著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
中国は世界の耕地と淡水資源のおよそ7%しか持たない一方で、世界人口の約18%を養う必要があります。都市化による耕地や農村労働力の減少、肉や乳製品など多くの土地を必要とする食品への食生活の変化、干ばつや洪水といった極端な気象も、食料の安定確保にとって大きなリスクになっていると著者らは述べています。
これまでの研究の多くは、全国規模の農業の成績か、食料安全保障の特定の側面のどちらかに注目していました。長期的な生産の推移、地域ごとの生産の偏り、輸入への依存を一つの枠組みでまとめて見る分析は十分ではなかったと著者らは指摘しています。そこで研究チームは、中国の穀物自給の現状と課題を総合的に評価し、飢餓の撲滅や持続可能な農業を掲げる国連の持続可能な開発目標2(SDG-2)に中国がどう貢献しうるかを検討しました。
何を調べたか
対象は小麦、米、トウモロコシ、大豆の4つの主要作物です。研究チームはまず全国について、2002年から2021年までの20年間の作付面積、生産量、単位面積当たりの収量(単収)、輸出入量の推移を整理しました。
次に、中国本土の31の省・自治区・直轄市を対象に、2016〜2021年の期間の平均値を比べました。比較したのは作付面積、生産量、単収、1人当たりの生産量です。各省を地理的な位置によって7つの栽培地域に分け、地域ごとの生産能力も比較しています。
主な結果
全国の20年間では、4作物のうちトウモロコシが主要な作物として作付けされてきました。単収が最も高かったのは米で、大豆は作付面積、生産量、単収のいずれも最も小さい結果でした。輸入量は輸出量に比べて変動が大きく、著者らはこの違いについて、政府が輸出を比較的安定して管理していることを示すと解釈しています。2019〜2021年には4作物すべてで輸入量の明らかな増加がみられ、論文はその背景として世界的なパンデミックの影響が考えられるとしています。
省ごとの比較では、生産が少数の中心地に強く集中していることが分かりました。小麦は華北平原の河南省と山東省が中心です。トウモロコシと大豆は東北地方に大きく依存しており、大豆の生産量は黒竜江省が大部分を占めていました。米は長江中下流域の平原と東北地方が支えています。地域別にみると、華中と東北の中心地では生産量のピークが約7000万〜8000万トンに達しました。これに対し、西北は1200万トン未満、西南は2500万トン未満にとどまっていました。
1人当たりの生産量にも地域差がありました。東北の内モンゴル、黒竜江、吉林、遼寧ではトウモロコシが1人当たり600〜1200キログラムでした。河北、河南、山東の小麦は150〜350キログラム、湖北、湖南、江蘇の米は250〜380キログラムでした。大豆は黒竜江省が約220キログラムで、ほかの30の地域はいずれも100キログラム未満でした。
研究が示す意味
著者らは、中国が単収の向上と地域ごとの生産の分業によって、小麦や米といった主食穀物では高い自給を保ってきたと結論づけています。一方で、大豆とトウモロコシの輸入依存は高まっています。論文によると、これは国内の生産力が落ちたためではありません。肉や乳製品の消費が増えて家畜の飼料需要が国内の資源で賄える限界を超えたことによる、構造的な課題だと位置づけられています。
また、生産が一部の省に集中していることから、著者らはこれらの中心地の農業の強さを保つことが国全体の食料安定に欠かせないと強調しています。この研究は、主食の自給という成果と、飼料穀物の輸入依存や地域的な偏りという課題が同時に存在する、中国の食料事情の全体像を示すものといえます。
原著論文の著者・所属:Xue Li(Agricultural Product Processing Institute, Chongqing Academy of Agricultural Science, Chongqing 401329, China)、Simiao Wu(College of Food Science and Engineering, Nanjing University of Finance and Economics/Collaborative Innovation Center for Modern Grain Circulation and Safety/State Key Laboratory Incubation and Development Base for Grain Quality Safety and Nutritional Health, Nanjing 210023, China)、Jingbing Xu(Chongqing Institute for Food and Drug Control, Chongqing 401121, China)、Xinyang Sun(College of Food Science and Engineering, Nanjing University of Finance and Economics/Collaborative Innovation Center for Modern Grain Circulation and Safety/State Key Laboratory Incubation and Development Base for Grain Quality Safety and Nutritional Health, Nanjing 210023, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xue Li, Simiao Wu, Jingbing Xu, et al. Assessing China’s Grain Self-Sufficiency Through National and Provincial Production Dynamics: Implications for Food Security and SDG-2. Foods 2026-10-21. DOI: 10.3390/foods15203759. 原著ライセンス:CC BY.