「ダウンティー」や「マウンテンティー」として親しまれてきたシソ科の植物、Stachys属(イヌゴマ属)には、伝統的に様々な薬効が言い伝えられてきました。この属はトルコ国内だけで90種以上が確認され、その約47%が固有種というほど多様性に富むグループです。イランの民間療法では、Stachys germanicaの花が腹痛や月経痛のための煎じ薬として使われてきた記録もあります。今回、トルコの研究チームが、この植物の地上部(茎や葉などの部分)から作ったエタノール抽出物を対象に、含まれる成分の詳しい分析と、複数の生理活性を調べる実験を行いました。

何を、どう調べたのか

研究チームは2023年5月にトルコ・テキルダー県で採取したStachys germanicaの地上部を乾燥・粉末化し、80%エタノールで48時間かけて抽出しました。得られた乾燥エキスは、まず分光光度法でポリフェノール総量とフラボノイド総量を測定したうえで、抗酸化力を調べる複数の試験(DPPH、ABTS、CUPRAC、FRAP、リン酸モリブデン法、金属キレート能)、酵素阻害を調べる試験(アセチルコリンエステラーゼ、ブチリルコリンエステラーゼ、チロシナーゼ、α-アミラーゼ、α-グルコシダーゼ)、さらに細菌・酵母に対する抗菌試験(微量液体希釈法によるMIC=最小発育阻止濃度の測定)にかけられました。抗菌試験では標準株に加え、病院で分離された臨床株も含む幅広い菌種がパネルとして用いられています。加えて、LC-MS/MS(液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析)という機器分析により、抽出物に含まれる個々の化合物の種類と量を数値として特定しています。

抽出物から見えてきたこと

このエタノール抽出物は、ポリフェノール総量が乾燥エキス1gあたり没食子酸換算で59.80±0.84mg、フラボノイド総量がルチン換算で20.50±0.24mgと、比較的ポリフェノールに富む組成であることが分かりました。抗酸化力を調べる試験では、銅イオンの還元力を見るCUPRAC法で445.26±6.11mg(トロロックス換算)と最も高い値を示し、続いてABTS法(387.12±3.03mg)、FRAP法(360.89±5.19mg)、DPPH法(333.96±1.61mg)の順で活性が確認されました。一方、金属をつかまえる働き(金属キレート能)は16.32±1.43mg(EDTA換算)と、他の指標に比べると控えめでした。

酵素阻害の実験では、皮膚の色素形成に関わるチロシナーゼへの阻害活性が62.23±0.06mg(コウジ酸換算)、糖の分解に関わるα-グルコシダーゼへの阻害活性が1.05±0.24mmol(アカルボース換算)と、この2つの酵素に対して比較的強い作用が見られました。対照的に、同じ糖代謝関連酵素であるα-アミラーゼへの阻害は0.16±0.01mmolと限定的で、酵素ごとに効き方に差がある「選択的な」阻害プロファイルだったと報告されています。神経伝達に関わるアセチルコリンエステラーゼ・ブチリルコリンエステラーゼへの阻害も測定されましたが、いずれも数値としては大きくありませんでした。

抗菌試験では、グラム陽性菌・グラム陰性菌・酵母を含む幅広い菌株に対してMIC値が測定されています。中でも注目されたのが、院内感染の原因ともなるグラム陰性菌Acinetobacter baumannii ATCC 19606株で、MIC値97μg/mLという「顕著な活性」に分類される値を示しました。一方、他の多くのグラム陽性菌や臨床分離株に対しては、MIC値が1562〜25,000μg/mLと高く、活性は「中程度」または「弱い」に分類されています。つまり、すべての菌に効くわけではなく、特定の菌に対して選択的に強く働く傾向が見られたということです。

LC-MS/MS分析では、抽出物中の個々の成分が具体的な数値として明らかにされました。最も多かったのは有機酸のリンゴ酸(729±13.12μg/g)で、フェノール酸の中ではクロロゲン酸が1024±20.54μg/gと突出して多く含まれていました。このほか、フラボノイド配糖体のナリンギン(196.10±4.65μg/g)、アピゲニン-7-グルコシド(119.72±3.45μg/g)、そしてアグリコン型のルテオリン(82.46±1.88μg/g)やケンフェロール(70.99±1.71μg/g)なども主要成分として検出されています。エラグ酸、シリング酸、プロトカテク酸といったフェノール酸や、プロシアニジン類、カテキン水和物なども微量ながら確認されました。

この研究の位置づけと注意点

この研究は、Stachys germanicaという一つの植物種の一つの抽出物(80%エタノール抽出)を対象に、実験室内(試験管内)で行われた分光光度法・LC-MS/MS・抗菌試験の結果をまとめたものです。論文の著者らは、これらの生理活性が、抽出物中に確認された複数のフェノール系成分の組み合わせによってもたらされている可能性を指摘していますが、抗酸化作用や金属キレート能の一部については、今回定量されなかった他の成分(フェニルエタノイド配糖体やイリドイドなど、Stachys属で報告例のある成分群)が関与している可能性にも触れています。ヒトが実際に摂取した場合の効果や安全性を示したものではなく、あくまで抽出物レベルでの基礎的な特性評価である点に留意する必要があります。

まとめ

今回の研究により、Stachys germanicaの80%エタノール抽出物には、ポリフェノールやフラボノイドが豊富に含まれ、複数の抗酸化試験で活性が確認されたこと、チロシナーゼやα-グルコシダーゼに対する酵素阻害作用が比較的強く見られたこと、そしてAcinetobacter baumanniiという特定の細菌に対して選択的な抗菌活性を示したことが報告されました。著者らは、これらの知見がこの植物を食品・機能性食品・化粧品分野で活用するための科学的な基礎資料になりうるとしていますが、これは一つの実験室研究の結果であり、実際の健康効果を証明したり保証したりするものではない点に注意が必要です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Gözde İnan, Derya Doğanay, Yiğit İnan, et al. Phytochemical Characterization and Bioactive Potential of Stachys germanica L.: LC – MS / MS Profiling and Multi‐Target Biological Activities. フード・サイエンス・アンド・ニュートリション (2026). DOI: 10.1002/fsn3.72238. 原著ライセンス: cc-by.