著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
豆の青臭さという課題と研究の目的
エンドウ豆は栄養価が高く、植物性たんぱく質の供給源として、植物由来の食品の原料に使われることが増えています。エンドウ豆から作った豆乳状の液体(ここでは「エンドウ豆ミルク」と呼びます)を乳酸菌で発酵させれば、ヨーグルトに似た食品になります。しかし、エンドウ豆には「豆臭さ」と呼ばれる好ましくない青臭いにおいがあり、ヨーグルト風食品への利用を妨げる要因になっています。
著者らの以前の研究では、豆を下ゆでしたり酸性の水に浸したりする前処理で官能評価の点数が高くなる一方、乳酸発酵での酸の生成が低下するという問題がありました。そこで研究チームは、前処理に頼るのではなく、発酵に使うスターター(発酵を始めるために加える菌の製剤)の選び方と、糖の添加によって、発酵後の香りを改善できるかを調べました。
乳酸菌による発酵では、ヘキサナールなど豆臭さのもとになる成分が、においの穏やかな別の成分に変換されることが知られています。また、発酵によって2,3-ブタンジオン(ジアセチル)やアセトイン、アセトアルデヒドなど、ヨーグルトらしい香りを生む成分も作られます。研究の目的は、スターターの種類や糖の添加によって、こうした豆臭さの変換やヨーグルトらしい香り成分の生成がどう変わるかを体系的に明らかにすることでした。
どのように調べたか
研究チームは、前処理をしないエンドウ豆からミルクを作り、たんぱく質濃度と酸性度をそろえたうえで、市販の5種類のスターターで発酵させました。このうち3種類は乳製品のヨーグルト用、2種類は植物性の発酵食品用として作られたものです。さらに、乳製品用と植物性用からそれぞれ1種類を選び、ブドウ糖または乳糖を1%、3%、5%加えた場合と、加えない場合を比べました。発酵は42℃で、酸性度がpH4.70に下がるまで行いました。
発酵後の試料に含まれる揮発性成分(においのもとになる、空気中に出やすい成分)は、成分を細かく分離できる高性能な分析装置で調べました。そのうえで、統計的な手法を使い、スターターや糖の条件によって特に大きく変化した成分を「重要な差異成分」として選び出しました。
香りへの寄与を見積もるために、各成分の量を、その成分を人が感じ取れる最小濃度(水中でのにおいの閾値)で割った値を使いました。この値が1を超える成分は、香りに寄与しうると考えられます。訓練を受けた12人の評価者が話し合って、クリーミー、脂っぽい、刺激的、フルーティー、甘い、青臭いという6つの香りの表現を選び、各成分をデータベースに基づいてこれらの表現に割り当てました。表現ごとに値を合計することで、試料ごとの香りの特徴を描き出しています。著者らが強調しているように、この香りの特徴は人が強さを採点したものではなく、分析データから計算した香りの見込みであり、論文では「推定的な官能特性」と呼ばれています。
スターターと糖によって香りはどう変わったか
発酵前後の試料からは合わせて140種類の揮発性成分が見つかりました。発酵前のエンドウ豆ミルクでは、豆臭さに関係するアルデヒド類が揮発性成分全体の42.9%を占めていましたが、発酵後は20.6〜25.3%に下がり、代わりにケトン類やアルコール類の割合が増えました。発酵によって増えた成分には、ヨーグルトらしい香りの成分や、豆臭さの成分が変換されてできた成分が含まれ、減った成分は主にエンドウ豆ミルクにもともとある豆臭さの成分でした。
スターターの種類によって、揮発性成分の構成ははっきり異なりました。植物性用スターターの一つ(061)で発酵させた試料では、2,3-ブタンジオンやアセトインなどヨーグルトらしい香りの成分が比較的多く、ヘキサナールなど豆臭さの成分の残りが比較的少ない傾向が見られました。計算による香りの特徴では、どのスターターでも青臭さ、脂っぽさ、フルーティーさが下がりましたが、クリーミー、甘い、刺激的な香りは、植物性用の2種類のスターターでより大きく高まり、乳製品用スターターではその効果が比較的小さいという結果でした。香りの特徴に基づく分類でも、植物性用スターターの2種類が最も好ましいグループに入りました。
ただし、5種類のスターターはいずれも同じ2種類の代表的なヨーグルト菌を含んでおり、菌の配合比率が公開されていないため、スターター間の違いが何に由来するのかは特定できなかったと著者らは述べています。
糖を加えた実験では、加えた糖の種類と量によって揮発性成分や香りの特徴が変化しました。乳製品用スターター(465)の場合、糖を加えるとクリーミーな香りが高まり、青臭さが弱まる結果になりました。特にブドウ糖3%と5%でクリーミーな香りが大きく高まり、青臭さもはっきり弱まりました。植物性用スターター(061)でも同様の傾向が見られ、香りの特徴に基づく分類では、ブドウ糖5%を加えた試料が最も好ましいグループに、糖を加えない試料と乳糖1%の試料が最も低いグループに位置づけられました。著者らは、こうした変化が主に2,3-ブタンジオンやアセトインの増加と、ヘキサナールなど豆臭さの成分の減少によるものと説明しています。
この研究が示すこと
この研究は、エンドウ豆ヨーグルト風食品の香りが、どのスターターを使うか、どの糖をどれだけ加えるかによって大きく左右されることを、香り成分の分析から示しました。豆臭さの成分が減り、ヨーグルトらしい香りの成分が増えるという変化の方向は、発酵の条件を選ぶことで調整できる可能性があります。
一方で、ここで示された香りの特徴は分析値から計算したもので、人が実際に味わって強さを評価したものではありません。著者らは、単一の基準物質による半定量であることや、水中で測られたにおいの閾値を用いたことから、エンドウ豆たんぱく質を含む実際の食品の中での感じ方とは差がありうる点も限界として挙げています。そうした前提のもとで、この研究は前処理に頼らずに発酵条件の工夫で豆臭さに向き合うための手がかりを示しています。
原著論文の著者・所属:Yu G(College of Agriculture and Biotechnology, Lishui University, Lishui 323000, China.)、Zhang C(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.; School of Food Science and Technology, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)、Li X(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.; School of Food Science and Technology, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)、Kong X(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.; School of Food Science and Technology, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)、Chen Y(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.; School of Food Science and Technology, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)、Hua Y(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.; School of Food Science and Technology, Jiangnan University, 1800 Lihu Avenue, Wuxi 214122, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yu G, Zhang C, Li X, et al. Pea Yogurt Alternatives: Aroma Modification by Starter Selection and Carbohydrate Addition. Foods (Basel, Switzerland) 2026-10-19. DOI: 10.3390/foods15203723. 原著ライセンス:CC BY.