日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を明らかにしようとしたのか

私たちは料理を口にする前に、まず目で見て「おいしそうかどうか」を判断しています。研究チームによれば、食べ物の見た目は味の期待や第一印象を形づくり、実際に食べている最中の感じ方にも影響しうることが、これまでの研究で示されてきました。レストランでは、そうした視覚的な手がかりの多くが「盛り付け」、つまり皿の上に料理をどう配置し、どう見せるかによって決まります。

著者らは、盛り付け研究のなかでもソースや調味料による演出はあまり注目されてこなかったと指摘します。現代のレストランでは、シェフはソースを味のためだけでなく皿の上のデザイン要素としても使い、控えめな量を整然と置いたり、皿全体に線を描くように流しかけたりします。こうした盛り付けは、食べる前の印象だけでなく、食べる際のソースの使い方にも関わる可能性があります。しかし、その影響は十分に分かっていませんでした。

そこで研究チームは、同じチョウザメのフィレ料理を二通りのソースの盛り付けで提供し、食べる前の期待と食べた後の評価がどう異なるかを調べました。具体的には、(1)ソースの見せ方は試食前の期待に影響するか、(2)提供・喫食の形式は試食後の評価に影響するか、(3)試食前後で評価はどう変化し、その変化は盛り付けによって異なるかという三つの問いが立てられています。

どのように調べたか

実験は東京・日本橋のレストランで、ミシュラン・グリーンスターを受けたプロのシェフの協力のもとで実施されました。研究チームによれば、参加者は研究者の個人的なつながりを通じて集められた58名で、提供された料理を食べなかった1名を除く57名が分析対象となりました。年齢と性別を回答した56名の平均年齢は33.43歳でした。

比較されたのは二つの条件です。一つは「ミニマル」条件で、ソースを皿の上に別に置いて提供します。もう一つは「ドリズル」条件で、ソースを皿と料理の周囲に行き渡らせて提供します。参加者全員が両方を順番に体験し、提供順序はおおむね釣り合うよう調整されました(ドリズルが先の人が29名、ミニマルが先の人が28名)。料理もソースの種類も両条件で同じで、参加者には持続可能性や生産方法に関する情報は伝えられていません。研究チームは、この実験で持続可能性は操作された要因ではなく、あくまで実験が行われた料理の文脈として扱うと明記しています。

参加者は各条件について、試食前に「おいしそう」「健康的だ」「食べてみたい」「全体として好ましい」「盛り付けが芸術的だ」などを7段階で評価し、6個分の量に対して支払ってもよい金額(0〜3000円)も答えました。試食後には、実際のおいしさ、健康的だと思うか、もっと食べたいか、全体的な好ましさ、支払意思額、再訪意向、人に勧めたいかを回答しました。なお著者らは、この研究が事前登録されておらず、主要な評価項目もあらかじめ定めていなかったため、分析は探索的なものだと述べ、多数の項目を検定することによる偶然の有意差を抑える補正を行ったうえで、その補正後の結果を最も重視すると説明しています。

報告された主な結果

最もはっきりした結果は、試食前の「健康的だ」という評価に現れました。ミニマルな盛り付けはドリズルよりも健康的だと評価され、順序を調整した平均差は0.60(95%信頼区間0.19〜1.00)でした。この差は、複数項目の検定による補正を行っても統計的に有意なままで、順位に基づく別の分析方法でも同じ結果が確認されています。一方、試食前のそれ以外の項目では、補正後に有意な差は見られませんでした。「盛り付けが芸術的だ」という評価も両条件で差がなかったため、著者らはドリズルのほうが芸術的だと解釈すべきではないと注意を促しています。

試食後については、「もっと食べたい」と「全体的な好ましさ」でミニマル条件がわずかに高い値を示したものの(平均差はそれぞれ0.33と0.38程度)、複数項目の補正を行うといずれも有意ではなくなりました。おいしさの評価にも有意な差はありませんでした。支払意思額は、どの分析方法を用いても条件間で差が見られず、試食前の中央値は両条件とも1200円、試食後は1200円と1400円でした。さらに、試食前から試食後への評価の変化が盛り付けによって異なるかを調べた分析でも、7項目すべてで有意な違いはありませんでした。

著者らはこの結果の解釈範囲を慎重に区切っています。試食前の健康的さの差については、視覚的な単純さが関係している可能性を挙げつつも、単純さや余白、見かけのソース量などは測定していないため、今後検証すべき仮説にとどまると述べています。また試食後の小さな差についても、ソースを別に置く形式は自分で量を調整できるという利点があるかもしれないとしながら、実際のソース摂取量や「自分で調整できている」という感覚は測っていないため、確かめられた説明ではないとしています。

この研究が示すこと

研究チームは、この研究の貢献は限定的なものだと明言しています。ソースの配置は、食べる前の「健康的そうだ」という一つの期待には影響したものの、実際に食べた後の評価を確実に変えるまでには至らなかった、というのが結論です。実務的な含意も、あくまで「健康的だという印象」に関するものであり、実際の栄養価とは別の話だと区別されています。

それでもこの研究には、画像や実験室ではなく実際に営業しているレストランで、プロのシェフが調理・盛り付けした料理を客が本当に食べるという条件で盛り付けの効果を調べた意義がある、と著者らは位置づけています。一つの料理、一つの店、限られた参加者による結果であり、一般化には慎重であるべきだとしたうえで、盛り付けという身近な要素が食べる前の印象にどこまで働き、どこから先は働かないのかを、実際の食事の場で丁寧に線引きして示した研究だといえます。

著者:Kosuke Motoki(Department of Management, the University of Tokyo, Tokyo 113-0033, Japan)、Kohei Yamaguchi(Department of Dysphagia Rehabilitation, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo, Tokyo 113-8510, Japan)、Nozomi Koda(Department of Dysphagia Rehabilitation, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo, Tokyo 113-8510, Japan)、Hagino Oshiro(Department of Management, the University of Tokyo, Tokyo 113-0033, Japan)、Ayane Horike(Department of Dysphagia Rehabilitation, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo, Tokyo 113-8510, Japan)、Rieko Moritoyo(Department of Dysphagia Rehabilitation, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo, Tokyo 113-8510, Japan)、Chika Takahashi(Department of Dysphagia Rehabilitation, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo, Tokyo 113-8510, Japan)、Tatsuya Noda(PLUM KNOT Co., Ltd., Tokyo 104-0061, Japan)、Haruka Tohara(Department of Dysphagia Rehabilitation, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Institute of Science Tokyo, Tokyo 113-8510, Japan)、Shin-ichi Ishikawa(Department of Food Science and Business, Miyagi University, Sendai 982-0215, Japan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kosuke Motoki, Kohei Yamaguchi, Nozomi Koda, et al. How Chef-Designed Plating Shapes Consumer Evaluations of a Dish in a Real Restaurant Setting. Foods 2026-08-31. DOI: 10.3390/foods15173081. 原著ライセンス:CC BY.