著者の所属・活動拠点の国は、チリ、スペインです。
掲載誌:Plants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
捨てられる「豆の浸け汁」に注目した研究
乾燥したインゲンマメは、調理の前に水に浸けて戻すのが一般的です。このとき豆に含まれる水溶性の成分の一部は水へ移りますが、浸けた水はふつう捨てられます。研究チームは、この浸漬水に植物由来の「フェノール化合物」がどの程度、どのような形で含まれているかを調べました。フェノール化合物は、ポリフェノールなどを含む植物の二次代謝物の総称で、抗酸化作用を持つものが多く知られています。
対象は、研究グループが以前フェノール化合物の有望な供給源として注目していたチリの在来インゲンマメ品種「マグナム」と「ペウモ」です。黒インゲンマメの浸漬水の抗酸化能はすでに報告がありましたが、浸漬中に水へ移るフェノール化合物を結合の形ごとに詳しく調べた研究はありませんでした。著者らは、この2品種の浸漬水についてそれを初めて体系的に調べたと位置づけています。
どのように調べたか
研究チームは、乾燥豆を重さの3倍量の蒸留水に入れ、4℃で16時間浸けて浸漬水を集めました。水に溶けるフェノール化合物には、分子が単独で存在する「遊離型」と、ほかの分子とエステル結合やエーテル結合でつながった「結合型」があります。著者らは、まず遊離型を取り出し、残った液をアルカリで処理してエステル結合から外れた成分を、さらに酸と加熱で処理してエーテル結合から外れた成分を取り出し、三つの画分に分けました。
それぞれの画分について、フェノール化合物の総量を測り、高速液体クロマトグラフィーという分離分析法で個々の化合物を同定・定量しました。抗酸化能は、ABTS、DPPH、FRAP、ORACという4種類の試験で評価しました。これらはいずれも試験管内の化学的な測定法で、ラジカル(反応性の高い分子)を消す力や、金属イオンを還元する力など、抗酸化作用の異なる側面を測るものです。
主な結果:遊離型が中心、品種で量と中身が異なる
フェノール化合物の総量は、両品種とも遊離型画分が最も多く、浸漬水1リットルあたり没食子酸換算でマグナムが2527.8ミリグラム、ペウモが850.6ミリグラムでした。エステル結合型・エーテル結合型の画分でもマグナムの方が多く、いずれの画分でも品種間の差は統計的に有意と報告されています。
浸漬水からは11種類のフェノール化合物が同定されました。三つの画分すべてで検出されたのはルチンだけでした。最も多様な化合物を含んでいたのは遊離型画分で、カテキン、クロロゲン酸、トランス-フェルラ酸が主な成分でした。マグナムの遊離型画分ではカテキンが特に多く、ペウモの約13倍でした。クロロゲン酸はマグナムの遊離型画分でのみ検出されました。一方、ペウモではケンフェロールが遊離型とエーテル結合型の画分で多く、遊離型画分にはダイゼインも含まれていました。総量ではマグナムが上回るものの、個々の成分の分布は品種ごとに異なっていたことになります。
抗酸化能も、両品種とも遊離型画分が最も高く、結合型の画分は低いながらも測定可能な活性を示しました。著者らは、全体としてマグナムの浸漬水がペウモより高い抗酸化能を示し、フェノール化合物の多さと一致していたと報告しています。両品種のデータを合わせた分析では、フェノール総量とFRAP、DPPH、ORACの値の間に強い正の相関が見られました。ただし著者らは、浸漬水は多くの成分が混ざった複雑な液体であるため、個々の化合物が抗酸化能にどれだけ寄与しているかは、この研究では切り分けられないとしています。
研究が示すこと
この研究は、ふだん捨てられているインゲンマメの浸漬水に、多様なフェノール化合物が遊離型と結合型の両方の形で含まれ、試験管内で抗酸化能を示すことを報告しました。また、品種によってその量と組成が大きく異なることから、浸漬水を活用するうえで品種の選択が重要になりうると著者らは述べています。
著者らは、浸漬水を食品素材として活用できる可能性を示しつつも、この結果は人での健康効果を直接示すものではないと明記しています。今回の成果は、廃棄される副産物の化学的な特徴を初めて詳しく描いた予備的な評価であり、その価値を見直すための土台となるものです。
原著論文の著者・所属:Samantha Rhein(Center for Studies in Processed Foods (CEAP), Talca 3460000, Chile; Institute of Health Sciences, O’Higgins University, Rancagua 2820000, Chile)、Maria Fernanda Arias-Santé(Institute of Nutrition and Food Technology, University of Chile, Santiago 7830490, Chile)、Alina Concepción-Alvarez(Institute of Nutrition and Food Technology, University of Chile, Santiago 7830490, Chile)、Miguel Ángel Rincón-Cervera(Department of Agronomy, Food Technology Division, University of Almería, 04120 Almería, Spain; Institute of Nutrition and Food Technology, University of Chile, Santiago 7830490, Chile)、Lee A. Meisel(Institute of Nutrition and Food Technology, University of Chile, Santiago 7830490, Chile)、Basilio Carrasco(Center for Studies in Processed Foods (CEAP), Talca 3460000, Chile)、Raquel Bridi(Departamento de Química Farmacológica y Toxicológica, Facultad de Ciencias Químicas y Farmacéuticas, Universidad de Chile, Santiago 8380494, Chile)、Adriano Costa de Camargo(Institute of Nutrition and Food Technology, University of Chile, Santiago 7830490, Chile; Instituto de Ciencias Aplicadas, Universidad Autónoma de Chile, Santiago 7500910, Chile)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Samantha Rhein, Maria Fernanda Arias-Santé, Alina Concepción-Alvarez, et al. Free and Conjugated Phenolics in Soaking Water from Chilean Common Bean Cultivars: Characterization and Antioxidant Potential. Plants 2026-09-25. DOI: 10.3390/plants15192938. 原著ライセンス:CC BY.