日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Sports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

腸内細菌叢は、代謝の調節や免疫の働き、腸の粘膜が異物を通しにくく保つ「腸管バリア機能」の維持に関わるとされ、近年はアスリートの健康や運動能力に影響する要因としても注目されています。クロスカントリースキーは長時間の練習と高いエネルギー消費を伴う持久系競技で、こうした負荷が消化管の働きや腸内細菌の構成に影響する可能性が指摘されてきました。

研究チームが着目したのはL-グルタミンというアミノ酸です。グルタミンは腸の細胞のエネルギー源となり、身体的ストレス下で腸管バリア機能を支えるとして、サプリメントとして広く使われています。しかし著者らによれば、アスリートが通常のトレーニングを続けるなかでグルタミン摂取が腸内細菌叢そのものを変えるかどうかは明らかになっていませんでした。そこで本研究は、トレーニング期間中のクロスカントリースキー選手を対象に、L-グルタミン摂取が腸内細菌叢の構成と消化管の反応に及ぼす影響を検討することを目的としています。

何をどのように調べたか

対象は大学の男女19名(男性9名、女性10名)のクロスカントリースキー選手で、いずれも高度に鍛えられた競技者です。研究はランダム化二重盲検プラセボ対照のクロスオーバー試験として行われました。クロスオーバー試験とは、同じ参加者がグルタミンを摂る期間とプラセボ(見た目が同じ偽の製剤)を摂る期間の両方を順に経験する方法で、一人ひとりが自分自身の比較対象になります。二重盲検とは、どちらを摂っているかを参加者にも研究者にも伏せる手続きのことです。

参加者はL-グルタミンまたはプラセボを1日10グラム(朝食前と夕食前に5グラムずつ)、4週間にわたって摂取し、その後4週間の休止期間を挟んでもう一方に切り替えました。試験は季節の一般的準備期に実施され、参加者は所属チームの通常練習を続け、食事は寮で一律に提供されました。

評価は、各期間の開始時、2週目、4週目に採取した便を用いた腸内細菌叢の解析(細菌の16S rRNA遺伝子の配列を読み取る手法)、腸の炎症の指標である便中カルプロテクチン、消化器症状の質問票(GSRS)、便の硬さの尺度(ブリストル便形状スケール)、排便回数などです。細菌叢は、一人の腸内にどれだけ多様な菌がいるかを示す「α多様性」と、人や時点の間で菌の構成がどれだけ異なるかを示す「β多様性」の両面から検討されました。

報告された主な結果

著者らの報告によると、α多様性(シャノン指数)には時間の主効果が認められ、開始時から4週目にかけて値が上昇しました。一方で、グルタミン摂取による有意な効果や、時間との交互作用は認められませんでした。β多様性でも同様に時間による有意な変化はみられましたが、摂取条件による差はありませんでした。研究チームは、腸内細菌叢全体の多様性や構成は、グルタミン摂取よりもトレーニング期間の経過によって主に左右されたと述べています。

細菌の分類群ごとに見ると、属のレベルで一時的な違いが報告されました。2週目の時点で、酪酸(腸の健康との関連が知られる短鎖脂肪酸の一つ)を作る常在菌として知られるFaecalibacteriumの相対的な割合はグルタミン摂取時のほうが高く、逆にCollinsellaの割合は低くなっていました。ただしこれらの差は4週目には維持されておらず、著者らは一過性の変化と位置づけています。門のレベルでは、Actinomycetotaに時間の主効果がみられました。Fusobacteriotaでは時間と摂取条件の交互作用が有意でしたが、事後の比較からは開始時点の条件間の差によるところが大きいと判断され、慎重な解釈が必要だとされています。

もう一つの所見は、短鎖脂肪酸を作るとされる菌どうしの相関パターンです。グルタミン摂取時には、AnaerostipesとBlautia、AnaerostipesとBifidobacteriumの間に有意な正の相関が認められた一方、プラセボ条件では補正後に有意な相関は検出されませんでした。ただし著者らは、便中の短鎖脂肪酸そのものを測定していないため、この結果は探索的なものであり、実際の代謝機能の変化を示す直接の証拠ではないと明記しています。

便中カルプロテクチン、消化器症状の合計スコア、便の性状、排便回数には、グルタミン摂取による有意な影響は認められませんでした。試験期間を通じて有害事象や重い消化器の不調は報告されていません。

この研究が示すこと

この研究が描き出したのは、4週間という期間で見たとき、競技者の腸内細菌叢を大きく動かしていたのはサプリメントよりもトレーニング期間そのものだった、という姿です。L-グルタミンは腸内細菌叢の全体像を作り替えるというより、2週目に限って特定の属の割合を変え、短鎖脂肪酸に関わる菌どうしの結びつき方に違いをもたらすという、局所的で一時的な関与にとどまったと報告されています。

著者らは、参加人数が比較的少ないこと、菌の機能や短鎖脂肪酸の量を直接測っていないこと、トレーニング負荷や食事の詳細な変動を完全には統制していないことなどを限界として挙げ、得られた相関は探索的な位置づけだと述べています。栄養補助が腸内環境に及ぼす作用を考えるうえで、サプリメント単独の効果とトレーニング自体がもたらす変化とを切り分けて見る必要性を示した報告といえます。

著者:Tung-Lin Lu(Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa 359-1192, Saitama, Japan)、Kumpei Tanisawa(Faculty of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa 359-1192, Saitama, Japan)、Zenya Fujita(Faculty of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa 359-1192, Saitama, Japan)、Chikara Ozeki(Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa 359-1192, Saitama, Japan)、Ena Yoshida(Graduate School of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa 359-1192, Saitama, Japan)、Shih‐Hua Fang(Institute of Athletics, National Taiwan University of Sport, Taichung 404401, Taiwan)、Katsuhiko Suzuki(Faculty of Sport Sciences, Waseda University, Tokorozawa 359-1192, Saitama, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tung-Lin Lu, Kumpei Tanisawa, Zenya Fujita, et al. Influence of Four-Week Glutamine Supplementation on Gut Microbiota Across a Training Period in Cross-Country Skiers. Sports 2026-09-01. DOI: 10.3390/sports14090375. 原著ライセンス:CC BY.