アフラトキシンという言葉を聞いたことがあるでしょうか。これはトウモロコシや落花生などの穀物・豆類に生えるカビ(アスペルギルス属)が作り出す天然の毒素の一種で、特に高温多湿な熱帯・亜熱帯地域では、収穫後の保存状態によって食品中に混入しやすいことが知られています。今回、東アフリカ・ケニアの沿岸部に暮らす妊婦を対象に、体内に取り込まれたアフラトキシンB1(AFB1)の量とその要因を調べた研究が報告されました。妊娠期は母体と胎児の両方にとって環境中の有害物質の影響を受けやすい時期とされており、実際の曝露状況を数値で捉えようとした点がこの研究の出発点です。
研究でわかったこと
研究チームは、ケニア南部インド洋沿岸に位置し、主に農村地域であるクワレ県の医療施設を通じて、妊婦298人を対象とした横断研究(ある一時点での状態を調べる研究デザイン)を実施しました。血液を採取し、アフラトキシンB1が体内のアルブミンというタンパク質と結合してできる「AFB1-アルブミン付加体」の濃度を、酵素免疫測定法(ELISA)という手法で測定しています。要因の分析には、対数変換した濃度を用いた多変量線形回帰(あらかじめ計画されたモデルで、不均一分散に頑健なHC3標準誤差を使用)が用いられ、さらに補助的な分析として、検出可能か否かを分けるFirthのペナルティ付きロジスティック回帰モデルも用いられました。
その結果、298人中251人(84.2%)でアフラトキシンB1の付加体が検出されました。検出された濃度の中央値は28.1 pg/mL(四分位範囲13.7〜68.7)でした。曝露量を左右していた最も大きな要因は「どこに住んでいるか」という居住地でした。海に最も近い地域で曝露量が最も低く、そこからより乾燥した内陸寄りの2つの地域になるにつれて曝露量は段階的に高くなり、それぞれ約2.02倍(95%信頼区間1.44〜2.85倍)、約3.02倍(95%信頼区間1.89〜4.82倍)という差が示されました。また、未婚であることも、曝露量がやや高いこと(約1.89倍、95%信頼区間1.17〜3.05倍)と関連していると報告されています。一方で、食品の入手先や小麦粉の保存方法、母親の学歴や年齢は、曝露量との関連が認められませんでした。検出の有無を見た補助的な分析でも、同じ地理的なパターンが再現されたとのことです。なお、これほど広くアフラトキシンへの曝露がみられたにもかかわらず、アフラトキシンという物質について「聞いたことがある」と答えた参加者はわずか1.7%にとどまったことも報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、特定の一時点・一地域における横断調査であり、原因と結果の時間的な前後関係を直接証明するものではありません。あくまでケニア・クワレ県という特定の地域で得られた結果であり、他の地域や集団にそのまま当てはまるとは限りません。また、要旨で述べられている通り、この研究は個人の行動よりも「居住地」という地域単位の要因が曝露量を左右している可能性を示唆するものであり、食品の入手先や保存方法、教育・年齢といった個人レベルの要因では説明がつかなかった点も踏まえて読む必要があります。一つの研究であり、これだけで結論が確定したわけではない点にも留意してください。
まとめ
今回の研究では、ケニア沿岸部の妊婦の多くから血中にアフラトキシンB1の曝露を示す痕跡が検出され、その量は居住地域や婚姻状況と関連していると報告されています。研究チームは、こうした知見が地域を絞った食品安全対策の必要性を示唆するものであり、気候条件や自給的な農業がアフラトキシンの慢性的な曝露に関わりうる他の熱帯地域における食品安全戦略にも参考になりうるとしています。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ケニア沿岸部の妊婦における血清アフラトキシンB1曝露の決定要因:クワレ県における横断研究(トロピカル・メディシン・アンド・ヘルス・2026年08月)