この研究は、ブラジル、イギリスの研究機関の研究論文です。

掲載誌:European Journal of Applied Physiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

運動などで消費するエネルギーに対して食事からのエネルギーが大きく不足した状態は「低エネルギー利用可能性(LEA)」と呼ばれます。この状態が長く強く続くと、骨の健康を損なうおそれがあると考えられています。これまでの実験研究では、数日間エネルギーを制限すると、骨をつくる働きを反映する血中指標(P1NP)が下がり、場合によっては骨を壊す働きを反映する指標(CTX-1)が上がることが報告されてきました。

一方で、こうした変化がどのような仕組みで起きるのか、また食事の中身、特にたんぱく質の量によって変化が和らぐのかは、よく分かっていませんでした。研究チームは、体のストレス反応を調整する小さなたんぱく質である炎症性サイトカイン、なかでもエネルギー不足への対応に関わるとされるインターロイキン6(IL-6)に注目しました。そして、短期間のエネルギー不足が運動時の骨の指標とサイトカインの反応をどう変えるか、たんぱく質の摂取量を保つとその反応が和らぐかを調べました。

どのように調べたか

対象は、日常的に運動しているものの競技選手ほどは鍛えていない18〜45歳の健康な成人19人(女性9人、男性10人)です。参加者は順番を無作為に決めたうえで、3種類の食事条件をそれぞれ4日間ずつ体験しました。条件の間には少なくとも9日間の間隔を設けました。食事はすべて研究側が用意して配りました。

3つの条件は、十分なエネルギーをとる食事、エネルギーを約3分の1に減らして各栄養素を同じ割合で減らした食事、そして同じくエネルギーを減らしつつたんぱく質だけは十分な食事と同じ量(体重1kgあたり1日1.5g)に保った食事です。エネルギー量は、脂肪を除いた体重1kgあたり1日45kcalと15kcalに設定されました。たんぱく質を保った条件では、その分だけ炭水化物と脂質が大きく減っています。微量栄養素の不足が結果に影響しないよう、全員がマルチビタミン・ミネラルとビタミンDのサプリメントを使いました。

各食事期間の前後に、参加者は空腹の状態で来所し、朝食後に45分間の一定負荷の自転車こぎと短時間の全力こぎを行いました。運動前後と2時間の回復中に何度か採血し、骨の指標やサイトカインなどの濃度を測りました。データは、事前の知見を組み込みながら結果の確からしさを確率として示すベイズ統計の手法で分析されました。

主な結果

骨をつくる働きを反映するP1NPは、十分な食事と比べて、エネルギーを減らした2つの条件のどちらでも低くなりました。特に空腹時と、たんぱく質を保った条件の運動後の回復期で、その証拠が強く示されました。一方、骨を壊す働きを反映するCTX-1の変化ははっきりしませんでした。上昇が比較的明確に示されたのは、たんぱく質を保った条件の運動後回復期だけでした。

炎症性サイトカインでは、エネルギーを減らした両条件でIL-6が十分な食事より高くなりました。特に運動後の回復期でその傾向が強く見られました。他のいくつかのサイトカインも、両条件で上昇する傾向が報告されています。カルシウム調節に関わる副甲状腺ホルモンには、条件による明確な差は見られませんでした。

たんぱく質を保っても、これらの反応が和らぐという明確な証拠は得られませんでした。むしろ十分な食事との差は、たんぱく質を保った条件の方が一貫して見られました。ただし、エネルギーを減らした2条件を直接比べた分析は、ほとんどが不確かさの大きい結果でした。差が示されたのは回復期のP1NPの低下がたんぱく質を保った条件で大きかった点だけで、著者らはこの傾向を確定的な結論ではなく、今後の仮説につながる観察として扱っています。

研究が示すこと

著者らは、わずか数日の強いエネルギー不足でも骨をつくる働きの指標が下がり、運動時の炎症性サイトカインの反応が高まることを示したとしています。また、エネルギーを減らした食事でたんぱく質だけを保つと、その分だけ炭水化物が大きく減ります。著者らは、たんぱく質を保った条件で反応が一貫していた背景には、この炭水化物の少なさが関わっている可能性を挙げています。

一方で、いくつかの注意点も示されています。P1NPは骨以外のコラーゲンを多く含む組織からも出るため、その低下をすべて骨形成の低下とみなすことはできません。また、IL-6などの変化が骨の指標の変化を引き起こしたのか、単に同時に起きただけなのかは、この研究では区別できません。さらに、短期間の一時的な変化が、そのまま骨量や骨折のしやすさにつながるとは限りません。この研究は、エネルギー不足時の骨への影響を考えるうえで、総エネルギー量だけでなく食事の栄養素の組み合わせも重要になりうることを示しています。

著者:Eimear Dolan(https://ror.org/036rp1748 grid.11899.38 0000 0004 1937 0722 School of Arts, Sciences and Humanities and Centre of Lifestyle Medicine, Faculty of Medicine University of Sao Paulo Sao Paulo Brazil)、Rafaela Silverio Pinto(https://ror.org/036rp1748 grid.11899.38 0000 0004 1937 0722 Centre of Lifestyle Medicine, Faculdade de Medicine FMUSP Universidade de São Paulo Sao Paulo SP Brazil)、Bruna Aguera Reina(https://ror.org/036rp1748 grid.11899.38 0000 0004 1937 0722 Centre of Lifestyle Medicine, Faculdade de Medicine FMUSP Universidade de São Paulo Sao Paulo SP Brazil)、Gabriel Perri Esteves(https://ror.org/036rp1748 grid.11899.38 0000 0004 1937 0722 Centre of Lifestyle Medicine, Faculdade de Medicine FMUSP Universidade de São Paulo Sao Paulo SP Brazil)、Viviane Christine Araujo Miranda(https://ror.org/036rp1748 grid.11899.38 0000 0004 1937 0722 Centre of Lifestyle Medicine, Faculdade de Medicine FMUSP Universidade de São Paulo Sao Paulo SP Brazil)、Hamilton Roschel(https://ror.org/036rp1748 grid.11899.38 0000 0004 1937 0722 Centre of Lifestyle Medicine, Faculdade de Medicine FMUSP Universidade de São Paulo Sao Paulo SP Brazil)、Bruno Gualano(https://ror.org/036rp1748 grid.11899.38 0000 0004 1937 0722 Centre of Lifestyle Medicine, Faculdade de Medicine FMUSP Universidade de São Paulo Sao Paulo SP Brazil)、Craig Sale(https://ror.org/02hstj355 grid.25627.34 0000 0001 0790 5329 Department of Sport and Exercise Science Manchester Metropolitan University Institute of Sport Manchester UK)、Paul Swinton(https://ror.org/04f0qj703 grid.59490.31 0000 0001 2324 1681 School of Health Robert Gordon University Aberdeen Scotland, UK)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Eimear Dolan, Rafaela Silverio Pinto, Bruna Aguera Reina, et al. Bone biomarker and inflammatory cytokine responses to short-term low energy availability with and without preserved protein intake: a randomized, controlled, multi-period, cross-over trial. European Journal of Applied Physiology 2026-10-10. DOI: 10.1007/s00421-026-06461-w. 原著ライセンス:CC BY.