掲載誌:Agricultural and Food Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
環境への配慮や健康への関心から、植物由来の食品への関心が高まっています。しかし植物性のヨーグルト風食品には、風味や食感、安定性の面で技術的な課題があることが知られています。著者らは、その背景にある素材そのものの性質に注目しました。
ソラマメ(Vicia faba)のたんぱく質は乳化剤としての可能性があり、寒冷な地域でも栽培しやすい作物です。一方、オーツ麦(Avena sativa)のたんぱく質は、水に溶けにくく乳化が安定しにくいという弱点があります。研究チームは、この二つを組み合わせ、さらに酵素で部分的に分解する処理を加えることで、たんぱく質の溶けやすさ(溶解性)、油と水が分離しにくい乳化の安定性、そして発酵のしやすさを高められるのではないかと考えました。これまでの研究は単一の原料に注目したものが多く、複数の植物原料を組み合わせた場合の効果はあまり調べられていない、と論文は述べています。
何をどのように調べたか
研究チームはまず、たんぱく質を切り分ける酵素(プロテアーゼ)5種類と、でんぷんを分解する酵素(アミラーゼ)3種類を個別に試しました。プロテアーゼについては、たんぱく質がどれだけ細かく切られたかを示す「分解度」と、水に溶けたたんぱく質の割合(溶解性)の二つを基準に評価しています。たんぱく質の断片の大きさは、電気泳動という手法で確認しました。
次に、ソラマメの粉とオーツ麦たんぱく質を、1対99、10対90、20対80、50対50という四つの比率で混ぜ、選んだ酵素でたんぱく質とでんぷんを順番に分解しました。そこに菜種油を加えて高圧で均質化し、乳化した液(エマルション)をつくります。顕微鏡でたんぱく質やでんぷん、油滴の様子を観察し、さらに乳酸菌のスターター培養を加えて43℃で6時間発酵させ、pHの変化と粘度を測定しました。
主な報告結果
酵素の選択が結果を大きく左右しました。オーツ麦たんぱく質では、酵素処理によって溶解性が最大78%向上したと報告されています。一方ソラマメたんぱく質での向上は最大16%程度にとどまり、酵素の種類によってはむしろ溶解性が下がる場合もありました。著者らは、分解が進みすぎるとたんぱく質同士がかえって結びつきやすくなり、溶けにくくなる可能性を指摘しています。そのため最終的な配合には、分解を最大化する酵素ではなく、程よい分解度を保ちながら両方のたんぱく質の溶解性を維持・向上させた Formea® Sol が選ばれました。
でんぷんについては、加熱だけを行った対照試料ではでんぷんがゲル状に固まったのに対し、アミラーゼで処理した試料は液状になりました。選ばれた酵素(Amylase® AG 300 L)では、処理前には検出されなかったグルコースが1ミリリットルあたり28ミリグラムまで増えています。これは乳酸菌が利用できる糖が生じたことを意味します。
混合比率による違いも明確でした。オーツ麦たんぱく質の割合が高いほど分解後の溶解性はやや高くなる一方、顕微鏡観察では大きなたんぱく質の凝集が多く見られ、20対80や50対50の乳化液では分離や粒状感が目立ちました。対してソラマメを主体とする10対90の配合では凝集が少なく、乳化が安定していました。発酵試験では、この10対90の配合はpHが約6.4から4.6まで下がり、ヨーグルト様の製品で目安とされる酸性度に達しましたが、ソラマメ粉100%の試料は6時間でpH 5.5にとどまりました。発酵後の試料はいずれもゲル状の乳製品に典型的な、かき混ぜると流れやすくなる性質を示し、粘度は発酵前より高くなっています。顕微鏡では、たんぱく質が油滴を取り囲む緻密な網目をつくっている様子が観察されました。
この研究が示すこと
著者らは、酵素による分解を強くかけすぎず適度に制御すること、原料の配合比を適切に選ぶこと、そして乳酸菌が使える糖を用意することの三つが噛み合ったときに、植物性ヨーグルト風食品の食感や安定性、発酵のしやすさが改善されたと報告しています。
この研究が浮かび上がらせたのは、「たんぱく質をより細かく分解すればよい」という単純な図式が成り立たないことです。分解のしすぎは溶解性を損ない、オーツ麦を増やせば溶けやすさは上がっても乳化は不安定になる——素材の組み合わせと処理の強さのあいだで、ちょうどよい釣り合いを探る作業が鍵になる、というのが論文の示す像です。著者らは今後の課題として、再現性のある品質を得るための分解条件の最適化と、加工が風味に与える影響の検討を挙げています。
著者:Johanna Östlund、Elin Wedin Kvick、Joshua Mayers、Maud Langton、Galia Zamaratskaia
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Johanna Östlund, Elin Wedin Kvick, Joshua Mayers, et al. Effect of enzyme-assisted hydrolysis on functional properties of faba bean and oat protein emulsions for fermented dairy alternatives. Agricultural and Food Science 2026-09-10. DOI: 10.23986/afsci.179769. 原著ライセンス:CC BY.