雑穀のパールミレット(Pennisetum glaucum、和名トウジンビエ)は、精製小麦粉に比べてミネラルが豊富だとされ、パンや焼き菓子の原料として注目されてきました。ガーナのSunyani Technical UniversityとUniversity of Education, Winnebaの研究者は、この『ミレットを混ぜればミネラルが増える』という説明が実際にどこまで正しいのかを、ケーキを使った実験で検証しました。背景にあるのは二つの見落とされがちな要因です。一つは、精製小麦粉には鉄などのミネラルを補うための強化剤(プレミックス)があらかじめ添加されているため、ミレットで置き換えるとこの強化分がむしろ失われる可能性があること。もう一つは、ミレットに含まれるフィチン酸という物質が、鉄の吸収を妨げる働きを持つことです。
研究チームは、パールミレット粉を0%から50%まで段階的に配合した複合ケーキを作り、機能性、成分組成、ミネラル含有量、抗栄養素(フィチン酸など)、そして味や食感などの官能評価を比較しました。その結果、ミレットの配合が増えるほど、ケーキそのものに含まれる鉄は乾燥重量1kgあたり54.8mgから90.8mgへと増加しました。一方で、ミネラル全体の目安となる総灰分は2.43%から1.12%へと減少しており、これは小麦粉に添加されていた強化用ミネラルが、ミレットへの置き換えによって失われたためと考えられます。さらに重要な点として、フィチン酸は鉄の増加以上のペースで増えており、フィチン酸と鉄のモル比は1.31から1.58まで上昇しました。この比率は1.0を超えると鉄の吸収を妨げる目安とされており、実験では無配合の対照群も含めた全ての配合レベルでこの基準を上回っていました。つまり、ケーキに含まれる鉄の量自体は増えても、フィチン酸の影響を減らさない限り、その鉄が体内に実際に取り込まれやすくなるとは言えない、という結果が示されています。なお、フィチン酸とカルシウムの比率については、いずれの配合でも吸収を妨げるとされる基準値を下回っていました。味や食感などの官能的な受容性は、ミレットを30%まで配合しても保たれていたとのことです。
これらの結果を踏まえて、研究チームは20%配合を実用上の最適な水準として提案しています。ただし、これは今回の実験条件下でのケーキという特定の食品における結果であり、フィチン酸と鉄の比率という指標に基づく評価が中心です。実際に人が食べた際の鉄の吸収量そのものを測定したものではない点、また対象がケーキという限定的な食品である点には留意が必要です。ミレットを使った食品づくりに一般的にそのまま当てはめられるかどうかは、この一つの研究だけでは結論づけられません。
研究の背景
この研究は、雑穀を使った食品開発において『ミネラルが多い=体に良い』と単純に言えるかどうかを問い直すものです。
わかったこと
パールミレットの配合を増やすと、ケーキ中の鉄そのものは増える一方、精製小麦粉由来の強化ミネラルが失われ、鉄の吸収を妨げるとされるフィチン酸も鉄以上に増加することが示されました。
読むうえでの注意
今回の指標は成分分析に基づくものであり、体内での実際の吸収量を直接測定したものではないため、一つの研究結果として捉える必要があります。
まとめ
雑穀入り食品の栄養価を語る際には、含有量の増加だけでなく、吸収のしやすさにも目を向ける必要があることを、この研究は示しています。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Afia Sakyiwaa Amponsah, Gladys Kyere. Apparent Versus Bioaccessible Mineral Enrichment in Pearl Millet Composite Cake. シリアル・ケミストリー (2026). DOI: 10.1002/cche.70104.