マヨネーズのような乳化食品づくりには、油と水をなじませる「乳化」の力が欠かせません。今回紹介するのは、和食に古くから使われてきた麹(Aspergillus oryzae)の菌体そのものを、この乳化の担い手として活用できないかを検討した研究です。米麹や酒粕といった麹菌を含む食品は、酵素や栄養素としての役割だけでなく、セラミドや抗酸化活性、便通改善効果など、麹菌体自体が持つ健康面での働きにも近年注目が集まっているといいます。
ただし麹菌には課題があります。細胞壁の主成分がキチングリカンという不溶性の物質であるため、そのままでは液体になじみにくく、調味液に混ぜ込むのが難しいのです。細かく粉砕して微細化すれば液体への分散性は上がり、乳化にもつながることが報告されていますが、微細化だけでは分散性・乳化性の向上効果は限られていました。そこで研究チームは、麹菌体の健康効果を液体調味料に生かすには、さらに分散性や乳化性を高める工夫が必要だと考え、今回の検討に取り組んだとしています。
研究でわかったこと
研究の目的は、乳化食品への麹菌利用を広げるために、微細化した麹菌体の分散性・乳化性・安定性を高める条件を明らかにすることでした。具体的には、微細麹菌単体での乳化に加え、他の原料と組み合わせた場合の効果を比較検討しています。
その結果、セルロースを併用すると、乳化した際の粒子径が小さくなり、乳化の安定性が向上する可能性が見出されました。さらに、麹菌とセルロースの配合比率を特定の割合に調整すると、この安定化効果がより強まることも確認されたとしています。粒子径が小さいほど油と水が分離しにくく、乳化状態が保たれやすいと考えられるため、この結果は微細麹菌を調味液などの液体食品に応用するうえでの手がかりになるとみられます。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この発表は学会の講演要旨としてまとめられたものであり、実験の詳細な条件や数値データ、麹菌体を摂取した場合の健康効果そのものを検証した内容ではありません。あくまで「乳化・分散性を高める加工上の工夫」に焦点を当てた基礎研究の報告である点に留意が必要です。今回の要旨からは、著者の一人が日本の研究機関に所属していることがわかっていますが、この所属だけから研究内容や結論を推測することはできません。麹菌自体は米麹や酒粕など日本の発酵食品文化に根差した素材であり、今回の研究もそうした従来からの利用に新しい可能性を加えようとする試みと位置づけられます。
まとめ
この研究では、微細化した麹菌体をセルロースと組み合わせ、特定の比率にすることで、乳化粒子を小さくし乳化安定性を高められる可能性が示唆されました。麹菌の持つ健康面での働きを液体調味料などに生かす応用につながる基礎的な知見といえますが、一つの学会発表であり、実用化や健康効果の証明にはさらなる検証が必要です。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Wataru Urushibata, Tetsuya Tetsuya Miyamoto, Daisuke Kodama, et al. 微細麹菌体の乳化および乳化安定性の評価. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_301.