「栄養について正しい知識を持っていれば、自然と健康的な生活が送れるはず」——そう考える人は多いのではないでしょうか。食品パッケージの表示を正しく読み取れたり、栄養バランスの基本を理解していたりする「栄養リテラシー」は、健康的な食生活や生活習慣を支える力になると考えられてきました。しかし、知識と実際の行動が本当に結びついているのかは、意外にもはっきりしていません。特に、生活リズムが不規則になりがちな大学生の時期において、栄養に関する知識の高さが実際の健康行動(バランスの良い食事、運動、ストレス管理など)にどの程度結びついているのかを調べた研究が、フロンティアーズ・イン・ニュートリション誌に報告されました。
研究でわかったこと
この研究は、トルコのガジアンテプ大学に通う18~25歳の大学生400人を対象とした横断研究です。対面でのインタビュー形式のアンケートを用いて、社会人口統計学的な特徴や生活習慣に加え、「成人向け栄養リテラシー評価ツール(EINLA)」と「健康増進ライフスタイルプロファイルII(HPLP-II)」という2つの指標を測定しました。参加者の平均年齢は19.9歳(標準偏差1.7歳)で、88.0%が女性でした。
栄養リテラシーの平均スコア(EINLA)は27.90点(標準偏差3.40)、健康増進行動の平均スコア(HPLP-II)は128.44点(標準偏差19.01)でした。栄養リテラシーの高さで3つのグループに分けて比較したところ、健康増進行動の総合スコアに統計的に意味のある差は見られませんでした(p = 0.308)。
さらに、他の要因の影響を調整した多変量回帰分析でも、栄養リテラシーの総合スコアは、健康増進行動の総合スコア(β = -0.003、p = 0.949)とも、その中の栄養に関するサブスコア(β = -0.083、p = 0.086)とも、統計的に有意な関連は認められませんでした。ただし、一般化加法モデルという、直線的でない関係も捉えられる分析手法を用いたところ、栄養リテラシーと栄養サブスコアの間には非線形の(単純な比例関係ではない)関連がある可能性が示唆されました(p = 0.006)。
一方で、栄養リテラシーとは別に、「定期的な運動をしていること」と「1日3食以上を主食としてとっていること」は、健康増進行動の総合スコアおよび栄養サブスコアの両方と、いずれもプラスの関連が見られました(p < 0.05)。また、専攻分野による違いも見られ、自然科学系の学生は、保健科学系の学生と比べて、健康増進行動の総合スコアと栄養サブスコアがいずれも低い傾向にあったと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究から見えてくるのは、「栄養についての知識がある」ことと「実際に健康的な生活を送っている」ことは、必ずしもイコールではないかもしれない、という点です。研究チームは、栄養リテラシーは、他の要因を調整すると、健康増進行動全体との独立した関連は見られなかったとしたうえで、定期的な運動、食事の回数、専攻分野といった要素が健康増進行動と関連していたと結論づけています。
ただし、この研究は特定の大学の学生(しかも女性が88%を占める偏った集団)を対象にした横断研究であり、ある一時点でのデータをもとにした分析です。そのため、「知識があっても行動が変わらない」という因果関係を証明したものではなく、あくまで一つの研究で得られた関連性を示したものです。研究チーム自身も、今後はデジタル食情報リテラシーや持続可能な食行動といった、より新しい測定指標を組み込んだ研究が必要になる可能性があるとしています。
まとめ
今回紹介した研究では、トルコの大学生400人を対象に、栄養に関する知識の豊富さと、実際の健康的な生活習慣行動との関連を調べました。その結果、栄養リテラシーの高さそのものは、他の要因を調整すると健康増進行動全体との明確な関連は見られなかった一方で、定期的な運動習慣や1日3食以上の食事、専攻分野などが関連していることが示されました。知識を身につけることと、それを日々の行動に落とし込むことの間には、まだ埋めるべきギャップがあるのかもしれません。今後、異なる集団や測定方法を用いた研究の積み重ねが期待されます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:大学生における栄養リテラシーと健康増進ライフスタイル行動:横断研究(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)