糠漬けは、米糠に水や食塩を加えた「糠床」に野菜を漬け込んで作る、日本で古くから親しまれてきた発酵食品です。漬け込みの過程で乳酸菌などによる発酵が進むことで、風味や香りが変化するだけでなく、消化吸収の促進や腸内環境の改善といった効果も報告されてきました。今回紹介する研究では、糠床の発酵を担う乳酸菌そのものに着目し、低温でも効率よく働く菌を探し出したうえで、発酵中に糠床や野菜の中でどのような成分変化が起きているかを詳しく調べています。
研究グループは以前の研究で、発酵が十分に進んだ糠床に野菜を漬けることで、GABA(γ-アミノ酪酸)などの機能性成分が増えることを確認していました。今回はその流れを踏まえ、低温下でも安定して発酵を進められ、糠床本来の菌のバランス(菌叢)を保てる乳酸菌を選び出し、それを使って機能性を高めた糠床を作ることを目指しました。
どのように菌を選び、糠床を作ったのか
まず、熟成した糠床から12種類の乳酸菌を単離し、低温でも生育できるかを調べる試験と、糖類をどう発酵させるかを調べる試験によって4つのグループに分類しました。続いて、実際の糠床環境に適応できるかどうかや、低温耐性を改めて確認する試験を行い、糠床に適した菌株をさらに絞り込みました。
選び出した乳酸菌は、水分率60〜70%、塩分率5%に調整した300gの糠床でまず予備的に発酵させ、pHが十分に下がったことを確認しました。そのうえで、熱水処理をした糠と混ぜ合わせ、同じく水分率60〜70%、塩分率5%の糠床1kgを新たに調製し、ここに野菜を漬け込んで一定の間隔でサンプルを採取しています。採取した糠床や野菜は、メタノール・クロロホルム・水を組み合わせた溶媒で成分を抽出し、含まれる代謝物を網羅的に調べるメタボローム解析にかけられました。あわせて、糠床に含まれる微生物の構成(菌叢)も分析されています。
発酵初期からアミノ酸やコリン化合物が増加
試験の結果、糠床での使用に適した低温耐性の乳酸菌が4種類選び出されました。これらの菌を使うと、水分率60〜70%、塩分率5%というどの条件下でも、糠床のpHが早い段階で低下することが確認されています。なお、糠床の水分量については、床の固さの観点から65%が上限であったことも報告されています。
メタボローム解析からは、発酵が始まって間もない段階から、機能性アミノ酸として知られるオルニチンやGABA、さらにコリン化合物の一種であるアセチルコリンが増加していく様子が見られました。これらの成分が発酵の初期段階から増え始めていた点は、今回の解析で得られた具体的な知見です。
この研究をどう読むか
この研究は、日本の研究機関に所属する研究者らによって進められ、日本の伝統的な発酵食品である糠漬けを対象としたものです。今回の報告は学会の講演要旨としてまとめられたものであり、選抜された乳酸菌の性質や成分変化の詳細な条件、ヒトが実際に摂取した場合の影響などについては、要旨の範囲を超えた情報は示されていません。糠漬けに含まれる成分が増えたという分析結果をもって、健康への効果が確定したわけではなく、一つの研究として今後の検証が積み重ねられていく段階にあるものと捉えるのが適切です。
糠漬けという身近な発酵食品の背後で、どのような菌がどのような成分変化を担っているのかを丁寧に追跡した研究といえます。低温でも安定して働く乳酸菌を活用することで、家庭や産地の環境によらず一定の品質を保った糠漬け作りにつながる可能性が示唆されていますが、その実用化や効果の広がりについては今後の研究の進展を待つ必要があります。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:itsuki suda, taito kobayashi, kei kumakura, et al. 低温発酵性乳酸菌を用いた機能性糠漬けの開発. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_95.