小麦アレルギーやセリアック病の人向けに作られるグルテンフリーのスポンジケーキには、実は大きな技術的課題があります。小麦粉に含まれる「グルテン」というたんぱく質のネットワークがないと、生地がうまく膨らまず、ふんわりした構造や食感を作りにくいのです。今回紹介する研究は、この課題に対して、米粉に「アマランサス粉」と「タイガーナッツ粉」を組み合わせることで、構造や食感を改善しつつ、砂糖の量も減らせないかを検討したものです。
アマランサスは南米原産の穀物のような植物の種子で、タイガーナッツは土の中にできる小さな塊茎(かいけい)です。どちらも近年、健康志向の食材として注目されることがある素材ですが、この研究ではあくまで「グルテンフリーケーキの構造・食感・抗酸化力・食べやすさをどう変化させるか」を科学的に調べる目的で使われています。
研究でわかったこと
研究チームは、米粉の一部をアマランサス粉(5〜15%)とタイガーナッツ粉(25〜35%)に置き換えたさまざまな配合のケーキを作り、砂糖の量も従来のケーキと比べて35〜45%減らす形で試作しました。これらを、小麦粉を使った「陽性対照(比較基準)」と、米粉のみを使った「陰性対照」と比較し、重量減少、比容積(ケーキがどれだけふくらんだか)、水分量、水分活性(食品中の水の動きやすさを示す指標)、テクスチャー(食感)、内部の気泡構造、色、抗酸化力、そして人による官能評価(おいしさや食感の評価)など、多角的に分析しました。
その結果、アマランサス粉とタイガーナッツ粉を組み合わせて加えることで、グルテンフリースポンジケーキの機能性、物理化学的な特性、食感、抗酸化力、そして官能評価(食べたときの受容性)が改善されたと報告されています。中でも、米粉60%・アマランサス粉10%・タイガーナッツ粉30%を組み合わせ、砂糖を通常の60%相当に減らした配合(論文内で「F8」と呼ばれるもの)が、他の配合と比べて統計的に有意に(p<0.05)最も優れた結果を示したとされています。具体的には、比容積が5.84cm³/gと高く、水分含有量も28.76%と多く保たれ、水分活性は表面(クラスト)で0.58、内部(クラム)で0.54と低め、断面の気泡が占める割合(面積比)は27.73%で最も高く、抗酸化活性は1.80mg AAE/g(乾燥重量あたり)と最も強く、そして官能評価のスコアも7.23と最も高かったことが示されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の配合比率のケーキを試作し、実験室レベルで物理化学的な特性や官能評価を比較したものです。「F8」という配合が今回試した中で最も良い結果を示したとされていますが、これは一つの研究における結果であり、他の条件や、より幅広い集団を対象にした評価で同様の結果が得られるかどうかは、要旨からは分かりません。また、抗酸化活性が高いことや官能評価が良いことが、そのまま健康上の効果を保証するものではない点にも注意が必要です。あくまで「グルテンフリー焼き菓子の品質を高める配合の可能性を示した」研究として捉えるのが適切でしょう。
まとめ
この研究では、米粉ベースのグルテンフリースポンジケーキに、アマランサス粉とタイガーナッツ粉を加えることで、構造・食感・抗酸化力・食べやすさが改善される可能性が示唆されています。同時に、従来より砂糖の量を大きく減らした配合でも良好な結果が得られたとされており、グルテンフリーかつ低糖の焼き菓子開発における一つの手がかりとなる研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:米粉・アマランサス粉・タイガーナッツ粉の複合粉を用いた低糖グルテンフリースポンジケーキの開発(プロセシズ・2026年07月)