ワインづくりの過程では、果汁を搾った後にブドウの種や皮が大量の副産物として残ります。この廃棄されがちな部分に、実は食物繊維やポリフェノールが豊富に含まれていることが知られています。フランスとチュニジア、カナダの研究者らによるチームは、このブドウ種子を粉末にしたもの(GSF)が、腸の炎症モデルであるマウスの大腸炎にどのような影響を与えるかを調べました。
炎症性腸疾患は、免疫の乱れや酸化ストレス、腸内細菌のバランス異常が絡み合う複雑な病態とされています。研究チームはまず、使用したブドウ種子粉末そのものの成分を分析し、重量の64%が食物繊維であること、そして非常に高いポリフェノール含有量と抗酸化能を持つことを確認しました。
マウスを使った実験でわかったこと
実験にはBALB/c系統のマウスが用いられ、あらかじめ標準的な餌かGSFを10%(重量比)配合した餌のいずれかを与えられた上で、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を投与して急性大腸炎を誘発しました。DSSは実験動物で腸炎症を人為的に起こす際によく使われる物質です。
結果として、GSFを含む餌を与えられたマウスでは、DSSによる体重減少や疾患活動性の指標(症状の重さを点数化したもの)の悪化が緩和され、大腸の短縮や組織学的な損傷も抑えられたと報告されています。また、大腸だけでなく腸間膜リンパ節や肝臓の損傷を示すバイオマーカーも改善していたとされます。分子レベルの解析では、大腸や肝臓で炎症を引き起こす物質の発現が抑えられる一方、抗炎症性のIL-10や抗酸化に関わる指標は高まっており、腸と肝臓を結ぶ経路で炎症を抑える働きと酸化ストレスから細胞を守る働きの両方が強まっていたことがうかがえます。
腸内細菌叢についても詳しく調べられており、GSFの摂取によって細菌の多様性(α多様性)に変化が見られました。具体的には、UBA1819やAkkermansia、Bacteroides caecimurisといった菌の異常な増加が抑えられる一方、酪酸を産生する菌として知られるMuribaculaceaeやRuminococcusが増えていたとのことです。さらに、腸内で作られる代謝物についても、アセトンや酢酸エチルの濃度が低下し、腸のバリア機能や粘膜の恒常性を支えるとされるインドールの濃度が上昇していたと報告されています。
この研究をどう読むか
今回の結果は、マウスを用いた動物実験によって得られたものであり、ヒトの炎症性腸疾患に同じ効果が見られるかどうかは、この研究だけでは判断できません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。研究チームは、ブドウ種子粉末が炎症のシグナル伝達、酸化ストレス、免疫調節、腸内細菌の構成やその代謝物という複数の経路に同時に働きかけることで大腸炎の症状を和らげた可能性がある、と考察しており、機能性のプレバイオティクス素材としての可能性を示唆するものだとしています。
まとめ
ワイン製造の副産物であるブドウ種子を粉末化した食品素材が、DSSで大腸炎を誘発したマウスにおいて、体重減少や大腸の炎症、腸内細菌叢の乱れを抑えたことが報告されました。食物繊維とポリフェノールを豊富に含むこの粉末は、腸と肝臓にまたがる複数の経路に働きかけていたと考えられていますが、これは動物実験の段階の知見であり、今後さらなる研究による検証が待たれます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Mohamed Mokrani, Mélanie Le Barz, Anne-Marie Elie, et al. Prevention of Intestinal Inflammation and Gut Dysbiosis by Prebiotic Grape Seed Flour in Mice with DSS-Induced Colitis. ファーマシューティカルズ (2026). DOI: 10.3390/ph19081189. 原著ライセンス: cc-by.