この研究は、パキスタン、イラク、タイ、CDの研究機関の研究論文です。
掲載誌:International Journal of Food Science & Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
牛乳や水牛乳には、家畜が汚染された飼料を食べることで「アフラトキシンM1(AFM1)」という有害物質が移行することがあります。著者らによれば、この物質は加熱に強く、通常の低温殺菌でも分解されずに乳製品の流通経路に残るため、公衆衛生上の懸念とされています。とくに水牛乳は脂肪やたんぱく質が多く、論文ではAFM1がカゼインなどの乳たんぱく質と強く結びつくため、取り除くのが難しいと説明されています。
また、従来の吸着剤であるベントナイトなどの粘土鉱物については、乳に直接加えると乳糖やたんぱく質といった栄養成分にも影響しうること、細かい粒子を取り除くのに手間のかかる遠心分離が必要なことが課題として挙げられています。
そこで研究チームは、オクラ(Abelmoschus esculentus)の「ムシラージ」と呼ばれるぬめり成分で覆った酸化鉄ナノ粒子(OM-IONPs)を作り、生の水牛乳からAFM1を取り除けるかどうかを調べました。ここでいう「グリーン合成」とは、化学薬品を多く使う代わりに植物由来の成分を還元剤・被覆剤として利用する作り方のことです。酸化鉄を使う狙いは、磁石を近づけるだけで粒子を乳から回収できる点にあります。
調べ方
著者らは、パキスタン・ラホールの5か所の集乳所から生の水牛乳(BM-1〜BM-5)を集め、乳の成分組成を乳分析装置で測定しました。オクラは未熟な莢を水に浸してぬめり成分を抽出し、これに濃度の異なる塩化鉄(2、5、8、10 mM)を加えてナノ粒子を合成しました。
できた粒子は、紫外可視分光法(光の吸収の仕方から生成を確かめる)、フーリエ変換赤外分光法(表面にどんな官能基が付いているかを調べる)、X線回折(結晶の構造を調べる)で調べられました。その後、乳に粒子を加えて約25 ℃で60分間振とうし、外から磁石をあててAFM1と結合した粒子を取り除き、残ったAFM1の量を競合ELISA法で測定しています。あわせて、処理後の乳に鉄がどれだけ残るかを原子吸光分析で調べ、回収した粒子を洗って乾かし、繰り返し使えるかも検討しました。
主な報告結果
まず、集めた5点の水牛乳のAFM1濃度は、それぞれ0.92、1.65、2.18、3.40、5.15 µg/Lと報告されました。論文では、これらはいずれも米国FDAが示す上限値0.5 µg/LおよびEUの上限値0.05 µg/Lを超えていたとされています。
ナノ粒子については、鉄の前駆体濃度が5 mMのときに最もよい結果が得られました。X線回折では、いずれの濃度でも熱力学的に安定なヘマタイト(α-Fe₂O₃)の結晶であることが示され、5 mMでは鋭く強いピークとともにナノスケール特有のピーク幅の広がりが見られたと報告されています。著者らはこれを、ぬめり成分が粒子どうしの凝集を防いで individual な粒子として安定させたためと説明しています。赤外分光では、オクラのぬめり成分に含まれる水酸基やカルボキシル基のピークが低い波数側へずれており、これらの基が鉄の表面に結合していることを示すと解釈されています。
一方、濃度が低い2 mMでは粒子の生成量そのものが少なく、8 mMや10 mMでは鉄イオンが多すぎて被覆が追いつかず、粒子が凝集してしまったと報告されています。
最適化した5 mMの粒子を用いた場合、60分の処理でAFM1は98.53%減少したと報告されています。さらに、回収して5回繰り返し使った後でも89.3%の低減率を保っていました。著者らはまた、この処理によって乳の理化学的性質は影響を受けず、処理後の乳に残る鉄もごくわずかだったと述べています。
この研究が示すこと
この研究は、食用にもなるオクラのぬめり成分を使って作った磁性ナノ粒子が、脂肪の多い水牛乳という扱いにくい条件下でも、乳の成分を損なわずにAFM1を取り除けたことを報告しています。磁石で回収でき、繰り返し使えるという点は、遠心分離を要する従来の吸着剤との違いとして著者らが強調している部分です。
著者らは、以上の結果から、OM-IONPsは乳業において持続可能かつ規模拡大が可能で食品として安全な磁性ナノ吸着材となりうると結論づけています。
著者:Rabbia Khan(University Institute of Food Science and Technology, The University of Lahore , Lahore ,)、Ali Ikram(University Institute of Food Science and Technology, The University of Lahore , Lahore ,)、Farhang Hameed Awlqadr(Food Science and Quality Control, Halabja Technical College, Sulaimani Polytechnic University , Sulaymaniyah ,)、Muhammad Tayyab Arshad(Functional Food and Nutrition Program, Faculty of Agro-Industry, Prince of Songkla University , Hat Yai, Songkhla, 90110 ,)、Justin OMBENI(Department of Food Science, Nutrition and Dietetics, Institut Supérieur des Techniques Médicales de Bukavu, ISTM-Bukavu, South Kivu province ,)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rabbia Khan, Ali Ikram, Farhang Hameed Awlqadr, et al. Green synthesis of okra mucilage-capped iron oxide nanoparticles and their application for aflatoxin M1 reduction in buffalo milk. International Journal of Food Science & Technology 2026-08-26. DOI: 10.1093/ijfood/vvag188. 原著ライセンス:CC BY.