著者の所属・活動拠点の国は、ギリシャです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

米ぬかの未活用成分に着目した研究の目的

米ぬかは精米で出る主な副産物で、もみ米の重さの約8〜10%を占めます。論文によると、米ぬかにはフェルラ酸やp-クマル酸といった「ヒドロキシケイ皮酸」と呼ばれる抗酸化性の成分が比較的多く含まれています。それでも米ぬかの多くは、家畜飼料などの価値の低い用途にとどまっています。

これらの酸の多くは、細胞壁の多糖類とエステル結合という形でつながっています。そのため、効率よく取り出すには結合を切り離す処理が必要です。著者らによると、米ぬか成分を微小な粒子に閉じ込める研究は、これまで主に油に溶ける成分に集中していました。キトサンを粒子の本体として米ぬかのフェノール成分を包む試みは、これまで報告されていなかったといいます。アルカリ処理で解放した結合型のヒドロキシケイ皮酸をナノサイズで包む試みも同様です。

そこで研究チームは、フェルラ酸とp-クマル酸を多く含む米ぬか抽出物をキトサンのナノ粒子に封入しました。そのうえで、粒子の物理化学的な性質と抗酸化活性を調べました。さらに、試験管内で消化を模した条件での「バイオアクセシビリティ」も評価しました。バイオアクセシビリティとは、消化の過程で食品から放出され、吸収されうる状態になる割合のことです。実際に体内へ吸収される量とは異なります。

抽出方法の比較とナノ粒子の作製

研究チームはまず、米ぬかからフェノール成分を取り出す三つの方法を比べました。水とエタノールで遊離した成分を取り出す抽出、酸による加水分解、アルカリによる加水分解です。総フェノール量が最も多かったのは、アルカリ加水分解で得た抽出物でした。その量は米ぬか1グラムあたり没食子酸換算で4.58ミリグラムで、水エタノール抽出物の約1.4倍、酸加水分解抽出物の約3.5倍にあたります。個別の成分で見ると、アルカリ抽出物には酸加水分解抽出物に比べてフェルラ酸が約9倍、p-クマル酸が約23倍多く含まれていました。一方、水エタノール抽出物では、この二つの酸は定量できる量を下回っていました。

選ばれたアルカリ抽出物は、「イオンゲル化」という方法でナノ粒子に封入されました。これは、抽出物を混ぜたキトサン溶液にトリポリリン酸という架橋剤を加えて、粒子を形づくる方法です。比較対照として、市販のフェルラ酸とp-クマル酸を抽出物と同じ組成になるよう混ぜた合成混合物も用意し、同じ条件で封入しました。目的の二つの酸のふるまいと、抽出物に一緒に含まれるほかの成分の影響を見分けるためです。

粒子の性質と抗酸化活性

論文によると、ナノサイズを保てた最も高い配合量は、最終製剤1ミリリットルあたり没食子酸換算1.5ミリグラムでした。この配合で作った粒子は大きさのそろった単一の分布を示し、強い正の電荷を帯びていました。この電荷は、抽出物を封入した後も保たれていました。電子顕微鏡では、光散乱測定の結果と合う大きさの、互いに離れた粒子が観察されました。一方、抽出物を含まない空の粒子は乾燥時に融合しました。赤外分光、X線回折、熱重量分析の結果は、次の三点を示すものでした。成分が粒子内に取り込まれたこと、キトサン単体より結晶性が低下したこと、熱による分解の様子が変化したことです。

成分を粒子に封入できた割合は、合成混合物のほうが抽出物より高くなりました。著者らはこれを、抽出物に含まれるほかの成分が封入を妨げている可能性を示すものと解釈しています。ただし、どの成分が関わっているかは特定されていません。抗酸化活性については、フェノール量あたりの還元能力が封入前の抽出物と同程度でした。このことから研究チームは、封入によって酸そのものの活性は損なわれなかったと結論づけています。

模擬消化で見えた違いと、その意味

口、胃、小腸の段階を模した試験管内の消化試験では、どの段階でも、ナノ粒子に封入した抽出物のほうが封入しない抽出物より高い回収率を示しました。差が最もはっきりしたのは小腸の段階です。p-クマル酸の回収率は、封入した場合が24.2%、封入しない場合が5.8%でした。フェルラ酸では22.1%と5.4%で、どちらも約4倍の差がありました。

一方で著者らは、各段階の回収率には、粒子からの放出と消化液中での分解の両方が反映されていると説明しています。そのため、この結果だけでは、分解から守られたのか、放出のされ方が変わったのか、あるいはその両方なのかは区別できていません。また、この研究は試験管内でのバイオアクセシビリティの評価に限られています。腸での吸収を確かめるには、透過性試験や生体を使った検討が必要だとしています。

こうした範囲の中で、この研究は、米ぬかから取り出したヒドロキシケイ皮酸を、活性を保ったままキトサンのナノ粒子に包めることを示しました。米ぬかは飼料などに回されがちな副産物です。模擬的な腸の段階でより多く回収できたという報告とあわせて、この研究は、米ぬかを有効に活かすための一つの手段となりうることを示しています。

原著論文の著者・所属:Georgia Lazaridou(Laboratory of Food Chemistry & Technology, School of Chemistry, Aristotle University of Thessaloniki, 54124 Thessaloniki, Greece)、Nikolaos Nenadis(Laboratory of Food Chemistry & Technology, School of Chemistry, Aristotle University of Thessaloniki, 54124 Thessaloniki, Greece; Natural Products Research Centre of Excellence-AUTH (NatPro-AUTH), Center for Interdisciplinary Research and Innovation (CIRI-AUTH), 57001 Thessaloniki, Greece)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Georgia Lazaridou, Nikolaos Nenadis. Chitosan Nanoparticles Loaded with Alkaline-Released Rice Bran Hydroxycinnamic Acids: Physicochemical Characterisation, Antioxidant Activity and In Vitro Bioaccessibility. Foods 2026-10-21. DOI: 10.3390/foods15203745. 原著ライセンス:CC BY.