ササゲ(cowpea)は、タンパク質や食物繊維を豊富に含む豆類の一種で、育種や新しい食品原料としての活用が期待されている作物です。しかし、優良な系統を選ぶ際には、タンパク質量やポリフェノール量など個別の特性だけで判断されることが多く、栄養面と機能面を総合的に評価する視点は十分ではなかったといいます。今回紹介する研究は、複数の栄養・機能指標を組み合わせてササゲの系統を客観的にランク付けし、さらに実際の食品(ケーキ)に応用できるかどうかまで検証したものです。

研究チームは、3種類のササゲ優良系統を対象に、タンパク質・総食物繊維・でんぷん・水分といった基本的な栄養組成に加え、ミネラルの含有量、抽出可能な総ポリフェノール量、フェノール化合物に関連する抗酸化指標を測定しました。これらの多様な指標を統合するために、TOPSIS(理想解との近さで順位付けする多基準評価手法)をブロックごとに重み付けする方法が用いられ、さらに重み付けの設定を変えても順位が安定しているかを確認する感度分析も行われました。その結果、「MNC04-792 F-146」という系統が総合的に最も高い評価となり、重み付け条件を変えたすべての検証パターンにおいても1位を維持しました。この結果には、主にフェノール化合物関連の指標が優れていたことが寄与していたと報告されています。

消化された後もポリフェノールは残るのか

栄養成分は摂取しただけでなく、消化された後にどれだけ体内で利用可能な形で残るかも重要とされています。そこで研究チームは、選抜された系統について、INFOGESTという標準化された試験管内(in vitro)消化モデルを用いて、フェノール化合物の消化後の変化を調べました。その結果、口腔相(咀嚼・唾液と混ざる段階)では総ポリフェノール量が大きく減少したものの、その後の腸相(小腸での消化を模した段階)ではほぼ元の水準まで回復し、最終的に消化開始時点の総ポリフェノール量の99.14%が保持されていたことが示されました。

ケーキへの応用で見えた「5%配合」の可能性

この研究では、選抜されたササゲ系統の粉を実際の食品に応用できるかを確かめる概念実証(proof of concept)として、その粉を5%、10%、15%の割合で配合したケーキが試作されました。分析の結果、5%配合のケーキは、比容積(生地の膨らみやすさに関わる指標)や密度が対照(配合なし)のケーキと同程度に保たれつつ、栄養密度は向上していたと報告されています。さらに、訓練されたパネルによる官能評価でも総合的な品質が良好とされ、栄養強化と品質維持のバランスとして最も優れた配合が5%であったとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、ササゲという豆類の中から、栄養面・消化後の機能性・実際の食品への応用可能性までを一つの枠組みで評価し、優良系統を選ぶための方法を提案したものです。ただし、これは特定の3系統を対象とした一つの研究であり、ここで得られた順位や配合割合の結果がそのまま他の品種や食品全般に当てはまるとは限りません。また、フェノール化合物の消化後の挙動は試験管内モデルによる評価であり、実際に人が食べた場合の体内での働きを直接示すものではない点にも留意が必要です。健康への影響を断定するものではなく、今後さらなる研究や検証が積み重ねられていく分野の一つと言えるでしょう。

まとめ

本研究では、栄養組成・ミネラル・フェノール化合物といった複数の指標を統合する多基準評価によって、ササゲの優良系統「MNC04-792 F-146」が選抜されました。この系統はフェノール化合物が消化過程を経てもほぼ保持される特徴を持ち、5%配合のケーキでは栄養密度の向上と品質維持の良いバランスが得られたことが示されています。植物性食品の組成評価から消化後の性質、そして実際の食品応用までを結び付けた点が、この研究の特徴だと報告されています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:食品用途に適したササゲ優良系統の選抜:栄養組成、フェノール化合物の生体利用性、およびケーキモデルでの概念実証応用(ヨーロピアン・フード・リサーチ・アンド・テクノロジー・2026年08月)