著者の所属・活動拠点の国は、デンマーク、スペイン、ドイツです。

掲載誌:Food Chemistry

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

緑の小麦を焼いた伝統食品の「風味」に迫る

フリーケ(Freekeh)は、デュラム小麦を完全に熟す前の緑色の段階で収穫し、穂ごと火であぶって焙煎・燻煙してから脱穀する穀物食品です。論文によると、その製法は聖書にも記述が見られるほど古いものです。また、早く収穫したフリーケは、通常のデュラム小麦と比べて1キロあたり約3倍の収益が得られるとされています。

一方で、消費者の受け入れや好みを大きく左右する「風味」については、これまで包括的には調べられていませんでした。研究チームは、フリーケの風味と、それが栽培や加工のやり方によってどう形づくられるかを、初めて包括的に調べたと報告しています。チームは仮説を立てて検証しました。その仮説とは、フリーケの香りと味は原料と加工方法の相互作用から生まれる多数の成分の混合物であり、主に「収穫時期」「焙煎の強さ」「植物の遺伝的背景(品種)」の3つに影響される、というものです。

市販品と試作品を、機器分析と人の感覚の両面から調べる

研究チームは、パレスチナ、イスラエル、トルコの市販品5種類に加えて、条件を変えた試作品を自ら製造しました。試作の標準条件では、デュラム小麦の品種「C-9」を決まった生育段階で手刈りし、回転ドラムの中でガスバーナーを使って3分間あぶりました。そこから収穫時期、焙煎時間(0〜4.5分)、品種などを一つずつ変えて比較しています。デュラム小麦の別品種や在来品種のほか、オーツ麦や大麦などほかの穀物でも、それぞれ単独で同じ条件のフリーケを作りました。

香りについては、食品から立ちのぼる揮発性成分をガスクロマトグラフィー質量分析で調べました。あわせて、装置で分離した成分を人が直接かいで確かめる方法も用いました。さらに、穂の各部位を高温で熱分解し、燻煙の香りのもとがどこから生じるかも調べています。味については、甘味・うま味・酸味に関わる糖、アミノ酸、有機酸を測定しました。また、濃厚さや広がりの感覚である「コク味」に関わるペプチドも測っています。訓練を受けた評価者が香りや味を言葉ごとに採点する官能評価も行い、その結果を統計モデルで成分データと結びつけました。

主な結果:燻煙香は穂の殻から、品種で風味が大きく変わる

市販品5種類からは、合計303種の揮発性成分が検出されました。研究チームはこれらを、もともと小麦の穀粒にある成分と、焙煎や熱分解で新たに生じる成分の混合物だと報告しています。後者には、燻煙を思わせるフェノール類のほか、糖とアミノ酸が加熱で反応する「メイラード反応」の生成物や、カラメル化の生成物が含まれます。同じ製品の3年分を比べると香りの特徴はまとまっており、生産年の影響は比較的小さいことが示されました。味に関わる成分としては、うま味を高めることが知られる核酸関連物質(AMPなど)も検出されました。

官能評価の言葉と成分の結びつきも示されました。「キノコ」の香りは、キノコらしい香りで知られる炭素数8の揮発性成分などと関連していました。「スモーキー」な風味は、フェノール類やピラジン類(焙煎香の成分)などと強く関連していました。評価者が感じた「海藻・緑茶」のような香りは、青葉のような香りをもつアルデヒド類などと結びついていました。その中には、海藻や緑茶の海藻のような香りに寄与すると報告されている成分と同じものも複数含まれていました。

燻煙の香りのもとを探る実験では、穂の芒(のぎ)や穎(えい)と呼ばれる殻の部分がフェノール類の豊富な供給源であることが分かりました。穀粒そのものの寄与はわずかでした。生じるフェノールの種類は、各部位の細胞壁を構成するリグニンの組成とおおむね対応していました。研究チームは、殻を除いた穀粒だけを加工すると典型的な燻煙香が損なわれるおそれがあると指摘しています。

品種による違いもはっきり現れました。「C-9」から作ったフリーケは、スモーキーさ、海藻・緑茶の香り、うま味が強く評価されました。一方、ほかの品種では缶詰のコーンのような香りやビスケットのような風味が高く評価されました。在来品種は、近代品種の強い焦げた香りとは異なる、穏やかな風味を示したと報告されています。コク味に関わるペプチドの量も、品種によって差がありました。

風味を左右する要因を見える形に

この研究は、フリーケの風味が品種や収穫・加工のしかたによって形づくられることを、成分と人の感覚の両面から示しました。研究チームはこの成果を、生産者が品質をそろえ、消費者の求めに合わせて風味を調整するための道しるべと位置づけています。

さらに著者らは、うま味、コク味、燻煙香、肉のような風味をあわせ持つ点から、フリーケは植物性の食事、とくに肉の代替品の原料として有望だという見方を示しています。穀物製品ではあまり結びつけられてこなかった風味が、伝統的な製法の中に潜んでいることを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Alon Cna'ani(Section for Design and Consumer Behavior, Department of Food Sciences, University of Copenhagen, Frederiksberg, 1958, Denmark)、Eva Louisa Scharling(Section for Design and Consumer Behavior, Department of Food Sciences, University of Copenhagen, Frederiksberg, 1958, Denmark)、Sabrina Krogh Hjerrild(Section for Design and Consumer Behavior, Department of Food Sciences, University of Copenhagen, Frederiksberg, 1958, Denmark)、Qian Li(Section for Food Analytics and Biotechnology, Department of Food Sciences, University of Copenhagen, Frederiksberg, 1958, Denmark)、Zsuzsa Sárossy(Department of Chemical and Biochemical Engineering, Technical University of Denmark, Lyngby, 2800, Denmark)、Magdalena Wrona(Department of Analytical Chemistry, Aragón Institute of Engineering Research I3A, EINA, Campus Rio Ebro, University of Zaragoza, Spain)、Markus Pauly(Institute for Plant Cell Biology and Biotechnology, Heinrich-Heine-University Düsseldorf, Düsseldorf, 40225, Germany)、Åsmund Rinnan(Section for Ingredient and Dairy Technology, Department of Food Sciences, University of Copenhagen, Frederiksberg, 1958, Denmark)、René Lametsch(Section for Food Analytics and Biotechnology, Department of Food Sciences, University of Copenhagen, Frederiksberg, 1958, Denmark)、Cristina Nerin(Department of Analytical Chemistry, Aragón Institute of Engineering Research I3A, EINA, Campus Rio Ebro, University of Zaragoza, Spain)、Michael Bom Frøst(Section for Design and Consumer Behavior, Department of Food Sciences, University of Copenhagen, Frederiksberg, 1958, Denmark. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Alon Cna'ani, Eva Louisa Scharling, Sabrina Krogh Hjerrild, et al. The first comprehensive analysis of the flavor of Freekeh: a toasted, smoked, green durum wheat product, by analytical and sensory approaches. Food Chemistry 2026-10-12. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.151571. 原著ライセンス:CC BY.