著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
発芽だけでは足りない成分の増加を電気処理で補う
ひよこ豆は、タンパク質や食物繊維などの栄養素に加え、フラボノイドやポリフェノールといった植物由来の成分を多く含む豆です。一方で、豆類にはフィチン酸やタンニンなど、栄養の吸収を妨げる「反栄養因子」も含まれています。発芽させるとこうした因子が減り、フラボノイドが増えることが知られていますが、研究チームは、発芽だけで有用成分を増やすことには限界があると考えました。
そこで著者らが注目したのが、パルス電界(PEF)処理です。PEFは、短い電気パルスを繰り返し与える、加熱を伴わない物理的な処理です。適度な強さなら、植物の細胞膜に一時的な小さな穴を開けたり、軽いストレスを与えたりして、植物の防御反応を引き起こすと考えられています。トマトやニンジンなどでは、PEFによってフェノール類やフラボノイドが増えたという報告があります。しかし、ひよこ豆での最適な処理条件や、フラボノイドが増える仕組みはまだ分かっていませんでした。
研究チームは、適切なPEF処理が発芽中のひよこ豆に穏やかな刺激として働き、フラボノイドを作る代謝経路(フェニルプロパノイド経路)と、活性酸素を処理する抗酸化の仕組みを活発にする、という仮説を立てました。そのうえで、処理条件を最適化し、この仮説を酵素の働きと遺伝子の働きの両面から確かめることを目的としました。
処理のタイミングと電気の条件を探る
研究では「Pinying No. 1」という品種のひよこ豆のスプラウトを対象にしました。まず、乾いた種子、浸水12時間、発芽12時間・24時間・48時間の5つの段階でPEF処理を行い、どの時点で処理するとフラボノイドが最も増えるかを比べました。その結果、種子を水に12時間浸した時点で処理した場合に、総フラボノイド量が最も多くなりました。さらに発芽時間を変えて調べたところ、浸水12時間を含めて84時間育てた場合に、総フラボノイド量が乾燥重量1グラムあたり2825.87マイクログラムと最も高くなりました。
次に、処理時間、電圧、周波数を一つずつ変えて調べました。いずれの条件でも、値を変えていくとフラボノイド量はいったん増え、その後は横ばいになる傾向がありました。そのうえで、複数の条件の組み合わせとその効果の関係を統計モデルで探る「応答曲面法」を使い、三つの条件とフラボノイド量の関係を表す式を作りました。著者らは、このモデルが実験データによく当てはまったと報告しています。また、電圧は単純に高いほどよいわけではなく、ある範囲を境に効果が変わるような、非直線的な影響を持つと考察しています。
フラボノイドの増加と抗酸化系の変化
最適化した条件でPEF処理したスプラウトでは、総フェノール量が乾燥重量1グラムあたり2626.71マイクログラムに達しました。これは、PEF処理をせずに通常どおり発芽させたスプラウトの1.49倍でした。論文は、適切な条件のPEF処理によって、総フラボノイド量と総フェノール量の蓄積が有意に促されたと報告しています。
細胞へのダメージの目安も調べられました。発芽72時間の時点で、PEF処理したスプラウトでは、細胞膜が酸化して傷ついた度合いを示す物質(MDA)が対照の78.89%、活性酸素の一種であるスーパーオキシドが74.68%、過酸化水素が64.56%と、いずれも対照より少なくなりました。著者らは、電気刺激を与えたにもかかわらず活性酸素の大量の蓄積は見られず、むしろ通常の発芽より低い値だったと述べています。
活性酸素を分解する4種類の抗酸化酵素(APX、SOD、POD、CAT)の働きは、発芽72時間で対照の1.08〜1.21倍に高まりました。フラボノイド合成に関わる酵素の働きも、発芽が進むにつれて上昇しました。遺伝子の働きを調べると、フラボノイド合成につながる代謝経路の主要な遺伝子のうち、Ca4CL、CaC4H、CaCHI1A、CaCHSの発現が対照のそれぞれ2.97倍、1.16倍、1.69倍、1.49倍に高まっていました。一方、CaPALとCaHIDでは対照との差は見られませんでした。抗酸化酵素の遺伝子についても発現の上昇が報告されていますが、CaSODでは対照との差がありませんでした。
研究が示したこと
論文は、PEF処理を組み合わせた発芽が、フラボノイドを多く含むひよこ豆スプラウトを作るための有効な非加熱の手法であると結論づけています。成分量だけでなく、代謝経路の酵素や遺伝子、抗酸化系の変化まで合わせて調べ、電気刺激による変化を複数の面からとらえた点が、この研究の特徴です。
ただし著者らは、細胞膜に一時的な穴が開くという仕組みについては、電気伝導度の測定や顕微鏡観察で直接確かめてはいないことを認めています。この研究は、適切な条件の電気刺激が発芽中のひよこ豆の代謝の変化を伴って有用成分の蓄積につながりうることを、条件の最適化と生化学的な分析によって示したものです。
原著論文の著者・所属:Fuhao Wang(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 210095, China)、Jiyuan Xue(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 210095, China)、Xiangli Ding(College of Tourism and Culinary Science, Yangzhou University, Yangzhou 210095, China)、Jianhua Tang(College of Tourism and Culinary Science, Yangzhou University, Yangzhou 210095, China)、Yongqi Yin(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 210095, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fuhao Wang, Jiyuan Xue, Xiangli Ding, et al. Pulsed Electric Field Enhances Flavonoid Accumulation and Antioxidant Capacity in Chickpea Sprouts by Activating the Phenylpropanoid Pathway and Antioxidant System. Foods 2026-10-21. DOI: 10.3390/foods15203750. 原著ライセンス:CC BY.