著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
遺伝子組み換え(GM)大豆は、世界で栽培されるGM作物の作付面積のおよそ半分を占めます。著者らの推計では、世界の大豆の約8割が油の生産に回されています。そのため、食品表示などの規制を運用するうえで、大豆油がGM大豆に由来するかを調べる検査は重要です。こうした検査では、特異性が高く比較的安定なDNAを手がかりにする方法が古典的な手法とされています。ただし、検査の成否は油に残るDNAの量と状態に大きく左右されます。
これまでの研究では、油の精製の最初の工程である「脱ガム」でDNAがほぼ取り除かれることが示されてきました。脱ガムとは、粗油に水や酸、酵素を加え、リン脂質などの不純物を沈殿させて除く工程です。一方で、従来の研究の多くは約100塩基対(bp)という短いDNA断片が検出できるかどうかを見ていました。そのため、各工程でどれだけのDNAが残り、どの程度まで細かく切断されるのかは分かっていませんでした。脱ガムの方法の違いによって油に残るDNA量が変わるのかも、比較されていませんでした。
そこで研究チームは、製造工程のどこでDNAが失われ、各段階でどこまで分解されるのかを明らかにしようとしました。あわせて、精製油で検出可能なDNA断片の長さと、脱ガム法の違いによる影響も調べました。
何を調べたか
研究チームは、二つの大豆油工場の製造ラインから試料を集めました。原料はブラジルから輸入された大豆で、除草剤耐性を与えるcp4 epsps遺伝子を持つGM大豆であることを事前に確認しています。採取した試料は、原料の種子から、外皮、圧ぺん(薄く押しつぶす工程)や押し出し加工を経た大豆、油を搾った後の脱脂粕、粗油までの抽出段階のものです。さらに、脱ガム・脱酸・脱色・脱臭を経た精製段階の油も集めました。
各試料について、含まれるDNAの量を測りました。また、大豆のレクチン遺伝子と、組み換えで導入されたcp4 epsps遺伝子を対象に、長さの異なるDNA断片をPCRで増幅しました。PCRは、特定のDNA配列を増やして検出する方法です。どの長さまでの断片が増幅できるかを見ることで、DNAがどの程度切断されているかを推し量ることができます。さらに、一方の工場の粗油を使い、水和脱ガム・酸脱ガム・酵素脱ガムの三つの方法を実験室規模で比較しました。
主な結果
DNAは工程を追って少しずつ減るのではなく、主に二つの段階で大きく減っていました。一つ目は、押し出し加工した大豆から溶剤で油を抽出する段階です。DNAの大部分は脱脂粕の側にとどまり、粗油に移ったのはごく一部でした。DNA濃度は、押し出し加工後の大豆で1グラムあたり約325万〜338万ナノグラムだったのに対し、粗油では約166〜201ナノグラムでした。著者らは、DNAが水に溶けやすく油に溶けにくい性質をもつことが、この減少の主な要因だと考察しています。
二つ目は脱ガムの段階です。粗油に含まれていたDNAの多くは、水になじみやすくなったリン脂質とともに沈殿物の側へ移りました。その結果、脱ガム後の油のDNA濃度は1グラムあたり約0.69〜0.74ナノグラムまで下がりました。以前の研究では脱ガム油からDNAが完全に除かれると報告されていましたが、本研究の結果は、DNAが大きく減るものの、ゼロにはならないことを示しています。脱ガム以降の脱酸・脱色・脱臭の油では、DNA濃度に有意な差は見られず、きわめて低い水準が続きました。
実験室での脱ガム法の比較では、リン脂質を除く効率が酵素法、酸法、水和法の順に高いことが分かりました。DNAを除く効率も同じ順でした。著者らは、この一致から、油に残るDNAはリン脂質とともに移動していると解釈しています。
DNA断片の長さについても結果が得られました。押し出し加工の後でも、1589 bpのレクチン遺伝子断片と2070 bpのcp4 epsps遺伝子断片は壊れずに検出されました。しかし、長い断片は溶剤抽出の段階で分解され、脱臭の段階でさらに分解が進みました。最終的な脱臭油では、232 bpと160 bpのレクチン断片、169 bpと158 bpのcp4 epsps断片は増幅できました。一方、438 bpのレクチン断片と370 bpのcp4 epsps断片は増幅できませんでした。
研究が示すこと
著者らは、精製された大豆油のGM検査には、200 bp未満の短い断片を対象にすべきだと結論づけています。また、長い断片が増幅できなかったことを、GM原料が含まれていない証拠とみなすことはできないと述べています。脱脂粕や粗油ではDNAが多く長い断片も残るため、検査は比較的容易です。これに対して完全に精製された油では、DNAがごく微量で分解も進んでいるため、検出の難度がずっと高くなります。
データは実際に稼働する二つの工場の工程から得られており、市販の油にそのまま当てはまる知見だと著者らは位置づけています。ただし、脱ガム法の比較は実験室規模で行われたもので、工業的な精製条件での確認はまだ必要だとしています。この研究は、加工された大豆油を検査・規制する際に、DNAがどこでどれだけ失われるかを理解する手がかりを与えています。
原著論文の著者・所属:Yimiao Xia(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China; National Engineering Research Center of Wheat and Corn Further Processing, Zhengzhou 450001, China)、Mengru Guo(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Shengwen Cui(School of Food and Biological Engineering, Luohe Food Engineering Vocational University, Luohe 462001, China)、Boye Liu(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Yu Chen(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)、Fusheng Chen(College of Food Science and Engineering, Henan University of Technology, Zhengzhou 450001, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yimiao Xia, Mengru Guo, Shengwen Cui, et al. The Fate and Degradation of Genetically Modified Soybean DNA Along the Soybean Oil Processing Chain: Quantitative Tracking and Comparison of Degumming Methods. Foods 2026-10-19. DOI: 10.3390/foods15203718. 原著ライセンス:CC BY.