変形性関節症(OA)は、膝や股関節などの軟骨がすり減り、痛みや動きにくさを引き起こす代表的な関節疾患です。加齢とともに発症しやすくなることで知られ、軟骨の変性だけでなく、骨の変化や関節内の慢性的な炎症が絡み合って進行すると考えられています。こうした背景から、食品由来の素材が関節の状態にどのような影響を与えうるかは、多くの研究者の関心を集めているテーマです。今回紹介するのは、キクラゲ(Auricularia heimuer)とハナビラタケ(Sparassis crispa)という2種類のキノコを発酵させてつくった菌糸体抽出物「PS-ATJ301」について、ラットを用いた実験で調べた研究です。

研究でわかったこと

研究チームはまず、UPLC-ESI-Q-TOF-MSという分析手法を用いて、PS-ATJ301に含まれる代謝物を調べました。その結果、発酵によってステロイドサポニンに関連する代謝物が増加していたことが確認されたと報告されています。

次に、ヨードアセチン酸ナトリウム(MIA)という物質をラットの関節に投与してOAを人為的に引き起こすモデルを用い、PS-ATJ301を1日あたり100、200、400 mg/kgの用量で4週間、経口投与する実験が行われました。その結果、PS-ATJ301の投与によって、体重をかけて足を使う能力(荷重能力)の改善、関節構造の維持、軟骨下骨の損傷の軽減、軟骨のすり減りやプロテオグリカン(軟骨を構成する成分の一つ)の減少の抑制、滑膜組織の損傷の軽減が見られたとされています。

さらに分子レベルでの変化として、iNOS、COX-2、IL-1β、TNF-α、IL-6、NO、PGE2、CRPといった炎症に関わる物質や、軟骨を分解する酵素であるMMP類、軟骨の損傷マーカーとされるCOMP、そしてNF-κBという炎症シグナル伝達に関わるタンパク質群の働きが抑えられたことが報告されています。あわせて、軟骨の主要な構成成分であるアグリカンやII型コラーゲンの量が回復する傾向も見られたとのことです。

加えて、培養したマクロファージ(免疫細胞の一種)をLPSという物質で刺激して炎症状態を再現した実験系でも検討が行われ、PS-ATJ301がTLR4/MyD88/NF-κB/NLRP3という炎症関連のシグナル経路を抑制し、炎症性サイトカインやMMPの発現を減らすとともに、炎症を�、静める側の性質を持つとされる「M2型」へのマクロファージの分化を促したことが示唆されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、あくまで実験用ラットおよび培養細胞を用いた基礎研究の段階のものです。ヒトに対して同様の効果が得られるかどうかは、この要旨からは判断できません。また、PS-ATJ301という特定の発酵菌糸体抽出物を用いた実験であり、キクラゲやハナビラタケを食品としてそのまま摂取した場合に同じ結果が得られるかも、この研究だけでは分かりません。一つの研究であり、結論が確定したものではない点に留意して読んでいただければと思います。

まとめ

キクラゲとハナビラタケを発酵させてつくった菌糸体抽出物PS-ATJ301について、OAモデルラットや培養マクロファージを用いた実験で、軟骨の変性や関節の炎症に関わるさまざまな指標が抑えられたことが報告されました。今後、こうした基礎研究の知見がどのように発展していくのか、続報が注目されるところです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:キクラゲとハナビラタケの発酵菌糸体抽出物はヨードアセチン酸ナトリウム誘発変形性関節症における軟骨変性と炎症を緩和する(ジャーナル・オブ・ファンクショナル・フーズ・2026年08月掲載予定)