私たちの体には、寒さにさらされたときや食べすぎたときに余分なエネルギーを熱として消費してくれる「褐色脂肪組織(BAT)」という特殊な脂肪があります。ところが肥満が進むと、この褐色脂肪が本来の役割を失い、まるで白色脂肪のようにエネルギーをため込む組織へと変質してしまうことが知られています。この現象は「白色化(whitening)」と呼ばれます。今回、複数の研究機関に所属する研究者らが、腸内細菌の乱れがこの褐色脂肪の白色化にどう関わっているのかを、これまでの研究成果を整理してまとめた総説を発表しました。掲載誌はニュートリション・アンド・メタボリズムで、2026年6月に掲載予定です。
褐色脂肪はどう働き、なぜ「白色化」するのか
褐色脂肪組織は、ミトコンドリア内の「UCP1(脱共役タンパク質1)」という仕組みを使って、エネルギーを熱として発散させる非ふるえ熱産生を担っています。成人ではおもに鎖骨上部・頸部・腎臓周囲に存在し、寒冷刺激や交感神経の活性化によって働きが高まるとされています。実際にヒトを対象とした画像研究では、健康な成人260人に寒冷刺激を与えたところ、48%にあたる125人で褐色脂肪の活性化がPET-CT検査により確認され、若く痩せた女性でより検出されやすく、体格指数や体脂肪量が高いほど検出されにくい傾向が報告されています。さらに褐色脂肪が検出された人では、年齢や性別、体脂肪量で調整しても空腹時血糖やHbA1cが低い傾向にあったとされています。一方、高度肥満の人を対象とした研究では、寒冷刺激後に褐色脂肪の活動が確認できたのはわずか15人中3人にとどまり、重度の肥満では褐色脂肪の反応性が大きく低下していることがうかがえます。
この総説では、肥満に伴って褐色脂肪の中でミトコンドリアの機能が落ち、脂肪滴が小さな粒から大きな一つの塊(多胞性から単胞性)へと変化していく仕組みが、複数の研究知見をもとに整理されています。たとえば、脂肪酸を燃やす酵素(Cpt1bやAcadmなど)の働きが弱まる一方で、脂肪を合成する酵素(脂肪酸合成酵素やアセチルCoAカルボキシラーゼ)が増えること、活性酸素の蓄積、血管の減少による酸素不足、さらには「TFEB」という因子を介した過剰なミトコンドリア分解(マイトファジー)などが、褐色脂肪の白色化を後押しする要因として挙げられています。動物実験では、高脂肪食をわずか24時間与えただけで体重が変化する前から褐色脂肪でインスリンの働きが鈍り、脂肪がたまり始めたとする報告も紹介されており、白色化が肥満のごく初期から始まりうる可能性が示されています。
腸内細菌の乱れが褐色脂肪に及ぼす影響
この総説の核心は、腸内細菌の乱れ(ディスバイオシス)がどのようにして褐色脂肪の働きに影響しうるかという整理にあります。肥満の人の腸内では、微生物の多様性が落ち、Firmicutes門の割合が変化するとともに、Ruminococcus gnavus、Dorea、Blautiaなどの菌が増え、逆にAkkermansia muciniphila、Bifidobacterium adolescentis、Faecalibacterium prausnitzii、Roseburia intestinalisといった、腸のバリア機能を保ち短鎖脂肪酸(酪酸など)を作る有用菌が減る傾向が、複数の大規模メタ解析(数千人規模のデータを統合した解析を含む)で一貫して報告されているといいます。
こうした腸内細菌の変化は、いくつかの経路を通じて褐色脂肪に影響しうると考えられています。第一に、腸のバリアが弱まることで細菌由来の物質「LPS(リポ多糖)」が血中に漏れ出し、TLR4という受容体を介してTNF-αやIL-6といった炎症性の物質を増やし、これが褐色脂肪のミトコンドリア機能やUCP1の発現を抑えるという経路です。第二に、酢酸・プロピオン酸・酪酸などの短鎖脂肪酸が、GPR41やGPR43という受容体を介して褐色脂肪のミトコンドリアを増やしたり、交感神経を介した熱産生を後押ししたりする一方、腸内細菌の乱れによってこれらの短鎖脂肪酸の産生が落ちると、褐色脂肪への刺激が失われる可能性が指摘されています。第三に、腸内細菌が作り替える胆汁酸(二次胆汁酸)が、FXRやTGR5という受容体を介して褐色脂肪や骨格筋のcAMPや甲状腺ホルモン関連のシグナルを高め、熱産生を支えているとされ、肥満に伴う胆汁酸組成の変化がこの経路を弱める可能性も論じられています。無菌マウスや抗生物質で腸内細菌を減らした動物では、寒冷刺激による熱産生が大きく損なわれ、褐色脂肪の白色化に似た変化やUcp1などの熱産生関連遺伝子の低下がみられた一方、腸内細菌を戻したり酪酸を補ったりすると、これらの機能がある程度回復したとする実験結果も紹介されています。
栄養や生活習慣に関わる知見としては、食物繊維由来のポリフェノール類(ノビレチン、ゲニステイン、ウコン由来成分など)が腸内細菌の構成を変え短鎖脂肪酸の産生を増やすことで、褐色脂肪の熱産生を高めたとする研究や、定期的な運動が腸内細菌をバリア保護的・抗炎症的な方向に整え、全身の炎症を抑えることで褐色脂肪の機能維持に寄与しうるとする報告が取り上げられています。また、プロバイオティクスや胆汁酸を補う介入によって胆汁酸のバランスを整えたところ、褐色脂肪の熱産生関連遺伝子の発現や代謝指標が改善したとする動物実験も紹介されています。
この総説の位置づけと読むうえでの注意
この論文は新たな実験を行ったものではなく、既存の研究成果を横断的に整理した総説(レビュー)です。著者ら自身も、腸内細菌の変化が褐色脂肪の白色化を積極的に引き起こしているのか、それとも肥満に伴う代謝異常の結果として現れているだけなのか、その因果関係の方向性は依然としてはっきりしないと述べています。また、これまでの研究の多くは腸内細菌・褐色脂肪・肝臓の代謝をそれぞれ別々に扱っており、これらを統合的に検討した研究が限られている点も、著者らが指摘する課題です。紹介されている個々の実験も、動物モデルや限られた人数のヒト試験によるものが中心であり、寒冷刺激による褐色脂肪活性化の研究では短期的な介入では血糖や脂質の指標に一貫した改善が見られなかったとする報告もあることから、著者らは持続的で複合的な介入が必要になる可能性を指摘しています。あくまで研究の現状を整理した一つの総説であり、特定の食品や成分が肥満を予防・改善すると結論づけるものではない点に留意が必要です。
まとめ
この総説は、腸内細菌の乱れが短鎖脂肪酸・胆汁酸・炎症性物質・神経内分泌シグナルといった複数の経路を介して、褐色脂肪組織の熱産生能力や「白色化」に関わりうることを、これまでの研究知見を整理して示したものです。食物繊維やポリフェノール、運動、プロバイオティクスといった生活習慣的な介入が腸内細菌を介して褐色脂肪の機能維持に寄与する可能性も論じられていますが、因果関係の解明や臨床応用にはさらなる研究が必要であると著者らは述べています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Majid Ghodraty, Mehrshad Fekri, Maedeh Kiani, et al. Gut microbiota, brown adipose tissue whitening, and obesity: nutritional modulators and metabolic crosstalk. ニュートリション・アンド・メタボリズム (2026). DOI: 10.1186/s12986-026-01152-x.