著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:PLoS ONE

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

米国では果物や野菜を十分に食べていない人が多く、特に若い世代やアフリカ系米国人、食料の確保が不安定な人々でその傾向が強いと指摘されています。歴史的黒人大学(HBCU)は、主にアフリカ系米国人の教育を担ってきた大学です。著者らによると、HBCUの学生は栄養教育の不足、身近な食料品店の少なさ、生鮮品の価格の高さといった壁に直面しやすいといいます。

こうした課題への対策として注目されているのが「青果処方(プロデュース・プリスクリプション)」です。食事に関わる健康リスクのある人に、果物や野菜そのもの、またはその購入券を提供する取り組みを指します。ただし、これまでの実施例の多くは地域や医療の現場で行われてきました。大学、特にHBCUの学生に焦点を当てた研究は限られていました。

そこで研究チームは、HBCUの学生向けに調整した青果処方プログラムが果物・野菜の摂取にどのような影響を与えるかを調べる予備的な研究(パイロット研究)を行いました。研究チームの仮説は、栄養教育や料理実演に加えて青果の提供を受けた学生のほうが、教育と実演だけの学生よりも12週間で摂取が増える、というものでした。

どのように調べたか

研究は、テキサス州にある中規模のHBCUで行われました。対象は18歳以上の学生で、食料の確保が不安定だと判定された人、または糖尿病予備群、糖尿病、高血圧、肥満・過体重の診断を受けた人です。参加者は55人で、平均年齢は約24歳、大半が女性でした。

参加者は、青果を受け取る介入群28人と、受け取らない対照群27人に分けられました。分け方はくじ引きのような無作為割り付けではありません。日程の都合や参加の意向、配布の実務上の事情に基づいて決められました。このような設計は「準実験」と呼ばれ、現実の大学環境で実施しやすい反面、群の違いを厳密に比べるには限界があります。

介入群は12週間、2週間ごとに大学内の受け取り場所で青果の袋を受け取りました。袋の中身は、開始時に管理栄養士と一対一で話し合い、各自の好みや食事の目標に合わせて選ばれました。レシピカードや下ごしらえのコツも同封されました。介入群は栄養教育3回と料理実演5回にも参加し、文化的になじみのある料理も取り上げられました。対照群は青果を受け取りませんが、同じ栄養教育と料理実演に参加できました。

摂取量の変化は、10項目の簡易質問票で評価しました。果物、100%果汁、葉物野菜、調理した豆、揚げていないその他の野菜、トマトソースなどについて、どのくらいの頻度で食べているかを開始時と12週後に比べています。

主な結果

開始時点では、10の食品項目すべてで両群の食べる頻度に統計的に意味のある差はなく、両群はおおむね同じような食習慣だったと報告されています。

12週後に両群を比べると、統計的に意味のある差が見られたのは調理した豆だけでした。介入群のほうが豆を食べる頻度が高かったと報告されています。揚げていないその他の野菜も介入群で多い傾向がありましたが、統計的に意味のある水準にはわずかに届きませんでした。

各群の中で開始時と12週後を比べると、介入群では100%果汁、果物、葉物野菜、調理した豆、その他の野菜、トマトソースの6項目で摂取頻度が有意に増えていました。たとえば、豆を「まったく食べない」と答えた人は12人から2人に減りました。一方、対照群でも葉物野菜の摂取は有意に増えていました。

著者らは、介入群で多くの好ましい変化が見られたものの、対照群にも改善があり、12週後の群間差も豆以外はほとんど有意ではなかったと述べています。そのため、観察された変化のすべてを青果の提供だけによるものとは言えず、慎重に解釈すべきだとしています。

この研究が示すこと

著者らは、群間の差が小さかった理由として、次の点を挙げています。期間が短く提供量も限られていたこと、両群が同じ栄養教育を受けていたこと、参加者が少なかったこと、そして大学生活に特有の時間や調理設備の制約です。多くの項目を個別に検定しているため、結果は仮説を生み出す段階のものとして扱うべきだともしています。

そのうえで研究チームは、大学での青果処方プログラムは実施できる可能性があり、食料確保が不安定な学生の食生活を支える見込みがあるという示唆にとどめています。影響をより厳密に確かめるには、より大規模で十分に管理され、期間の長い研究が必要だとも述べています。また、なじみがあり手頃で使いやすい豆の摂取が増えたことから、文化的に親しみのある実用的な食品を重視することが、HBCUで食を通じた健康づくりを進める入り口になりうると論文は示唆しています。

原著論文の著者・所属:Janet Antwi(Department of Agriculture, Nutrition and Human Ecology, College of Agriculture, Food and Natural Resources, Prairie View A&M University, Prairie View, Texas, United States of America)、Redeemer Kofi Agbolegbe(Department of Agriculture, Nutrition and Human Ecology, College of Agriculture, Food and Natural Resources, Prairie View A&M University, Prairie View, Texas, United States of America)、Obed Akwaa Harrison(Department of Agriculture, Nutrition and Human Ecology, College of Agriculture, Food and Natural Resources, Prairie View A&M University, Prairie View, Texas, United States of America)、Kenneth Ofori-Panyin(Department of Agriculture, Nutrition and Human Ecology, College of Agriculture, Food and Natural Resources, Prairie View A&M University, Prairie View, Texas, United States of America)、Prince Dunyo(Department of Agriculture, Nutrition and Human Ecology, College of Agriculture, Food and Natural Resources, Prairie View A&M University, Prairie View, Texas, United States of America)、Mercedes Udodirim Guimaraes(Department of Agriculture, Nutrition and Human Ecology, College of Agriculture, Food and Natural Resources, Prairie View A&M University, Prairie View, Texas, United States of America)、Nora Bosio Onyeani(Department of Agriculture, Nutrition and Human Ecology, College of Agriculture, Food and Natural Resources, Prairie View A&M University, Prairie View, Texas, United States of America)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Janet Antwi, Redeemer Kofi Agbolegbe, Obed Akwaa Harrison, et al. Impact of a modified produce prescription program on fruit and vegetable intake in an HBCU. PLoS ONE 2026-07-28. DOI: 10.1371/journal.pone.0354520. 原著ライセンス:CC BY.