この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Psychological Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の出発点——食べ物の言葉は、頭の中で「体験」される

私たちが「ポテトチップス」や「りんご」といった言葉を目にしたとき、頭の中では単に辞書的な定義が呼び出されているわけではないかもしれません。「身体化認知(グラウンデッド・コグニション)」と呼ばれる考え方によれば、概念は、過去に経験した感覚や身体運動の一部が部分的に再現されることによって представ表現されます。つまり、食べ物の名前を読むだけで、その食感や香り、噛む動作などが薄く再生される、という見方です。研究チームはこの現象を「心的シミュレーション」と呼んでいます。

これまでの研究では、主観的に「健康によくない」と感じられる食べ物ほど、こうした感覚・運動的なシミュレーションを強く引き起こし、それが魅力の高まりや摂取量の増加につながる可能性が示唆されてきました。しかし著者らは、まだはっきりしていない点があると指摘します。それは、主観的な印象ではなく客観的に定義できる食品の性質——具体的にはカロリー量と工業的な加工の度合い——が、このシミュレーションをどの程度左右するのか、という問題です。本研究は、この未解明の点を検討するために行われました。

何を、どのように調べたか

研究チームは、イタリア語を話す99人の参加者に、50個の食べ物を表す単語を評価してもらいました。単語は、工業的な加工の度合いが高い食品25語と、加工の度合いが最小限の食品25語で構成されています。

評価は複数の観点から行われました。六つの感覚モダリティ、すなわち内受容感覚(体の内側から感じられる感覚)、触覚、聴覚、嗅覚、味覚、視覚に加え、身体運動に関する次元、さらに「どれくらい欲しいか(wanting)」と「どれくらい好きか(liking)」の指標です。

この研究設計で重要なのは、二つの食品カテゴリーのカロリー量をそろえた点です。加工度の高い食品群と低い食品群でカロリーが釣り合うようにしたことで、カロリーの違いによる影響と、加工という要因による影響を切り分けて検討できるようにしています。分析には線形混合効果モデルが用いられました。

報告された主な結果

分析の結果、カロリー量と加工度のあいだに、有意で一貫した交互作用が認められたと報告されています。この交互作用は、すべての感覚モダリティ、知覚全体をまとめた指標(Minkowski3と呼ばれる全体的知覚指標)、そして運動シミュレーションのいずれにおいても見られました。「交互作用」とは、一方の要因の効果が、もう一方の要因の水準によって変わることを指します。

具体的な中身はこうです。カロリーが高いほど感覚・運動的シミュレーションが強くなるという関係は、加工度の高い食品においてのみ成立しました。加工度が最小限の食品では、この関係は有意ではなかったと著者らは述べています。つまり、カロリーの高さそのものが一律にシミュレーションを強めるのではなく、工業的に加工された食品という文脈のもとで初めてその効果が現れた、ということになります。

さらに、知覚的・運動的いずれについてもシミュレーションの水準が高いほど、その食べ物への「欲しさ」と「好ましさ」が高く予測されました。この予測関係は、食品の客観的な性質とは独立に成立したと報告されています。

この結果が示すこと

著者らは、これらの知見から、工業的な加工がカロリー量だけでは説明できない独立した要因として、食べ物の感覚・運動的な表現のかたちに関わっていると結論づけています。

そのうえで、超加工食品が高い動機づけ的な顕著性——つまり、人を強く引きつける性質——を帯びる背景に、こうした認知的なメカニズムが関与している可能性を示唆しています。著者らによれば、この視点は、食行動の調節がうまくいかない状態を理解することや、より健康的な食の選択を促す介入を設計することに対して、意味を持ちうるものです。

食べ物の名前を読むという、ごく日常的な行為の中にも、私たちがその食べ物にどう引きつけられるかの手がかりが潜んでいる——本研究は、そうした可能性を実験的に描き出したものだと言えます。

著者:Sofia Gentili(Department of Neuroscience, University of Padua, Padova, Italy)、Enrico Collantoni(Department of Neuroscience, University of Padua, Padova, Italy)、Valentina Meregalli(Department of Neuroscience, University of Padua, Padova, Italy. [email protected]

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Sofia Gentili, Enrico Collantoni, Valentina Meregalli. Caloric content and industrial processing modulate the mental simulation of food concepts. Psychological Research 2026-09-11. DOI: 10.1007/s00426-026-02379-2. 原著ライセンス:CC BY.