著者の所属・活動拠点の国は、インドネシア、インドです。
掲載誌:Malaysian Journal of Nutrition
ライセンス: 論文に記載なし
甘い飲み物、いわゆる糖類入り飲料(SSB)の飲み過ぎは、肥満や2型糖尿病、心血管疾患など様々な代謝性の病気と関連することが知られています。インドネシアでは特に若者の間でSSBの摂取が増えており、2018年の調査(Riskesdas)では10歳以上の61.3%が毎日SSBを摂取していると報告され、SSBは国内で3番目に多い水分摂取源になっているとされています。約150万人を対象としたメタ分析でも、SSBの摂取量が多いほど2型糖尿病や肥満、冠動脈疾患、脳卒中のリスクが高まる関連が報告されているといいます。330mLのSSB1本に25〜40gもの添加糖が含まれることがあり、これはインドネシア保健省が定める1日の糖摂取上限(50g以下)に対してかなりの割合を占めます。にもかかわらず、この上限についての認知度は低く、国のガイドラインに沿って摂取量を記録できるデジタルツールも少ないという課題がありました。こうした背景から、インドネシアの研究チームがSSBの摂取をモニタリングするスマートフォンアプリ「EduDrink」を開発し、専門家とユーザーによる評価を行った研究を紹介します。
EduDrinkはどう作られ、何を評価したのか
EduDrinkの開発は、研究開発(R&D)の手法に基づき、(1)SSBに関するデータ収集、(2)システムとインターフェースの設計、(3)教育用動画の制作、(4)ユーザビリティ評価、という4段階で進められました。データベースには、地域での聞き取り調査から得た100種類と既存のデータセットから得た100種類、合計約200種類のSSBの情報(種類・量・糖分量・カロリー)が登録され、少なくとも半年ごとに更新することが計画されています。自家製の飲み物については、大さじ(グラム)で砂糖の量を、カップ(mL)で飲料の量を入力できるなど、家庭で使う単位に対応した設計になっている点が特徴です。システムの要件定義にはUML(統一モデリング言語)が用いられ、画面デザインはFigmaで作成、機能の動作確認にはブラックボックステストという手法が使われました。最初のテストでは入力チェックやデータ同期、画面遷移に関する軽微な不具合が10〜12件見つかりましたが、その後2〜3回の修正を経て、すべての機能が想定通りに動作する状態になったとされています。教育用動画は、SSBの定義や分類、成分、体への影響、推奨される摂取量の上限、減らし方などを扱う内容で、視聴を最後まで促すため5分以内に収められ、YouTubeでホスティングしてアプリ内に組み込む形が取られました。
ユーザビリティの評価は、栄養学・情報技術(IT)・医学教育の専門家6名によるフォーカスグループディスカッション(FGD)と、都市部の19〜40歳の利用者58名を対象としたユーザー受容性テスト(UAT)という2段階で行われました。専門家の意見は「ガイドラインとの整合性」「わかりやすいデザイン」「使いやすさ」「分量から糖分量への換算の正確さ」「データの安全性」という5つのテーマに分類され、2名の研究者によるコーディングの一致度は97.4%、Gwetの一致係数(AC)は0.945と、非常に高い一致を示したと報告されています。UATに参加した58名の平均年齢は22±2歳で、体重は平均62.9±16.8kg、身長は159.6±8.3cm、BMI(体格指数)は平均24.6±5.4という値でした。参加者の91.4%は学部生で、栄養状態は「普通」が41.4%、「過体重」が19.0%、「肥満」が39.6%だったとされています。
わかったこと
UATは2025年11月にGoogleフォームを用いて実施され、内容・デザイン・操作の流れに関する17項目を「良い」「まあまあ」「不十分」の3段階で評価してもらいました。全体として受容性は高く、多くの項目で85%以上の参加者が「良い」と回答したとされています。特に評価が高かったのは「情報の妥当性」と「糖分摂取目標のモニタリング機能」で、いずれも96.6%が「良い」と回答(平均スコア2.97±0.18)。教育動画についても94.8%が「良い」と回答し、カロリー情報や一食分の目安表示についても93.1%が「良い」と評価したと報告されています。一方でデザイン面には改善の余地も見られ、「色の組み合わせ」への評価が最も低く77.6%が「良い」(平均2.67±0.54)、「文字サイズ」は81.0%(平均2.74±0.48)、「アプリ全体のデザイン」は84.5%(平均2.79±0.41)にとどまり、文字サイズとデザインについてはそれぞれ1名が「不十分」と回答したとされています。また、性別・年齢・栄養状態による評価の違いを調べたところ、女性は男性より有意に高いスコアをつけていた(p=0.003)一方、年齢(p=0.111)や栄養状態(p=0.740)による有意な差は見られなかったと報告されています。
