世界の人口増加にともない、食料としてのタンパク質をどう確保するかは食品分野の大きな課題になっています。牛や豚などの家畜に代わるタンパク源として近年注目されているのが、昆虫食です。今回紹介する研究は、食用昆虫の中でも代表的な存在であるチャイロコメノゴミムシダマシ(学名:Tenebrio molitor L.)の幼虫、いわゆる「ミールワーム」を使い、身近な食品であるパスタに配合するとどうなるかを調べたものです。

研究を行ったのは、ロシア科学アカデミー傘下のФНЦ食品システム研究センター(В. М. ゴルバトフ記念)に属する食品添加物研究所(ВНИИ пищевых добавок)の研究者たちです。ミールワームの幼虫は乾燥重量あたり49〜70%という高い割合でタンパク質を含み、しかもアミノ酸のバランスが良いことが知られているといいます。研究チームはこの幼虫を粉末にしたものを、小麦粉の一部と置き換える形でパスタに配合し、栄養成分や食感、においなどがどう変化するかを検証しました。

どのような方法で調べたのか

実験では、小麦粉の10%または20%を、T. molitorから作った粉に置き換えたパスタを試作しています。使用した粉は2種類で、幼虫をそのまま粉にした「全粉」と、脂肪分を取り除いた「脱脂粉」を使い分けて比較しました。できあがったパスタについて、栄養成分(タンパク質や脂質の含有量)、物理化学的な性質(酸度、硬さ、茹でたときの体積の増え方、形の保持のしやすさ、茹で汁に溶け出す固形分の量)、香りや色などの官能的な特徴、さらに一般生菌数やカビ・酵母数といった微生物学的な安全性まで、幅広い項目を測定しています。

研究でわかったこと

まず栄養面では、ミールワーム粉を加えたパスタは、加えていない通常のパスタに比べてタンパク質含有量が21〜61%増加したと報告されています。さらに、脂肪分を除いていない「全粉」を使った場合には、脂質の含有量も5.2%から9.6%まで上昇したということです。脱脂粉ではこうした脂質の増加は抑えられると考えられます。

一方で、官能評価では見た目やにおいの変化も確認されました。ミールワーム粉の配合量を増やすほどパスタの色が濃く(暗く)なる傾向がみられ、また全粉を使った場合はにおいが強くなることが報告されています。加える粉の種類や量によって、見た目や香りへの影響度合いが異なることがうかがえます。

物理化学的な指標(酸度、硬さ、茹でた際の体積増加、形の保持、茹で汁への固形分の溶出量)については、いずれの配合パターンでもロシアの国家規格であるГОСТ 31743-2017の基準を満たしていたと述べられています。また、一般生菌数やカビ・酵母数を調べた微生物学的な検査でも、安全性に問題がないことが確認されたとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、ミールワーム由来の粉を使うことでパスタのタンパク質含有量を高められる可能性を示した一つの実験結果です。今回の要旨で示されているのは、配合による栄養成分・物性・官能特性・微生物学的安全性の変化を確認した段階の内容であり、実際に人が食べた際の消化や健康への影響、長期的な摂取の効果、味の評価の詳細などについては言及がありません。研究は特定の配合条件(10%・20%、全粉・脱脂粉)で行われたものであり、他の配合比率や製法での結果を保証するものではない点にも留意が必要です。

色やにおいの変化が報告されている点も踏まえると、実際に商品として展開する場合には、栄養価の向上と食味・外観のバランスをどう取るかが今後の課題になりそうです。

まとめ

今回の研究では、ミールワーム由来の粉を小麦粉の一部と置き換えてパスタを作ることで、タンパク質含有量を高められる可能性が示されました。同時に、色の濃さやにおいの変化といった官能面での違いも確認されています。物理化学的な品質基準や微生物学的な安全性については、検証した範囲内で規格を満たしていたと報告されていますが、これは一つの研究による知見であり、昆虫由来食品の実用化に向けては今後さらなる検証が必要といえるでしょう。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Платон Николаевич Васильев, Елизавета Владимировна Мечтаева, Ольга Александровна Петраш, et al. Большой мучной хрущак (Tenebrio molitor L.) как функциональный компонент макаронных изделий. 食品加工産業 (2026). DOI: 10.52653/ppi.2026.9.9.029.