この研究は、セルビアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

レタスなどの葉物野菜は加熱せずに食べられることが多く、大腸菌(Escherichia coli)などの食中毒菌が付着したままだと健康被害につながるおそれがあります。論文の著者らは、2014年から2021年のあいだに葉物野菜に関連する食中毒の集団発生が78件確認され、レタスがしばしば原因食品として挙げられていることを背景として示しています。

厄介なのは、菌が葉の表面にただ付いているだけでなく「バイオフィルム」を作ることです。バイオフィルムとは、菌が自ら分泌したねばついた物質(細胞外多糖などからなる基質)に包まれて表面に張りついた集団のことで、この状態になると消毒剤が内部まで届きにくくなり、菌は環境ストレスにも強くなります。レタスの葉は気孔やしわ、くぼみといった構造をもつため、菌が隠れて定着しやすい場所が多くあります。

現在使われている洗浄・殺菌の方法では、バイオフィルムの中に入り込んだ菌を完全に取り除くことは難しいとされています。そこで研究チームは、芳香植物から採れる精油に注目しました。精油は幅広い菌に作用することが知られていますが、実際の野菜の表面にできたバイオフィルムにどれだけ効くかは、これまでよく分かっていませんでした。本研究は、選んだ精油がレタスの葉の上の大腸菌バイオフィルムに対してどのような働きをするかを調べることを目的としています。

何をどのように調べたか

研究チームは、動物由来の食品から分離された24株の大腸菌を用い、まずどの株がバイオフィルムを作りやすいかを調べました。色素を加えた寒天培地でのコロニーの見た目による分類と、樹脂製のプレート上でできたバイオフィルムを色素で染めて量を測る方法を組み合わせ、最も強くバイオフィルムを作った1株をその後の実験の代表株として選んでいます。

精油は、セルビアで栽培されたディル、ペパーミント、バジル、ウインターセイボリーの4種類から水蒸気蒸留で得たものを使いました。それぞれについて、菌の増殖を目に見える形で抑える最小の濃度(最小発育阻止濃度、MIC)を求め、その値を基準に0.5倍・1倍・2倍の濃度で試験を行っています。

レタスは市販の結球レタスの葉を洗浄・紫外線処理したうえで、1センチメートル四方の小片に切り出しました。この小片に大腸菌を接種してバイオフィルムを作らせ、精油の液に1時間さらしたあと、残った生きた菌の数を培養して数えました。あわせて走査型電子顕微鏡(電子線で表面の形を拡大して観察する装置)で、葉の上のバイオフィルムの様子と、処理後の変化を撮影しています。

報告された主な結果

精油の抗菌力には差がありました。最も低い濃度で大腸菌を抑えたのはディルの精油で、MICは3.55マイクロリットル毎ミリリットルでした。バジルとウインターセイボリーは7.10、ペパーミントは14.20で、ペパーミントが最も高い濃度を必要としました。なお精油の主成分は、ディルがカルボンとリモネン、ペパーミントがメントールとメントン、バジルがリナロール、ウインターセイボリーがp-シメンとカルバクロール、γ-テルピネンであったと報告されています。

菌がまだ付き始める段階で精油を加えた場合、いずれの精油も濃度が上がるほど効果が高まり、MICの2倍濃度では付着した菌が74~85%減少しました。MICの半分という低い濃度でも46~64%の減少がみられています。

一方、すでにできあがったバイオフィルムを壊すのは、より難しいという結果でした。プレート上で48時間かけて作らせたバイオフィルムに対しては、MICの2倍濃度で60分処理したときが最も効果的で、ディルが59.90%、バジルが50.86%の減少を示し、この2つだけが「バイオフィルム量を半分以上減らす」という基準に届きました。ウインターセイボリー(47.03%)とペパーミント(34.00%)は、試したどの条件でもこの基準に達していません。処理時間を30分から60分に延ばしても効果は倍にはならず、初期の急速な作用のあとで頭打ちになる傾向が報告されています。

レタスの葉の上では、効果はさらに小さくなりました。未処理の葉では1平方センチメートルあたり約6.68 log CFUの菌が回収されましたが、MICの2倍濃度の処理でディルは40.0%、バジルは34.5%、ウインターセイボリーは33.4%、ペパーミントは26.0%の減少にとどまり、樹脂プレート上での減少率を下回りました。電子顕微鏡では、処理後のバイオフィルムが大きな集塊から小さな微小コロニーへと断片化し、菌体が変形したり表面が粗く不規則になったりする様子が観察されています。

この研究が示すこと

著者らの報告からは、精油が大腸菌のバイオフィルムに確かに作用する一方で、その効き方が条件に大きく左右されることが読み取れます。菌が付着する前の早い段階に働きかけるほど効果は大きく、いったん成熟したバイオフィルムに対しては、同じ精油でも濃度と接触時間を増やさなければ十分な減少は得られませんでした。

そして重要なのは、実験室のなめらかな樹脂表面とレタスの葉とで結果が異なった点です。同じ精油・同じ濃度でも葉の上では減少率が低く、複雑な構造をもつ実際の食品の表面が、菌にとっての隠れ場所になっていることをうかがわせます。この研究は、抗菌作用を単純な条件で確かめるだけでは足りず、実際に食べられる素材の上で評価することの意味を示しています。

著者:Ana Varga(Institute of Food Technology in Novi Sad, University of Novi Sad, Bulevar cara Lazara 1, 21000 Novi Sad, Serbia)、Dragana Plavšić(Institute of Food Technology in Novi Sad, University of Novi Sad, Bulevar cara Lazara 1, 21000 Novi Sad, Serbia)、Zorica Tomičić(Institute of Food Technology in Novi Sad, University of Novi Sad, Bulevar cara Lazara 1, 21000 Novi Sad, Serbia)、Olja Todorić(Institute of Food Technology in Novi Sad, University of Novi Sad, Bulevar cara Lazara 1, 21000 Novi Sad, Serbia)、Ružica Tomičić(Faculty of Technology, University of Novi Sad, Bulevar cara Lazara 1, 21000 Novi Sad, Serbia)、Milica Aćimović(Institute of Field and Vegetable Crops, University of Novi Sad, Maksima Gorkog 30, 21000 Novi Sad, Serbia)、Lato Pezo(Institute of General and Physical Chemistry, University of Belgrade, Studentski Trg 12/V, 11000 Belgrade, Serbia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ana Varga, Dragana Plavšić, Zorica Tomičić, et al. Antibiofilm Activity of Essential Oils Against Escherichia coli on Lettuce Leaf Surfaces. Foods 2026-08-28. DOI: 10.3390/foods15173040. 原著ライセンス:CC BY.