この研究の位置づけと注意点
著者らは、EduDrinkが世界的に使われているMyFitnessPalのような海外製アプリと異なり、インドネシアでよく飲まれる飲料のデータベースや、家庭で馴染みのある計量単位、国のガイドラインに沿った分類を取り入れている点で、地域に即した実用性を持つと述べています。一方で、いくつかの限界も挙げられています。まず、この研究では長期的な利用継続率や、実際に糖分摂取量が減ったか、健康状態が改善したかは検証されておらず、著者らは今後、無作為化比較試験や追跡調査を通じた検証が必要だとしています。また、参加者の91.4%がメダン市の都市部の学部生に偏っており、農村部の住民や高齢層への一般化には限界があるとされています。家庭での砂糖量の目安(大さじ1杯=15gなど)は、使う道具の大きさや、パームシュガーや練乳といった甘味料の種類によって誤差が生じる可能性があるとも指摘されています。さらに、約200種類にとどまる飲料データベースが地域ごとの飲料の多様性を十分にカバーできていない可能性や、多数のユーザーが同時にアクセスした場合のシステムの安定性がまだ検証されていない点も限界として挙げられています。加えて、専門家によるデータ安全性の評価は専門家の判断に基づくものであり、正式なセキュリティ検査を行ったものではないとされています。男性の受容性が女性より低かった理由については、この研究ではどの機能が影響したかまでは調べられておらず、インタビューなどの追加調査が必要だとされています。
まとめ
この研究では、インドネシアの糖類入り飲料の摂取状況やガイドラインに合わせて設計されたモバイルアプリ「EduDrink」が開発され、専門家評価とユーザー受容性テストを通じて、都市部の若年成人にとって使いやすく実用性のあるツールであることが示されたとされています。ただし、著者ら自身が述べているように、実際の糖分摂取量の減少や健康状態の改善につながるかどうかは今後の比較対照試験などによる検証が必要な段階であり、この研究の結果だけで健康への効果が確立されたわけではない点に留意する必要があります。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):EduDrinkの開発とユーザビリティ評価:インドネシアにおける糖類入り飲料摂取をモニタリングするモバイルアプリ(マレーシアン・ジャーナル・オブ・ニュートリション・2026年08月)
著者:Eka Febriyanti(Department of Nutrition, Faculty of Medicine, Universitas Muhammadiyah Sumatera Utara, Indonesia)、Ratih Yulistika Utami(Medical Education Unit, Faculty of Medicine, Universitas Muhammadiyah Sumatera Utara, Indonesia)、Firahmi Rizky(Faculty of Computer Science and Information Technology, Universitas Muhammadiyah Sumatera Utara, Indonesia)、Febrina Dewi Pratiwi Lingga(Department of Dermatology and Venereology, Faculty of Medicine, Universitas Muhammadiyah Sumatera Utara, Indonesia)、Abusufyan SHAIKH(Head of Pharmacology Department, Anjuman-i-Islam’s Kalsekar Technical Campus, Navi Mumbai, India)