甘酒や日本酒、味噌、醤油といった発酵食品は、麴菌がつくり出す酵素や代謝産物によって独特の風味が生まれます。近年、これらの発酵過程で生じる成分が健康にさまざまな影響を与える可能性が指摘されるようになってきましたが、その具体的な仕組みについてはまだ十分に解明されていません。今回紹介する研究は、甘酒に含まれる糖の一種「イソマルトース」が腸内環境にどのような影響を及ぼすのかを、マウスを使った実験で調べたものです。
イソマルトースは、腸内の善玉菌を増やすなどの働きが期待される「プレバイオティクス」成分の一つと考えられている糖です。研究チームは、6週齢の雄のICRマウスにイソマルトースを14日間にわたり毎日経口投与し、その後に糞便を採取して腸内細菌の構成を調べました。解析には16S rDNA(V1~V2領域)のアンプリコンシーケンス法という手法が用いられています。さらに、採取した糞便をイソマルトースだけを炭素源とする最少培地に塗布し、37℃・嫌気条件下で24時間培養することで、イソマルトースを実際に栄養源として利用できる菌を特定する実験も行われました。
研究でわかったこと
イソマルトースを投与したマウスでは、投与しなかったマウスと比べて、腸内細菌叢に占める「Lactobacillus reuteri(ラクトバチルス・ロイテリ)」という乳酸菌の割合が1.7倍に増加したことが報告されています。さらに、イソマルトースのみを栄養源とする培地で糞便中の微生物を培養したところ、実際にL. reuteriが分離されました。このことから、L. reuteriがイソマルトースを分解・利用できる菌であることが示されたとしています。
これらの結果から研究チームは、甘酒を継続的に摂取することで、腸内細菌叢に占めるLactobacillus属菌の割合を増やせる可能性が示唆されるとしています。また、L. reuteriがイソマルトースをどのような酵素で分解しているのかについても、現在検討が進められているとのことです。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は麴菌をはじめとする日本の発酵食品文化を背景に行われたもので、甘酒という日本になじみ深い発酵飲料に含まれる成分に着目している点が特徴です。ただし、実験の対象はマウスであり、ヒトで同様の変化が起こるかどうかはこの要旨だけからは判断できません。また、腸内細菌叢の変化が実際にどのような健康上の意味を持つのかについても、この研究だけで結論づけられるものではなく、L. reuteriの分解酵素に関する検討も現在進行中とされています。一つの基礎研究の結果として捉えるのが適切です。
まとめ
本研究は、甘酒に含まれるイソマルトースをマウスに投与すると、腸内のLactobacillus reuteriの割合が増える傾向が見られ、この菌がイソマルトースを資化できることを示したものです。発酵食品の健康効果を支えるメカニズムを解明する試みの一つとして注目される一方、ヒトへの効果を断定するものではなく、今後さらなる研究の進展が待たれます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Daijiro Tajima, Sorato Iwai, Yota Taguchi, et al. 甘酒に含まれるイソマルトースの摂取による腸内環境への影響. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_55. 原著ライセンス: cc-by-nc-sa.