著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:つながりの多さと、代わりに頼れる力は同じか

食料の多くを輸入に頼る国にとって、供給の途絶は現実的なリスクです。輸出国が輸出を制限すれば、必要な時に限って世界市場から品物が消えることがあります。価格や資金面の混乱は国境での価格や調達先の構成に波及します。家畜の病気が発生すると、それまでの調達先が一晩で使えなくなることもあります。研究チームは、こうした事態が起きたときに輸入国が十分な速さで別の調達先へ切り替えられるのか、という問いを立てました。

対象は、日本・中国・韓国・東南アジア諸国などが参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)の加盟15か国・地域です。貿易のつながりが増えれば危機に強くなる、と考えがちです。著者らはこの見方をそのまま受け入れず、「短期間に呼び寄せられる供給の余力」に注目しました。論文はこれを、実際に測るものではなく、統計から近似的に見積もる概念として扱っています。

何をどう調べたか

研究チームは、国連の貿易統計を輸出側と輸入側で突き合わせて整えた国際貿易データベースを使い、15か国・地域の間の農産物・食品の貿易を分析しました。2001〜2021年は、協定発効時点で域内が備えていた供給力を確かめる基準期間と位置づけています。2021〜2023年については、発効後も同じ指標で状況を追う点検を行いました。論文は、この分析が協定の効果を推定するものではないと明記しています。

品目は、コメ、大豆、パーム油、豚肉、一部の熱帯・亜熱帯果実、粉乳系乳製品の6つです。主食、飼料原料、植物油、動物性たんぱく質、傷みやすい青果、保存のきく加工乳製品と、性格の違う品目を選んでいます。保存性、腐りやすさ、衛生上の規制、生産上の制約が異なる品目ごとに、つながりが実際の代替力に結びつくかを確かめるためです。果実については性質の異なる品目をまとめた区分のため、著者らは均質な一つの商品としては扱わず、域内貿易の傾向を示す参考として位置づけています。

分析では、取引のつながり方に加えて次の点を調べました。調達先が一部の国に偏っていないか。取引相手の顔ぶれが安定しているか。他の加盟国に輸入国の需要を賄えるだけの余剰があるか。衛生規制や輸出規制などの面で実際に輸送できるか。余剰の大きさは、統計から読み取れる余剰を控えめな下限、総輸出量を上限とする二通りで見積もりました。さらに、2007〜2008年のコメ輸出制限、2022年のインドネシアによるパーム油輸出禁止、2018〜2020年のアフリカ豚熱(ASF)による豚肉不足という三つの出来事に当てはめ、診断の妥当性を確かめています。

主な結果:つながりは増えたが、供給力は品目で大きく異なった

対象6品目の域内貿易額は、2021年の物価水準に換算して2001年の63億ドルから2021年には240億ドルへ増えました。取引網の密度を示す指標も0.43から0.52に上がっています。一方、品目ごとの姿は大きく異なりました。コメと粉乳系乳製品は輸入側で幅広くつながっていましたが、粉乳の輸出力は少数の供給国に依存していました。パーム油は一部の供給国に集中し、大豆と豚肉のつながりはまばらなままでした。

とくに差が大きかったのが中国の大豆と豚肉です。2021年、中国以外の加盟国が持つ大豆の余剰は控えめな見積もりで3万7800トンでした。中国の大豆輸入量9583万トンに対して0.0394%にすぎず、総輸出量で見積もっても需要の0.086%でした。豚肉も、余剰5300トンに対し中国の輸入量は335万トンで、カバー率は0.157%、総輸出量でも2.34%にとどまりました。2023年も同じ傾向が続いています。これと対照的に、フィリピンのコメでは、他の加盟国の余剰が輸入需要の9.68倍(2021年)、10.73倍(2023年)に達していました。

この差は中国に限った話ではありませんでした。研究チームは15の輸入国すべてと6品目の組み合わせを点検しました。2021年に評価対象となった41の組み合わせのうち、余剰が需要の5%に届かなかった12件は、すべて大豆か豚肉でした。コメ、パーム油、粉乳系乳製品、果実では、対象となったすべての組み合わせで余剰が輸入需要の1倍以上ありました。ただし著者らは、1倍以上という結果は余剰不足が見当たらないことを示すだけで、危機の際に実際に回せることまでは保証しないと注意しています。

アフリカ豚熱の事例は、この診断を裏づけました。2017年から2020年にかけて、中国の豚肉輸入量は123万トンから453万トンに、輸入額は24.7億ドルから124億ドルに増えました。しかし他のRCEP加盟国から中国への豚肉供給は増えず、約41万7000ドルから約3700ドルへと、ほぼゼロの水準まで減りました。増えた需要を満たしたのは、欧州連合、米国、ブラジル、カナダなど域外の供給国でした。著者らはこれを、域内に余剰がなかったことと、衛生面の輸入条件という壁の両方が重なった結果だと読み解いています。

この研究が示す意味

著者らの中心的な主張は「つながりは供給力ではない」という点です。研究チームは、食料供給の強さを四つの層に分けて考えることを提案しています。取引のつながりがあるか。複数の実質的な調達先があるか。供給国に十分な余剰があるか。衛生・政策・物流の面で実際に運べるか。地域の協定は関税削減や手続きの簡素化で一つ目の層を強められても、残りの層まで自動的に強めるわけではない、と論文は指摘しています。

こうした考え方から、著者らは品目ごとに調達先の偏り、取引関係の安定性、余剰の規模、輸入条件の整い具合を継続的に点検する仕組みを提案しています。これは危機を予測する仕組みではなく、早期に注意を促す道具として位置づけられています。また論文は、輸入価格の分析は国境での価格の手がかりにすぎず、小売価格や家計の食料事情を示すものではないこと、衛生面などの輸入条件の把握も不完全であることを限界として挙げています。地図上で多くの線が結ばれていても、危機の際に頼れる供給があるとは限らない。品目ごとにその中身を確かめる必要があることを、この研究は具体的な数字で示しています。

原著論文の著者・所属:Ru Guo(Experimental College, Open University of China)、Bolu Wei(China Academy of Safety Science and Technology)、Mingrong Zeng(China Academy of Safety Science and Technology)、Pan Liu(School of Economics and Management, China University of Geosciences (Beijing))、Bixiang Shi(Center for Strategic Studies, Chinese Academy of Engineering)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ru Guo, Bolu Wei, Mingrong Zeng, et al. Food-supply resilience under policy, market, and biosecurity shocks: a diagnostic of import vulnerability, supplier substitution, and short-run callable capacity in RCEP agri-food networks. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-09-16. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1924874. 原著ライセンス:CC BY.