著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の背景と目的

「食料不安」とは、栄養的に十分で安全な食べ物を確実に手に入れられない状態を指します。食べ物が足りない状況というと、やせや栄養不足を思い浮かべがちです。しかし、食料不安を抱える人に肥満が多いという報告もあり、「食料不安と肥満のパラドックス」と呼ばれてきました。その説明として、手に入る食料が不確かなときに体が脂肪をため込みやすくなるという「保険仮説」や、安くてエネルギーの多い食品に頼りやすくなることが挙げられています。ただし、これまでの研究結果は一致していません。

トルコでは2020年以降、感染症の流行、気候変動に関連する異常気象、地域紛争、大地震などが重なり、食料価格が大きく上昇しました。研究チームはこうした状況を背景に、成人の食料不安が肥満とどのように関連するのかを調べました。あわせて、食品群ごとの摂取量と体格の関係が、食料不安の程度によって変わるかどうかも検討しています。

どのように調べたか

研究は2025年に、トルコ南部アダナの4つの農村部の家庭医療センターと、市中心部の2つの健康生活センターで行われました。対象は、日常的な受診や予防的な保健サービスのために訪れた18歳以上の859人です。参加者の平均年齢は約35歳で、女性が54.7%を占めました。参加者は無作為抽出ではなく、来所した人の中から集められています。

研究チームは対面式の質問票を使い、身長と体重を測定しました。体重を身長の2乗で割った体格指数(BMI)が30以上の人を肥満としています。食料不安の評価には、国際的に使われている「世帯食料不安アクセス尺度」を用いました。この尺度では、過去30日間に、食べ物が足りるか心配した、食事の量や回数を減らした、一日中何も食べられなかった、といった経験の有無と頻度を尋ねます。この研究では、食料不安なしの人と軽度の人を一つにまとめ、中等度・重度の人と比較しました。さらに、世帯収入と食費の割合、1か月間の食品の摂取頻度と量も尋ね、年齢、性別、学歴、居住地、貧困の有無、社会的支援などを考慮して統計的に分析しました。

主な結果

参加者の69.8%に何らかの食料不安がありました。内訳は、軽度が52.6%、中等度が9.7%、重度が12.3%です。重度の食料不安は、農村部に住む人、収入が貧困線を下回る人、男性、年齢の高い人に多く見られました。一方、食料面で社会的支援を受けている人では少ない傾向でした。中等度・重度の人は、収入に占める食費の割合が高く、食事を減らす頻度も高くなっていました。

中等度・重度の食料不安がある人では、肥満の割合が有意に高く見られました。一方で、栄養不良のリスクの割合には差がありませんでした。他の要因を考慮した分析でも、重度の食料不安は、肥満である見込み(オッズ)が約2.1倍高いことと関連していました。

食事の内容を見ると、中等度・重度の食料不安がある人は、乳製品や「肉・卵・豆類」の1日あたりの摂取量が少なく、穀類の摂取量が多い傾向がありました。また、食料不安は、たんぱく質の多い食品の摂取量とBMIの関係を左右していました。食料不安が少ない人ではこうした食品を多くとるほどBMIが高い傾向でしたが、食料不安が強い人では逆向きの関係になりました。乳製品、野菜・果物、穀類については、このような違いは見られませんでした。

この研究が示すこと

著者らは、経済的に上位中所得国に位置づけられるトルコでは、食料不安による体重の問題が、やせよりも過体重や肥満として表れている可能性があると考察しています。その背景として、たんぱく質の多い食品が減り、パンなどの穀類や間食に偏る食事の変化を挙げています。そのうえで、保険仮説とは異なり、この地域では食料不安が高エネルギーで質の低い食事への移行につながっている可能性を指摘しました。

ただし、この研究はある一時点での調査であり、食料不安が肥満を引き起こすという因果関係までは示していません。また、参加者は便宜的に集められた一地域の受診者です。食事や収入は自己申告によるもので、肥満の判定はBMIのみに基づいています。それでもこの研究は、食料価格が高騰する時期のトルコで、食料が足りないことと肥満が同じ人々に重なって起こりうることを示しました。食料不安を、栄養不足だけでなく肥満の問題としても捉える必要性を伝える結果です。

原著論文の著者・所属:Burak Mete(Department of Public Health, Faculty of Medicine Çukurova University Adana Turkey)、Hatice Merve Sadıkoğlu(Department of Public Health, Faculty of Medicine Çukurova University Adana Turkey)、Fatma İrem Dağlı(Department of Public Health, Faculty of Medicine Çukurova University Adana Turkey)、Şeyma Nur Kutay Güler(Department of Public Health, Faculty of Medicine Çukurova University Adana Turkey)、Hakan Demirhindi(Department of Public Health, Faculty of Medicine Çukurova University Adana Turkey)、Ferdi Tanır(Department of Public Health, Faculty of Medicine Çukurova University Adana Turkey)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Burak Mete, Hatice Merve Sadıkoğlu, Fatma İrem Dağlı, et al. The Direct and Moderating Effect of Food Insecurity on Obesity—A Cross‐Sectional Study. Food Science & Nutrition 2026-07-30. DOI: 10.1002/fsn3.72193. 原著ライセンス:CC BY.