ごぼうにはイヌリンやクロロゲン酸が豊富に含まれ、焙煎すると抗酸化性が高まることが知られています。イヌリンやフラクトオリゴ糖(FOS)はビフィズス菌の増殖を助ける「プレバイオティクス」として知られ、近年は腸内環境の改善を通じて非アルコール性脂肪肝疾患のような肥満関連疾患への影響が注目されています。今回紹介する研究では、焙煎ごぼう茶葉(BT)を使った加工食品が腸内細菌叢にどのような影響を与えるかを、高脂肪食を与えたマウスとヒトの糞便を使った培養実験の両方で調べています。著者らには日本の研究機関に所属するメンバーが含まれています。
マウス実験でわかったこと
5週齢の雄性ddYマウスを5つのグループに分け、通常飼料に蒸留水を与えるCE群、高脂肪食(HFD32)に蒸留水を与えるHFD群、そして高脂肪食に加えて焙煎ごぼう茶の熱水抽出液(BTE)、イヌリン(INU)、クロロゲン酸(CGA)のいずれかをそれぞれ21日間自由に摂取させる群が設けられました。飼育終了後には血中の脂質やAST・ALTといった肝機能に関わる指標、盲腸内容物の有機酸量、そして16S rDNAアンプリコンシーケンス法による糞便細菌叢の解析が行われています。
結果として、HFD群では血中のASTとALTが上昇しましたが、BTE群ではASTの上昇が有意に抑えられたと報告されています。またBTE群とCGA群では、盲腸内容物中のプロピオン酸と酢酸が増加していました。細菌叢の解析では、BTE群において腸腫瘍の抑制や免疫調節への関与が知られるFaecalibaculumやAllobaculumという菌が増加していたことが示されています。さらに遺伝子情報から代謝機能を予測する解析では、BTE群でヒスチジンやトリプトファンの生合成に関わる機能が高い傾向にあったとされています。
ヒトの糞便培養で見えた変化
ヒト糞便を使った培養実験では、85%エタノールで洗浄したBT粉末(40 mg/mL)、FOS(4 mg/mL)、両者を組み合わせたBF(BT+FOS)をそれぞれGAM培地に加え、糞便スラリーを接種したうえで嫌気条件下37℃・24時間、振盪培養して有機酸や菌叢の変化が調べられました。その結果、BTを加えた培養系では乳酸と酢酸が有意に増加し、腐敗性の化合物の産生が抑えられたことが報告されています。菌叢解析では、BTおよびBFの条件でビフィズス菌(Bifidobacterium)と、酪酸を産生する菌として知られるFaecalibacteriumが増加していました。マウス実験と同様に、ヒトの糞便培養系でもヒスチジンの生合成が促進される可能性が示唆されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
本研究は、焙煎ごぼう茶の摂取が高脂肪食による炎症を抑える方向に働く可能性があり、その背景に腸内細菌の代謝機能の変化が関わっていることを示唆する内容です。ただし、これは学会大会の講演要旨として報告された一つの研究であり、動物実験や試験管内でのヒト糞便培養実験に基づく結果です。ヒトが実際にごぼう茶を摂取した場合に同様の効果が得られるかどうかを直接示すものではなく、健康効果を断定するものではありません。今後さらなる検証が必要な段階の知見として捉えるのが妥当でしょう。
まとめ
この研究では、焙煎ごぼう茶葉の熱水抽出液が高脂肪食マウスの肝機能マーカーの一部を改善する方向に働き、有用とされる腸内細菌の増加や短鎖脂肪酸の産生増加と関連していることが示されました。またヒト糞便培養実験でも、ビフィズス菌や酪酸産生菌の増加、腐敗性化合物の抑制といった変化が観察されています。焙煎ごぼう茶に含まれる成分が腸内細菌の働きを介して体に何らかの影響を及ぼす可能性が示唆されていますが、これはあくまで一つの研究段階の知見であり、今後の研究の積み重ねが待たれます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Sae Azuma, Mizuki Sato, Junji Inoue, et al. 焙煎ごぼう茶の高脂肪食マウスの腸内およびヒト糞便培養系の細菌叢に及ぼす影響. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_57. 原著ライセンス: cc-by-nc-sa.