スーパーで買う食品の多くは、原料の栽培から加工、包装まで複数の国をまたいで作られています。こうした国境を越えた生産の連なりは「グローバル・バリューチェーン(GVC)」と呼ばれ、世界の貿易の約7割がこの仕組みに関わっているとされます。今回紹介する研究は、この国際的な分業の中で、農業と食品製造業という二つの分野に注目し、欧州連合(EU)とアジア太平洋地域の経済連携であるRCEP(東アジア地域包括的経済連携)の国々がどのように組み込まれているかを比較したものです。研究を行ったのは、ポーランドのポズナン生命科学大学に所属する研究者らです。

輸入した材料で作るか、輸出先でさらに使われるか

この研究では、貿易への関わり方を二つの側面に分けて捉えています。一つは「バックワード(後方)参加」で、輸出品を作る際に他国から輸入した原材料や部品をどれだけ使っているかを示します。もう一つは「フォワード(前方)参加」で、自国が生み出した原材料などが輸出され、さらに別の国で加工されて世界の生産網の中で使われている度合いを示します。

分析には、経済協力開発機構(OECD)が整備する貿易付加価値統計(TiVA)の国際産業連関表が使われ、2001年から2022年までの22年間、EUとRCEPに属する42カ国(EU27カ国、RCEP15カ国)のデータが対象になりました。分析開始年が2001年に設定されたのは、この年に中国が世界貿易機関(WTO)に加盟し、アジア太平洋地域の貿易統合が大きく進んだ節目だったためです。産業分類上、「農業」は農作物などの一次生産を指す部門、「食品製造業」は食品・飲料・たばこ製品の製造を指す部門として区別され、それぞれのバックワード・フォワード参加の割合が、Borin and Manciniによる輸出付加価値の分解手法を用いて算出されました。

加工品は輸入頼み、農業は原料の輸出で世界とつながる

集計の結果、EUとRCEPのいずれでも、食品製造業のバックワード参加が農業より明らかに高いことが分かりました。とくにEUでは食品製造業・農業ともにバックワード参加の割合が高く、しかも年々上昇する傾向がみられました。一方RCEP諸国は割合が低く、比較的安定していました。これはEUが輸入した中間財への依存度を強めている一方、RCEP諸国は国内や地域内で調達した原材料を使う傾向が強いことを示していると論文は述べています。国別では、EUの中でもスロバキア、ベルギー、エストニア、アイルランド、スロベニアなどでバックワード参加が高く、スペイン、イタリア、フランス、ルーマニアは低め。RCEPではベトナム、マレーシア、韓国、タイ、カンボジアが高く、中国、インドネシア、オーストラリアは低い傾向が示されました。

反対にフォワード参加は、両地域とも農業の方が食品製造業より高い水準でした。EUの農業では概ね10〜11%、食品製造業では4〜5%程度、RCEPでも農業が10〜11%程度、食品製造業が5〜6%程度と、両地域で近い水準にとどまっています。この背景として、RCEPに属するベトナム、インドネシア、マレーシアなどがコーヒーや茶、米といった農産原料の主要な輸出国であり、それが他国でさらに加工されて世界の生産網に入っていく構図が挙げられています。一方EUでは、農産物の取引が域内市場向け・短い供給網に偏る傾向があり、農産原料が国境を越えて何段階も加工に回る機会が相対的に少ないことが、フォワード参加の低さにつながっていると説明されています。フォワード参加が目立つ国としては、EUでは農業でドイツ、ベルギー、フィンランド、スペイン、イタリア、食品製造業でチェコ、ドイツ、ルーマニア、スロバキア、ポーランドが挙げられ、RCEPでは農業でカンボジア、ラオス、ミャンマー、日本、インドネシア、食品製造業でミャンマー、ラオス、日本、フィリピンが挙げられています。ここでは日本が、農業・食品製造業の両部門でフォワード参加が目立つ国の一つとして名前が挙がっています。

何が参加の度合いを左右するのか

研究チームはさらに、国の所得水準や関税、投資協定などがバックワード・フォワード参加とどう関係するかを、固定効果モデルを用いた回帰分析で検討しました。その結果、一人当たりGDPが高い国ほどバックワード参加が低くなる関係が、農業・食品製造業のいずれでも統計的に有意に確認されました。これは、経済発展が進んだ国では国内の供給網が整い、輸入原材料への依存が下がるためと解釈されています。一方、関税の水準がバックワード参加に有意な関係を示したのは農業だけで、食品製造業では関税より品質基準や検疫規制などの非関税的な要因が影響している可能性が指摘されています。深い貿易協定(DTA、投資や知的財産権などの規定を含む協定)については、農業のバックワード参加とはむしろ負の関係が見られ、フォワード参加にはいずれの部門でも有意な関係が確認されませんでした。論文は、地理的表示(GI)や知的財産権に関する厳格な規定が、低所得国の柔軟な調達を制約する可能性があることを、その一因として挙げています。フォワード参加については、農業でのみ、国の所得グループの変化(開発途上国から高所得国への移行など)との間に統計的に有意な関係が見られましたが、食品製造業では確認されませんでした。

この研究は42カ国・22年分のデータを用いた統計分析であり、ある時点の国際貿易構造を捉えたものです。論文自身も、分析結果がモデルの推定方法によって変動しうること、また貿易協定の効果は協定に含まれる条項の内容によって異なりうることを注意点として挙げています。一つの研究として得られた関係性であり、農業・食品分野の貿易政策の効果を最終的に結論づけるものではない点に留意が必要です。

まとめ

この研究は、EUとRCEPという二つの主要な貿易圏について、農業と食品製造業を分けて、輸入原材料への依存度(バックワード参加)と、自国の原材料が他国での加工を経て世界の生産網に組み込まれる度合い(フォワード参加)を比較しました。食品製造業は輸入原材料への依存が強く、農業は原料輸出を通じたつながりが相対的に強いという、部門ごとの異なる特徴が示されています。所得水準や関税、貿易協定といった要因の効果も部門によって異なり、農業・食品分野の貿易のあり方を一様に語れないことを示す結果といえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Joanna Łukasiewicz, Bartłomiej Bajan, Karolina Pawlak. Forward and Backward GVC Participation in Agriculture and Food Manufacturing: Comparative Developments in the EU and RCEP. バイオベース・アンド・アプライド・エコノミクス (2026). DOI: 10.36253/bae-20171. 原著ライセンス: cc-by.