掲載誌:International Journal of Management Science and Information Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
キャッシュレス決済やモバイルバンキングの普及で、小規模な事業者もお金の受け取りや記録をデジタルで行うようになりました。ただし、こうした道具を導入しただけで、お金の管理がうまくいくとは限りません。論文は、デジタルの金融サービスを理解し、使いこなす力を「デジタル金融リテラシー」と呼び、この力が事業の成果とどう関わるかに注目しています。
対象は、インドネシア・バリクパパン市で飲食業を営む零細・中小企業です。飲食業は毎日の取引が多く、現金の出入りが速く、競争も激しい分野です。著者は、デジタル金融リテラシーが事業の「財務パフォーマンス」と「事業の持続性」に与える影響を分析することを目的としました。財務パフォーマンスはお金をうまく管理して成果を上げる力、事業の持続性は事業を続け、環境の変化に適応していく力を指します。
何をどのように調べたか
調査では、市内の飲食系事業者の経営者または管理者46人にアンケートを行いました。回答者は、次の条件を満たす人から選ばれています。事業を1年以上続けていること、お金の管理や経営判断に直接関わっていること、そしてモバイルバンキング、電子マネー、インドネシアの統一QRコード決済「QRIS」などのデジタル金融サービスを、少なくとも一つ事業で使っていることです。
回答は「まったくそう思わない」の1点から「とてもそう思う」の5点までの5段階で集めました。デジタル金融リテラシーは、サービスについての知識、デジタル決済を使う力、費用と利点の理解、取引の安全への配慮、金融情報を意思決定に生かす力などで測っています。財務パフォーマンスは、売上や利益の伸び、費用の管理、資金繰りの状態などで測りました。事業の持続性は、事業の継続、収入の安定、顧客の維持、市場や技術の変化への適応などで測っています。いずれも、回答者自身の評価にもとづく指標です。
分析には単回帰分析を用いました。これは、一つの要因の大小に応じて、別の数値がどの程度変わる傾向にあるかを調べる統計手法です。デジタル金融リテラシーと財務パフォーマンス、デジタル金融リテラシーと事業の持続性という二つの組み合わせについて、それぞれ検討しました。
主な結果
5点満点の平均は、デジタル金融リテラシーが4.09、事業の持続性が4.02、財務パフォーマンスが3.96でした。回答者は全体として、三つの項目をいずれも前向きに評価していました。
分析の結果、デジタル金融リテラシーは財務パフォーマンスに対して、統計的に意味のあるプラスの影響を示したと報告されています。回帰係数は0.681で、財務パフォーマンスのばらつきの46.4%がデジタル金融リテラシーで説明されるという結果でした。
事業の持続性についても、同じくプラスで統計的に意味のある関係が報告されました。回帰係数は0.724で、ばらつきの52.4%が説明されています。係数も説明できる割合も、財務パフォーマンスより事業の持続性のほうがやや大きくなりました。著者はこの結果を、デジタル金融サービスを理解して使う力が、お金の管理だけでなく事業を続けていく力とも結びついていることを示すものと解釈しています。
結果から伝わること
論文が強調するのは、デジタル決済のアプリを使えるだけでは不十分だという点です。取引を継続的に記録すること、個人と事業のお金を分けること、資金繰りを見守ること、手数料を理解すること、口座の安全を守ることといった日々の習慣が伴ってこそ、技術が役に立つと著者は述べています。そのため支援の場では、決済アプリの紹介にとどまらず、記録や資金管理、安全対策まで含めた研修が有用だと提言しています。
一方で、著者は結果を慎重に受け止めるよう求めています。対象は条件を満たした46人に限られるため、市内のすべての飲食系事業者にそのまま当てはまるわけではありません。また、説明できたのはばらつきの半分前後であり、残りには経営の力量や市場の状況など、モデルに含まれない要因も関わっていると考えられます。この研究は、デジタル化の時代に小さな事業を支えるうえで、道具を使いこなす知識と管理の力が重要な鍵の一つになりうることを示しています。
原著論文の著者・所属:Kartika Aprilia Ivani(Politeknik Nusantara Balikpapan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kartika Aprilia Ivani. The Effect of Digital Financial Literacy on Financial Performance and Business Sustainability of Culinary MSMEs in Balikpapan City. International Journal of Management Science and Information Technology 2026-09-13. DOI: 10.35870/ijmsit.v6i2.8612. 原著ライセンス:CC BY.