T-110、Bacillus subtilis TO-A という3種の菌を含む口腔内崩壊錠(口の中で溶けるタイプの錠剤)を取り上げ、機能性便秘のある高齢者において、短期間の安全性と、8週間前後での変化を探索的に調べることを目的としました。論文自体が、因果関係のある効果を証明するための試験ではなく、予備的な前後比較の研究として設計されたと明記されています。

どのように調べたか

対象は、国際的な診断基準であるRome IV基準で機能性便秘と判定された65〜90歳の人たちです。単一施設で行われ、参加者全員が同じ錠剤を服用する単群(比較対照となるグループを置かない)かつオープンラベル(本人も医療者も何を飲んでいるか分かっている)の設計でした。錠剤は1回2錠を毎食後の1日3回、8週間にわたって服用しています。胃や腸の手術歴、炎症性腸疾患などの既往がある人、排便に影響する薬や乳酸菌などの健康食品を常用している人は除外されました。

主要な評価指標は、便の形状を7段階で分類するブリストル便形状スケールをもとにした「排便スコア」の変化です。このスケールでは、硬くコロコロした便がタイプ1〜2、なめらかな普通便がタイプ4、泥状や水様の便がタイプ6〜7とされます。研究チームは、7日間の記録から各日の値を理想的なタイプ4からのずれとして計算し、合計した値を用いました。排便のなかった日はさらに正常から遠い状態として扱われます。つまりこの指標は、排便回数が増えたかどうかではなく、便の硬さが正常に近づいたかどうかを見るものだと位置づけられています。

これに加えて、排便回数、いきみの強さ、便秘に特化した生活の質の質問票、便秘の重症度の指標、お腹の症状全般に関する質問票、食品の種類の多さを表す食品摂取の多様性スコア、栄養や糖代謝の検査値が調べられました。便のサンプルからは16S rRNA解析という手法で腸内細菌の構成も評価されています。さらに、胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬、カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)を使っているかどうかで参加者を分け、反応の違いを探索的に比較しました。

主な報告結果

同意を得た50人のうち49人が解析対象となり、45人が8週間の服用を終えました。主要評価指標である排便スコアは、全体として便の形が正常に近づく方向に変化したと報告されています(p=0.024)。一方で、7日間平均の排便回数には有意な変化はなく、いきみの強さは改善する傾向があったものの統計的な有意差には至りませんでした。著者らは、観察された変化は排便回数の増加ではなく便の硬さと便秘に伴う症状に関わるものだった、と整理しています。

患者本人が答える指標では、便秘に特化した生活の質の質問票の合計点が低下し(点が低いほど良好)、身体的な不快感、精神的な不快感、心配・懸念の各領域でも低下が見られました。ただし満足度の領域には変化がありませんでした。便秘の重症度スコアも合計点は低下しましたが、排便回数や残便感といった個々の項目では有意な変化はありませんでした。お腹の症状の質問票では、胸やけの領域と便秘の領域の点数が下がっています。検査値では、長期的な血糖の状態を示すHbA1cにわずかな低下(中央値で−0.10%)が報告された一方、中性脂肪とHDLコレステロールの比やC-ペプチドには有意な変化はありませんでした。これらはいずれも副次的な評価で、多重比較の調整を行っていないため、著者らは探索的なものとして慎重に解釈すべきだとしています。

腸内細菌については、菌の種類の豊富さやばらつきを示す多様性の指標に明らかな変化はなく、全体の構成が大きく変わった様子も認められませんでした。ただし胃酸を抑える薬を使っていない人たちでは、酪酸をつくる菌を含む Clostridium sensu stricto 1 という属が8週目に増える傾向が見られました。また、排便スコアの変化は胃酸抑制薬を使っていない群で大きく、使っている群では有意な変化が見られませんでした。8週目の時点で両群を比べると、胃酸抑制薬を使っている群では口の中に多い種類の細菌が腸内で多く検出されました。これらの解析はいずれも探索的な位置づけです。

安全性については、3人に有害事象が発生し、いずれも試験を中止しました。内訳は腹痛が1人、胸やけ・胃の灼熱感・胃痛が1人、そして予期せぬ事故による死亡が1人です。死亡については試験薬との因果関係は確認されていません。軽度の2例では薬との関連を否定できないとされました。全体として、この錠剤はおおむね忍容性が良好で、臨床上重要な安全性の懸念は認められなかったと報告されています。

この報告が示すこと

著者ら自身が強調しているとおり、この研究は比較対照のない単群・オープンラベルの小規模な設計であり、プラセボ効果や症状の自然な変動、期待による偏りを除外できません。食事の内容や水分摂取、身体活動といった便の状態に影響しうる要因も統制されておらず、観察された変化と錠剤の服用との間に因果関係を示すものではないと明記されています。

そのうえでこの報告が伝えるのは、高齢者の機能性便秘という日常的な問題に対し、排便回数よりも便の形や自覚される負担感という側面に目を向けた観察結果です。高齢者にとっては排便のしやすさや不快感の軽減、体への負担の少なさが、回数と同じくらい意味を持ちうる——著者らのこの見方は、便秘をどう評価するかという視点そのものを問い直すものでもあります。また、胃酸抑制薬の使用によって反応の様子が異なって見えたという所見は、なぜ人によってプロバイオティクスの効き方が違うのかを考えるための手がかりとして提示されています。

著者:Daisuke Asaoka(Department of Gastroenterology, Juntendo Tokyo Koto Geriatric Medical Center, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 136-0075, Japan)、Tsutomu Takeda(Department of Gastroenterology, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 113-8421, Japan)、Yasuhisa Jimbo(Department of Gastroenterology, Juntendo Tokyo Koto Geriatric Medical Center, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 136-0075, Japan)、Eiji Kamba(Department of Gastroenterology, Juntendo Tokyo Koto Geriatric Medical Center, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 136-0075, Japan)、Yusuke Nomoto(Department of Gastroenterology, Juntendo Tokyo Koto Geriatric Medical Center, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 136-0075, Japan)、Osamu Nomura(Department of Gastroenterology, Juntendo Tokyo Koto Geriatric Medical Center, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 136-0075, Japan)、Daiki Abe(Department of Gastroenterology, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 113-8421, Japan)、Kumiko Ueda(Department of Gastroenterology, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 113-8421, Japan)、Hiroya Ueyama(Department of Gastroenterology, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 113-8421, Japan)、Hiroyuki Isayama(Department of Gastroenterology, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 113-8421, Japan)、Mariko Hojo(Department of Gastroenterology, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 113-8421, Japan)、Akihito Nagahara(Department of Gastroenterology, Faculty of Medicine, Juntendo University, Tokyo 113-8421, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Daisuke Asaoka, Tsutomu Takeda, Yasuhisa Jimbo, et al. Safety and Exploratory Pre–Post Changes Associated with an Orally Disintegrating Three-Strain Probiotic Tablet in Older Adults with Functional Constipation: A Single-Center, Open-Label, Single-Arm Study. Diseases 2026-08-31. DOI: 10.3390/diseases14090317. 原著ライセンス:CC BY.