魚は良質なたんぱく源として親しまれる一方、傷みやすい食品でもあります。塩漬けや燻製、乾燥といった昔ながらの保存方法には手間と時間がかかるため、伝統的な市場の一部の売り手が、安価かつ即効性のある「ホルマリン」を鮮度保持のために不正に使ってしまうことが問題になってきました。ホルマリン(ホルムアルデヒドを主成分とする化学物質)は蒸気を吸い込むと呼吸器を刺激し、長期間にわたって摂取すると発がん性や細胞損傷のリスクが指摘されている物質で、インドネシアでは食品添加物としての使用が食品医薬品監督庁の規則により厳しく禁止されています。それでも、スラカルタの伝統市場で調べたところ18検体中8検体からホルマリンが検出されたという先行研究もあり、鮮魚の安全性は依然として解決されていない公衆衛生上の課題とされています。今回紹介する研究は、インドネシア・ムハマディヤ・スラカルタ大学保健学部公衆衛生学専攻のAsti Lathifah氏とWindi Wulandari氏によるもので、鮮魚を扱う市場の商人自身が持つ「ホルマリンについての知識」が、教育水準や営業年数とどう関係しているのかを調べました。

調査の方法と分かったこと

研究チームは、インドネシア・スラカルタ市内にある16の伝統市場(市内を東北・北西・中心部・南東の4エリアに分けたうえで、パサール・グデやパサール・レギなど各エリアの市場が含まれています)で、サバ(ikan kembung)とミルクフィッシュ(ikan bandeng)を売る商人を対象に調査を行いました。通りがかった商人に声をかける「アクシデンタル・サンプリング」という方法で48名の商人から回答を得て、妥当性が検証された質問票(回答者の属性を尋ねる項目と、ホルマリンに関する16問の知識テストからなる)を用いてデータを集め、統計的にはフィッシャーの正確確率検定(有意水準0.05)で分析しています。あわせて、商人が販売していた魚のサンプルについて、試薬を加えたときの色の変化(紫色に変われば陽性、変化がなければ陰性と判定)でホルマリンの有無を調べる検査キットによる検査も行われました。

回答者の内訳を見ると、女性が35名(72.9%)と多数を占め、年齢は41〜50歳が18名(37.5%)と最も多い層でした。教育水準は、高校卒業(SMA)が23名(47.9%)と最多で、無学歴5名(10.4%)、小学校卒9名(18.8%)、中学校卒8名(16.7%)、大学卒3名(6.3%)と続きます。営業年数は「5年以上」が45名(93.8%)と大半を占め、また35名(72.9%)はホルマリンに関する啓発(社会化)を受けた経験が一度もないと回答しました。

知識テストの結果、平均点(12.4点)を基準に「良い」と「不十分」に分けたところ、29名(60.4%)が「良い」、19名(39.6%)が「不十分」と判定されました。教育水準別に見ると、無学歴の回答者は5名全員(100%)が知識「不十分」であったのに対し、高校卒業では23名中20名(87.0%)、大学卒業では3名全員(100%)が知識「良い」と判定されており、この差は統計的に有意でした(p<0.001)。一方、営業年数については、5年以上の商人45名のうち知識「良い」は29名(60.4%)、「不十分」は19名(39.6%)で、5年未満の商人3名は全員が「良い」でしたが、この関連は統計的に有意ではありませんでした(p=0.267)。なお、検査キットで調べた48件の魚サンプルは全て陰性(100%)で、ホルマリンは検出されなかったと報告されています。

論文の考察では、教育水準が高い回答者ほど、ホルマリンを含む魚の特徴(押したときの弾力が硬い、においや身の色の変化、えらの変色など)を正しく答えられる傾向があったとされています。具体的には、質感(押すと硬い)についての正答率は48名中39名(81.25%)、においと身の色についてはそれぞれ34名(70.83%)、えらの変色については32名(66.67%)でした。研究チームは、正規の教育が情報を体系的に処理・吸収する力を養う一方で、営業年数がもたらす経験は、鮮魚の見分け方や在庫管理といった実務的・手続き的な技能にはつながっても、化学物質の危険性についての科学的な知識には直結しにくいのではないかと論じています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、インドネシア・スラカルタ市内の16市場、48名の商人という限られた対象を横断的(ある一時点)に調べたものであり、著者ら自身も、ホルマリンに関する啓発(社会化)を受けたことの有無を要因として今後さらに検討する必要があると今後の課題に挙げています。今回の調査対象者の7割以上が啓発を受けた経験がなかったため、教育水準による知識の差が生じた可能性がある一方で、営業年数の長短にかかわらず啓発機会自体が乏しかったことも影響した可能性があります。また、今回検査した魚のサンプルからはホルマリンが検出されなかった点にも留意が必要で、この結果はあくまで調査時点・調査対象に限った結果であり、他の時期や市場でも同様であるとは限りません。研究チームは、特に教育水準の低い商人を対象とした、構造化された非正規教育プログラムの必要性を指摘しています。

まとめ

インドネシア・スラカルタの伝統市場でサバとミルクフィッシュを扱う商人を対象にした今回の調査では、教育水準がホルマリンに関する知識と統計的に有意に関連していた一方、営業年数の長さは知識との関連が見られなかったと報告されています。著者らは、経験を積むだけでは食品安全に関する知識は自然には身につきにくく、教育機会や啓発活動を継続的に提供することが重要だと述べています。あくまで一つの調査から得られた結果であり、今後さらなる研究の蓄積が望まれます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:サバとミルクフィッシュにおけるホルマリン使用に関する商人の知識と教育水準・営業年数との関連(マラハヤティ・ナーシング・ジャーナル・2026年08月)