著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:伝統菓子を海外の消費者はどう受け止めるか
薬菓(ヤックァ)は、小麦粉の生地にごま油と蜂蜜や穀物シロップを練り込み、油で揚げてからシロップに浸して作る韓国の伝統菓子です。名前は「薬」と「菓子」を組み合わせたもので、ごま油や蜂蜜など体によいと考えられてきた材料を使う貴重な菓子とされてきました。祝日や祭祀、さまざまな儀礼の場で用いられ、韓国の食文化を代表する食べ物のひとつとされています。
著者らは、伝統食品を海外に広めるには、相手国の消費者の文化的背景や食経験を考慮する必要があると指摘しています。なじみのある味や香り、食感は文化によって異なり、同じ食品でも受け止め方が変わりうるためです。実際に先行研究では、薬菓について韓国の消費者はしっとりまとまった食感を好み、日本やフランスの消費者は層状でサクサクした食感を比較的好んだと報告されています。
この研究は、ベトナム人消費者を対象に、韓国で市販されている薬菓の感じ方と好ましさを調べたものです。目的は、ベトナム人消費者向けの薬菓の製品差別化や品質改善の方向性を探り、韓国のデザート製品が海外市場へ展開するための基礎資料を得ることでした。
何をどのように調べたか
著者らはまず、韓国国内のオンラインショップや大型スーパー、菓子専門ブランドで販売されている薬菓12製品を購入しました。そこから、大量生産品、小規模な生産者による手作り品、伝統的な薬菓を現代風にアレンジしたフュージョン品、層状の構造をもたせる製法で作られた製品の4タイプについて、それぞれ1製品を選びました。選定にあたっては、オンライン上の口コミに基づく人気や、オンラインで購入できるかどうかを考慮しています。
評価に参加したのは、評価時に韓国で生活または留学していた18〜29歳のベトナム人女性で、ソウルの1つの大学で募集されました。参加者は4製品を試食し、全体的な好ましさのほか、外観、色、香り、風味、食感、甘さなどの好ましさ、また「また食べたいか」「人に勧めたいか」「なじみがあるか」を9段階で評価しました。
あわせて用いられたのが、CATA(Check-All-That-Apply)と呼ばれる方法です。これは、試食後に用意された言葉のリストから、その製品に当てはまると思うものをすべて選んでもらう方式で、専門的な訓練を受けていない一般の消費者でも参加しやすいのが特徴です。著者らは、各表現が選ばれた割合を製品間で比べるとともに、多くの変数の関係を一枚の図にまとめる統計手法を使って、感覚的な特徴と好ましさの評価との関係を整理しました。
主な結果:製品ごとに異なる特徴と、共通する「伝統」のイメージ
CATAの結果から、参加者は4つの製品を異なる感覚的特徴をもつものとして捉えていたことが示されました。たとえば、ある製品は「甘い味」が選ばれた割合が最も高く(53.85%)、別の製品は香ばしい風味や油っぽい風味が比較的多く選ばれ、「サクサク」「乾いてざらざら」も他の製品より有意に多く選ばれました。フュージョン品では、「塩味」や「ハーブのような風味」が他の製品より有意に多く選ばれ、生姜の香りも一部の製品より多く選ばれています。著者らは、製品の違いが主に色、スパイス系の香り、甘さに関わる特徴、食感によって生じていたとまとめています。
一方で、「伝統的なお菓子らしいイメージ」は4製品すべてで比較的高い割合(52.88〜62.50%)で選ばれ、フュージョン品を含めて製品間に有意な差は見られませんでした。著者らは、参加者が感覚的な違いにかかわらず、薬菓を伝統と強く結びついた食べ物として捉えていたことを示すと解釈しています。
感覚的特徴と好ましさの関係を整理した分析では、全体的な好ましさや「また食べたい」「勧めたい」といった評価項目が互いに近い位置にまとまりました。そして、甘い味、蜂蜜や米のシロップの香り、香ばしさ、明るい色、やわらかさ、もちもちした食感などは、これらの評価項目と同じ側に位置していました。反対側には、濃い色、塩味、ハーブの風味、生姜やシナモンの香りと風味、硬さ、乾いたざらつき、古い油のにおいなどが位置していました。4製品のうち2製品は好ましさの評価項目に近い位置にあり、残りの2製品は、一方がスパイス系の特徴と強すぎる甘さ、もう一方が硬く乾いて油っぽい特徴という、それぞれ異なる特徴によって好ましさの評価項目から離れた位置にありました。
この研究が示すこと
著者らは、この分析はあくまで変数どうしの相対的な関連を示すもので、特定の感覚的特徴が好ましさを直接高めたと解釈すべきではないと強調しています。香ばしい香りや風味、米のシロップの風味、蜂蜜の香り、やわらかくもちもちした食感などは、製品開発に向けてさらに調べる価値のある特徴とされていますが、これらを変えたり、油っぽさやスパイスの強さを抑えたりすることで受け入れられやすくなるかどうかは確かめられていません。
また、参加者は韓国在住の若いベトナム人女性に限られており、韓国の食文化に触れてきた経験が評価に影響した可能性があります。参加者の約4割にあたる42人は薬菓を食べたことがありませんでした。そのため著者らは、結果を今回の参加者に特有の探索的なものと位置づけ、ベトナム人消費者全体、特にベトナム在住の消費者に一般化したり、ベトナム市場での受け入れを予測したりするものではないとしています。
そのうえで著者らは、今回の参加者における薬菓への反応は、ひとつの特徴だけでなく、味や香り、食感、製品のイメージといった複数の要素との関連を反映している可能性があると述べています。この研究は、韓国在住の若いベトナム人女性が薬菓のどのような感覚的特徴を好ましさと結びつけて受け止めたかについて、初期的な手がかりを示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Juyoun Lee(Department of Food and Nutrition, Duksung Women’s University, 33 Samyang-ro, Seoul 01369, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Juyoun Lee. Sensory Characteristics and Consumer Acceptance of Commercial Yakgwa, a Traditional Korean Dessert, Among Vietnamese Consumers: A Check-All-That-Apply (CATA) Approach. Foods 2026-10-15. DOI: 10.3390/foods15203654. 原著ライセンス:CC BY.