食物繊維が腸内細菌のえさになり、健康にさまざまな影響を及ぼすことは広く知られています。なかでも果物や野菜に含まれる多糖類「ペクチン」を分解して作られる「ペクチンオリゴ糖」は、次世代のプレバイオティクス(腸内の善玉菌を増やす働きが期待される食品成分)候補として注目されています。ただし、ペクチンオリゴ糖と一口に言っても、原料や作り方によって含まれる糖の種類の比率(単糖組成)は大きく異なります。この違いが腸内細菌にどう影響するのかは、これまで十分に調べられていませんでした。中国・平頂山学院と厦門大学の研究グループは、単糖組成が異なる2種類のペクチンオリゴ糖を用意し、ヒトの糞便を使った試験管内(in vitro)の発酵実験で、腸内細菌の顔ぶれや代謝物への影響を比較しました。
研究チームは、糖の組成が異なる2種類のペクチンオリゴ糖を準備しました。一つは「Pool-I」で、ウロン酸の一種であるガラクツロン酸の割合が27.92%にとどまり、ガラクトース・グルコース・アラビノースといった中性糖を豊富に含むものです。もう一つは「Pool-II」で、ガラクツロン酸が98.73%を占め、ほぼ均一な組成を持ちます。比較対照として、すでにプレバイオティクスとしての効果が確立している「イヌリン」(フルクトースが連なった多糖)も用いました。健康な成人3名から採取した糞便を均等に混ぜ合わせて作った腸内細菌の懸濁液を、無酸素条件の培養液中でこれら3種の糖と一緒に12時間および24時間発酵させ、16S rRNA遺伝子解析による細菌叢の変化、ガスクロマトグラフィーによる短鎖脂肪酸(SCFA)量、そして質量分析による代謝物の変化を調べています。
糖の種類によって増える菌が違った
発酵開始前の糞便と比べると、どの糖を加えた場合も細菌の多様性や種数は全体的に低下しましたが、3群(イヌリン・Pool-I・Pool-II)の間では、群集構成そのものに統計的に有意な違いがあることが、Bray-Curtis距離に基づく解析(PERMANOVA、12時間・24時間ともにp=0.006)で確認されました。門レベルで見ると、イヌリンは放線菌門(主にビフィズス菌)を12時間・24時間の両時点で顕著に増やしましたが、Pool-I・Pool-IIではこの効果は見られませんでした。一方、24時間後にはバクテロイデス門がイヌリン群より Pool-I・Pool-II群で有意に多く検出されており、ペクチン由来のオリゴ糖のほうがバクテロイデス門を増やしやすい傾向が示されています。さらに属レベルの解析では、酪酸を作ることで知られる Coprococcus_3 や Butyricicoccus といった菌が、24時間後にPool-IやPool-IIでイヌリン群・無添加群より有意に多く検出されました。なお、Pool-I群では日和見病原菌となりうる Escherichia-Shigella や Klebsiella の存在比が無添加群より高い時点もあり、著者らはこの点について、より特異的な検査手法での確認が今後必要だと述べています。
短鎖脂肪酸の産生量では、イヌリンが一貫して優勢でした。24時間発酵後の酢酸濃度はイヌリン群が24.07±0.25 mmol/Lだったのに対し、Pool-I群は20.27±0.28 mmol/L、Pool-II群は20.53±0.76 mmol/Lとなり、酢酸に関しては有意差がないところまで迫りました。しかしプロピオン酸・酪酸については、24時間後もイヌリン群のほうがPool-I・Pool-IIより有意に高い値を維持しました。研究チームは、この差はイヌリンがビフィズス菌(酢酸産生に関わるとされる菌)を強く増やす効果によるところが大きいと考察しています。
Pool-Iでは代謝物にも幅広い変化
代謝物を網羅的に解析したところ、無添加群と比べてPool-I群では26種類の代謝物に有意な差が見つかりました。具体的には、タウリン(胆汁酸の抱合や抗酸化に関わるとされる物質)、L-プロリン(腸粘膜の粘液合成に関わるとされるアミノ酸)、パントテン酸(ビタミンB5の一種でエネルギー代謝に関わる)などが増加し、尿酸は減少していました。一方、Pool-II群で有意差が見られた代謝物はわずか2種類(3-アミノ酪酸の増加とグアニンの減少)にとどまり、Pool-Iのような広範な代謝変化は確認されませんでした。研究チームは、この違いはPool-Iに含まれる多様な中性糖の組成が、より幅広い代謝経路を刺激した可能性があると推測しています。また、代謝物の変動は Bifidobacterium・Megamonas・Phascolarctobacterium・Paraclostridium・Veillonella といった菌の存在比と相関しており、特に Veillonella は代謝物量と負の相関、それ以外の菌はおおむね正の相関を示したことも報告されています。
この研究を読むうえでの注意
この実験はヒトの体内ではなく、試験管内で人工的に腸内細菌を培養した条件下でのものです。著者ら自身も、結果を確認し実際の生理的な意義を明らかにするには、腸上皮細胞モデルや動物実験、ヒトを対象とした介入試験など、さらなる検証が必要だと述べています。また、用いた糞便は3名の健康なドナーから採取したものをプールしたサンプルであり、個人差の影響は考慮されていません。今回の結果は、ペクチンオリゴ糖の単糖組成の違いが腸内細菌や代謝物への影響の違いにつながりうることを示すものですが、特定の健康効果を保証するものではなく、今後さらなる研究の積み重ねが必要な段階の知見です。
まとめ
この研究では、単糖組成が異なる2種類のペクチンオリゴ糖(Pool-IとPool-II)を、確立されたプレバイオティクスであるイヌリンと比較しながら、ヒト糞便を用いた試験管内発酵実験で調べました。イヌリンはビフィズス菌の増加や短鎖脂肪酸の産生において引き続き高い効果を示した一方、ペクチンオリゴ糖は酪酸産生菌である Coprococcus_3 や Butyricicoccus を選択的に増やすなど、イヌリンとは異なる形で腸内細菌に働きかける可能性が示されました。特にPool-Iはタウリンやプロラインなど複数の代謝物量に変化をもたらしており、糖の組成の違いがプレバイオティクスとしての働き方の違いにつながることを示唆する結果と言えます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Huipeng Liu, Xining Geng, Yousi Fu. Effects of Different Types of Pectin Oligosaccharides on the Community Structure and Metabolism of Human Fecal Microbiota. マイクロオーガニズムズ (2026). DOI: 10.3390/microorganisms14081814. 原著ライセンス: cc-by.