この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Frontiers in Insect Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
ミールワーム(チャイロコメノゴミムシダマシ、学名 Tenebrio molitor)の幼虫は、タンパク質に富む食料・飼料の材料として世界各地で飼育されています。論文によれば、乾燥重量あたりの粗タンパク質は40.2〜63.3%で、リシンやスレオニンなどの必須アミノ酸をバランスよく含みます。欧州連合では規則(EU)2015/2283のもと、この虫に由来する製品のいくつかが新規食品として認可されていると著者らは説明しています。
一方で、大規模生産の妨げになっているのが餌のコストです。幼虫の標準的な餌である小麦ふすま(小麦の外皮を製粉時に取り分けたもの)の代わりに、農業や食品加工で出る副産物を使えないか、という発想がここから生まれます。
著者らが着目したのは、ナメコ(Pholiota microspora)の「石突き」、つまり軸(柄)の根元1〜3cmの部分です。傘に近い柔らかい部分と違って商品にならず、収穫時にふつう廃棄されます。ナメコの子実体には炭水化物、タンパク質、食物繊維、多糖類、ミネラル、ビタミン、アミノ酸が含まれることが知られており、捨てられる石突きにもその一部が残っている可能性があります。ただし、これをミールワームの餌として使えるのか、使うとしてどれくらいの割合が適切なのかは、これまで調べられていませんでした。本研究はその実現可能性と適切な配合割合を確かめることを目的としています。
どのように調べたか
研究チームは、餌に含まれる小麦ふすまを乾燥させたナメコ石突き粉末で置き換えた5種類の飼料を用意しました。置換率は0%(対照群)、25%、50%、75%、100%の5段階です。小麦ふすま以外の材料(トウモロコシ粉24%、大豆ミール5%、複合ビタミンと塩を各0.5%)は全群で共通にそろえてあります。
実験に使ったのは、実験室内で2世代累代した幼虫のうち、大きさのそろった5齢の個体です。1つの処理区あたり3反復、各反復に150頭を配置しました。飼育は温度25℃、相対湿度60%に保った気象チャンバー内で行われました。
測定は幼虫期から蛹、成虫まで追跡されました。幼虫の体長・体幅・体重に加えて、幼虫期間(孵化から50%が蛹化するまでの日数)、蛹期間、幼虫の死亡率、蛹化率、羽化率、蛹と成虫の体重、雌雄比が調べられています。幼虫の齢は、同様の飼育条件では1齢あたり約10日という先行報告にもとづき、10日間隔で区切って判定されました。統計解析には一元配置分散分析とTukey法による多重比較が用いられ、有意水準はP<0.05です。
報告された主な結果
どの群でも、幼虫の体長・体幅・体重は齢が進むにつれて増加しました。体長と体幅は各群内で強く相関していました(相関係数r=0.93〜0.94)。
群間の差は6〜8齢のあいだは小さかったと報告されています。しかし9齢以降になると差が明確になりました。25%置換群の成長は対照群と同程度で、50%・75%・100%置換群よりも有意に優れていました(P<0.05)。全体として体格・体重が最も大きかったのは対照群で、最も小さかったのは100%置換群です。たとえば15齢時点の体重は、対照群の3.88gに対して100%置換群は2.46gでした。
発育の速さにも差が出ました。幼虫期間は置換率が上がるほど有意に長くなり(P<0.05)、対照群の144.67日に対して100%置換群は178.67日、つまり34日長くかかりました。蛹と成虫の体重も置換率とともに低下し、蛹重は対照群の0.118gから100%置換群の0.105gへ、成虫重は0.106gから0.095gへと有意に減少しました(P<0.05)。25%置換群の蛹重は対照群より有意に低かったものの、50%以上の置換群よりは有意に高い値でした。雌雄で蛹重・成虫重の差は検出されていません。
一方、幼虫の死亡率、蛹化率、蛹期間、雌雄比、羽化率については、群間に有意差は認められませんでした(P>0.05)。死亡率は置換群(9.11〜10.45%)が対照群(7.67%)より数値としては高めでしたが、有意な差ではありません。
高い置換率で成長が落ちた理由について、著者らは石突き粉末の粒子が小麦ふすまより細かいこと、餌の質感や色・匂いが変わって食べにくくなった可能性、食物繊維の量などを挙げています。ただし、摂食量や餌の物理的性質、栄養素の消化率は測定していないため、これらの説明はあくまで推測であり、さらに検証が必要だと明記しています。
この結果が示すこと
この研究は、廃棄されていたナメコの石突きが、ミールワームの餌の一部を置き換える材料になりうることを示しました。ただし置き換えには上限があり、試した範囲では25%までなら成長と発育への影響が小さく、それを超えると幼虫期間が長引き、蛹や成虫が小さくなります。
著者ら自身、摂食量、飼料効率、加工コスト、経済的な収益は本研究では評価していないため、実際の経済的利点はまだ判断できないと述べています。それでも、捨てられていたものに使い道を与える出発点として、配合割合を適切に管理するという条件つきで25%という目安が示された点に、この報告の意味があります。
著者:Tong Mu(School of Life Sciences, Yan’an Modern Sheep Industry Engineering Technology Research Center)、Ziyan Jiang(School of Life Sciences, Yan’an Modern Sheep Industry Engineering Technology Research Center)、Honghong Hu(School of Life Sciences, Yan’an Modern Sheep Industry Engineering Technology Research Center)、Yi Wang(School of Life Sciences, Yan’an Modern Sheep Industry Engineering Technology Research Center)、Yikun Jia(School of Life Sciences, Yan’an Modern Sheep Industry Engineering Technology Research Center)、ZhiHong Sun(School of Life Sciences, Yan’an Modern Sheep Industry Engineering Technology Research Center)、Xiaolong He(School of Life Sciences, Yan’an Modern Sheep Industry Engineering Technology Research Center)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tong Mu, Ziyan Jiang, Honghong Hu, et al. Effects of Pholiota microspora basal stipe powder on growth and development of Tenebrio molitor. Frontiers in Insect Science 2026-09-10. DOI: 10.3389/finsc.2026.1916272. 原著ライセンス:CC BY.