著者の所属・活動拠点の国は、スペインです。
掲載誌:PLoS ONE
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
トマトに斑点や組織の壊死を起こす細菌性斑点病には、キサントモナス属の複数の細菌が関わっています。似た症状を起こしても、植物への感染の仕方や、植物側の応答は同じとは限りません。
研究チームは、トマトから分離されたXanthomonas vesicatoria(Xv)と、トウガラシから分離されたXanthomonas euvesicatoria(Xe)の各1菌株を用い、同じトマト品種が感染初期にどのような防御応答を示すかを比較しました。特に、防御に関わる情報伝達や遺伝子の働き方の違いを明らかにすることを目指しました。
何を、どのように調べたか
対象は、病気にかかりやすいトマト品種「Moneymaker」の生育5週間の苗です。Xvを接種する群、Xeを接種する群、細菌を接種しない対照群に、それぞれ6株を割り当てました。
予備試験ではXeによる症状がXvより軽く、現れるのも遅かったため、研究チームは症状の程度を近づける目的で接種液の濃度を調整しました。葉を浸す細菌懸濁液の濃度は、Xvが1ミリリットル当たり10万CFU、Xeが500万CFUでした。CFUは、培養して集落をつくれる細菌の量を表す単位です。
接種48時間後の葉を採取し、各条件3つの生物学的反復でRNA解析を行いました。遺伝子から読み出されたRNAを網羅的に測るRNA-seqにより、接種しない葉と比べて、どの遺伝子の発現量が増減したかを調べました。また、接種5日後には葉の症状と、葉から回収できる細菌数を比較しました。
主な報告結果
接種5日後には、どちらの菌株もトマトの葉に感染していました。ただし、接種液の濃度が低かったXvの方が、深く重い壊死斑を生じ、葉の小葉全体に損傷が広がりました。Xeによる病斑は比較的表面的で、葉から回収された細菌数もXvより有意に少なかったと報告されています。
接種48時間後に、対照群と比べて発現量が変化した遺伝子は、Xvでは765個、Xeでは409個でした。内訳は、Xvで発現増加が540個、減少が225個、Xeで増加が316個、減少が93個です。遺伝子発現の全体的な特徴も、Xe接種群は対照群に近く、Xv接種群はそれらと分かれる傾向を示しました。
両菌株に共通して、防御に関わるPR1、PR2、PR5などの遺伝子の発現が増えていましたが、その増加はXvでより顕著でした。Xvでは、細胞壁の構成や、防御に関わる物質の合成・代謝に関連する遺伝子にも広く変化がみられました。一方、Xeだけで変化した遺伝子には、RNAの修飾やタンパク質への標識付けなど、ストレスへの応答に関わるものが含まれていました。研究チームが別の測定法で確認した6遺伝子でも、RNA-seqと一致する増減の傾向が得られました。
この報告が示すこと
研究チームは、トマトには両菌株に共通する防御応答がある一方、感染する菌株によって応答の強さや内容が異なると結論づけています。特に、Xvに対して防御関連遺伝子が強く働いても病気は進行しており、防御の活性化が、そのまま感染を抑えられたことを意味するわけではありません。
著者らは、観察された違いを応答の時間的な変化と併せて解釈する必要があるとしています。今回の遺伝子発現の比較は接種48時間後のものであり、応答が起こる時期の違いが結果の一部を説明する可能性は未解明です。この報告は、同じトマトの病気に関わる細菌でも、植物との相互作用を一様には捉えられないことを示しています。
原著論文の著者・所属:Lorena Sánchez-Giménez(Universitat Jaume I)、Eugenio Llorens(Universitat Jaume I)、Atefeh Farvardin(Universitat Jaume I)、Jaime Cubero(Instituto Nacional de Investigación y Tecnología Agraria y Alimentaria (INIA), Consejo Superior de Investigaciones Científicas (CSIC))、Loredana Scalschi(Universitat Jaume I)、Begonya Vicedo(Universitat Jaume I)、Gemma Camañes(Universitat Jaume I)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lorena Sánchez-Giménez, Eugenio Llorens, Atefeh Farvardin, et al. Comparative transcriptomic responses of tomato to Xanthomonas strains isolated from different hosts. PLoS ONE 2026-11-02. DOI: 10.1371/journal.pone.0361370. 原著ライセンス:CC BY.