著者の所属・活動拠点の国は、チュニジア、イタリアです。
掲載誌:PloS one
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的:豆の「青臭さ」の背景にある成分を探る
豆類はたんぱく質や食物繊維に富む食品ですが、「豆臭い」「青臭い」「土っぽい」「干し草のよう」と表現される独特のにおいが、料理や加工食品への利用を妨げることがあります。こうしたにおいは、常温で気体になりやすい揮発性有機化合物と呼ばれる成分によるものと考えられています。これらは脂肪酸の酸化やアミノ酸の分解などによって生じ、品種や栽培条件に加え、発芽や製粉といった加工によっても変わるとされています。
研究チームは、インゲンマメ(学名 Phaseolus vulgaris)の3品種であるネイビー(白いんげん)、キドニー(赤いんげん)、ブラック(黒いんげん)を対象に、発芽と製粉がこれらの揮発性成分の構成をどう変えるのかを調べました。さらに、生の種子・発芽した種子・それぞれから作った粉を区別する手がかりとなる成分を明らかにすることも目的としました。論文によれば、インゲンマメの香りに関わる成分についての包括的なデータはまだ限られているといいます。
何をどのように調べたか
研究チームは、各品種について「生の種子」「発芽させた種子」「生の種子から作った粉」「発芽種子から作った粉」の4種類の試料を用意しました。発芽は暗所・20℃・高湿度で5日間行い、その後45℃で6時間乾燥させています。粉は種子をすりつぶし、ふるいにかけて作りました。
分析には、試料の上の空間にただよう気体成分を特殊な繊維に吸着させて集める方法(ヘッドスペース固相マイクロ抽出)と、集めた成分を一つずつ分離して種類を特定する装置(ガスクロマトグラフ質量分析計)を組み合わせて用いました。各成分の量は、検出された揮発性成分全体に占める相対的な割合として比較しています。
得られた成分は、テルペン類(植物が特定の経路で作る、柑橘や松のような香りを持つことが多い成分群)や、アルデヒド・アルコール・アルカンなどを含む「非テルペン系成分」など7つのグループに分類されました。そのうえで、多数の成分の情報をまとめて試料どうしの似かより方を図示する主成分分析や、似た試料をグループに分ける階層クラスター分析を行いました。
主な結果:発芽と製粉で香り成分の構成が大きく変化
全試料を通じて79種類の揮発性成分が特定されました。生の種子では品種ごとに主な成分グループが異なり、ネイビーでは非テルペン系成分、キドニーではフェニルプロパノイド(アネトールなどを含む芳香族成分の一群)、ブラックではセスキテルペン炭化水素が最も多くを占めていました。
発芽させると、3品種いずれでも非テルペン系成分が最も多いグループとなり、その割合は68.5〜83.6%に達しました。発芽種子では、脂質の酸化に由来するとされるアルデヒド類(ヘプタナール、オクタナール、ベンズアルデヒドなど)が新たに現れました。一方で、ブラックの生の種子では揮発性成分の41.9%を占めていたセスキテルペン炭化水素が、発芽後には2.5%まで減り、ネイビーとキドニーの発芽種子では検出されませんでした。
粉の試料では56種類の成分が特定され、ネイビーとブラックの生の粉ではモノテルペン炭化水素が最も多く、特にネイビーの粉では柑橘様の香りを持つとされるリモネンが53.5%を占めていました。リモネンはすべての粉に共通して見られましたが、発芽後の粉では割合が下がりました。また、ネイビーでは発芽後の粉でアルデヒド類の割合が3.4%から20.8%へと増えていました。
統計解析では、試料が品種と加工の段階(生か発芽か、種子か粉か)によってはっきりと分かれました。階層クラスター分析では、粉の試料6種類がすべて一つのグループにまとまり、発芽種子と生のネイビー種子のグループ、生のキドニーとブラックの種子のグループと区別されました。著者らは、発芽した試料を特徴づけるのは非テルペン系成分であり、生の粉ではモノテルペン炭化水素、生の種子ではフェニルプロパノイドが特徴的だったと報告しています。
この研究が示すこと
著者らは、発芽によって脂質の代謝が活発になり、アルデヒドなどの成分が増える一方、テルペン類が減ると解釈しています。アルデヒドはごく低い濃度でもにおいを感じさせる成分として知られ、豆類の青臭さとの関連が指摘されてきました。また、製粉ではモノテルペン炭化水素が増える傾向が見られ、著者らは組織が物理的に壊れることで成分が放出された可能性を挙げています。
ただし論文は、各成分のにおいの特徴は既存の文献に基づくもので、この研究では実際に人がにおいを評価する試験は行っていないと明記しています。結果はあくまで化学的な成分構成を示したものです。また、発芽種子を45℃で乾燥させた工程が加熱による酸化を通じてアルデヒドの増加に関わった可能性もあり、増加分をすべて発芽による変化とは言い切れないと著者らは述べています。
こうした留意点はあるものの、この研究は、同じインゲンマメでも品種や、発芽・製粉といった加工の違いによって揮発性成分の構成が大きく変わることを、化学的に示したものといえます。
原著論文の著者・所属:Rajhi I(Laboratory of Legumes and Sustainable Agrosystems, Centre of Biotechnology of Borj Cedria, Hammam-LifTunisia.)、Nefissi Ouertani R(Laboratory of Plant Molecular Physiology, Centre of Biotechnology of Borj Cedria, Hammam-Lif, Tunisia.)、Flamini G(Dipartimento di Farmacia, Pisa, Italy.; Centro Interdipartimentale di Ricerca "Nutraceutica e Alimentazione per la Salute" Nutrafood, Università di Pisa, Pisa, Italy.)、Mhadhbi H(Laboratory of Legumes and Sustainable Agrosystems, Centre of Biotechnology of Borj Cedria, Hammam-LifTunisia.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rajhi I, Nefissi Ouertani R, Flamini G, et al. Fingerprinting of volatile profiles of sprouted and unsprouted seeds and flours of Phaseolus vulgaris cultivars using HS-SPME/GC-MS. PloS one 2026-10-29. DOI: 10.1371/journal.pone.0360936. 原著ライセンス:CC BY.