この研究は、イランの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何を調べた研究か

アフラトキシンB1(AFB1)は、コウジカビの仲間であるアスペルギルス・フラバスなどが作り出すカビ毒の一種です。トウモロコシやピーナッツ、木の実、綿実といった農作物が、温度や湿度などの条件しだいで汚染されることがあり、国際がん研究機関はAFB1をグループ1の発がん性物質に分類しています。論文の著者らは、こうした汚染への対策として物理的・化学的な手法には環境面や食品の品質面での制約があるとして、生物由来の代替手段への関心が高まっている状況を背景に挙げています。

この研究チームが着目したのは、植物の内部に共生する「内生菌」が作る二次代謝産物です。二次代謝産物とは、生物が生きるために必須ではないものの、外界とのやりとりのなかで作り出す多様な化合物のことを指します。著者らは、イランの薬用植物から分離された内生菌クルブラリア・イナエクアリスから得られた三つの化合物――(–)-アスペルペンチン、(R)-フォマラクトン、2,3-ジヒドロフォマラクトン――が、A. フラバスの発育とAFB1の産生にそれぞれどう作用するかを調べました。これら三つの化合物がAFB1産生に及ぼす影響は、これまで調べられていなかったと論文は述べています。

どのように調べたか

著者らは内生菌を液体培地で培養し、培養液から酢酸エチルで代謝産物を抽出したうえで、カラムクロマトグラフィーで三つの化合物を精製しました。構造は核磁気共鳴(NMR)や質量分析といった分光学的手法で確認しています。

試験対象としたのは、イラン・パスツール研究所から入手したAFB1産生株A. フラバス IPI 247です。カビの発育を抑える働きは、微量希釈法で最小発育阻止濃度(MIC:発育が見た目で抑えられる最も低い濃度)と最小殺真菌濃度(MFC:カビが生き残らない最も低い濃度)を求め、さらに菌糸の乾燥重量を測って発育がどれだけ抑えられたかを算出しました。AFB1の産生量は、薄層クロマトグラフィー(TLC)で紫外線下の蛍光として確認し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量しています。比較のための陽性対照には抗真菌薬ボリコナゾールを用いました。

加えて、最も強い抗真菌作用を示した化合物については、細胞膜への影響を調べる試験も行われました。傷んだ細胞だけが染まる色素ヨウ化プロピジウムで分生子を染めてフローサイトメトリーで数えるほか、カビの細胞膜の主要成分であるエルゴステロールの量を測定し、走査型電子顕微鏡で菌糸の形の変化も観察しています。

報告された主な結果

カビの発育を最も強く抑えたのは(–)-アスペルペンチンで、MICとMFCがともに0.312 mg/mLと同じ値でした。著者らは、この一致をA. フラバスに対する殺真菌的な作用を示すものと述べています。なお陽性対照のボリコナゾールはMIC・MFCともに0.125 mg/mLで、より低い値でした。(R)-フォマラクトンはMIC 2.8 mg/mL、MFC 5.62 mg/mLで中程度の作用にとどまり、2,3-ジヒドロフォマラクトンはさらに高い濃度を要しました。

(–)-アスペルペンチンについては、濃度が高いほどヨウ化プロピジウムに染まる分生子の割合が増え、無処理の対照で0.454%だったものが、2×MICで62.3%、4×MICで76.1%に達しました。エルゴステロールの量も濃度依存的に減り、電子顕微鏡では菌糸の断裂やしわ、変形が観察され、処理した試料では胞子形成が認められませんでした。著者らはこれらを、細胞膜の傷害を伴う抗真菌作用として説明しています。

一方、カビ毒の産生を抑える働きでは順位が入れ替わりました。2,3-ジヒドロフォマラクトンは発育の抑制こそ弱かったものの、100 µg/mLでAFB1の産生を完全に抑え、そのときの菌体量の減少は15.9%にとどまりました。著者らは、この抗アフラトキシン作用が発育抑制だけでは説明できないことを示すものだとしています。なお(R)-フォマラクトンでは、50・100 µg/mLという中間の濃度で対照より毒の産生が増えるという、濃度に対して一直線ではない反応も報告されています。

この結果が示すこと

この研究が浮かび上がらせたのは、カビの発育を止めることと、カビ毒の産生を止めることが必ずしも同じではない、という点です。同じ内生菌に由来する三つの化合物のうち、発育を最もよく抑えた(–)-アスペルペンチンと、毒の産生を最も強く抑えた2,3-ジヒドロフォマラクトンが別々だったことは、両者が異なる細胞内の仕組みで制御されている可能性を示唆すると著者らは論じています。

著者らは同時に、観察された効果を得るには比較的高い濃度が必要だった点を挙げ、作物への直接の適用には制約がありうることにも触れています。それでも、発育をほとんど落とさずに毒の産生だけを止める化合物が見つかったことは、アフラトキシン生合成を抑える天然物を探すうえでの一つの手がかりとなります。

著者:Maryam Besharati-Fard(Department of Plant Pathology, Faculty of Agriculture, Tarbiat Modares University, Tehran, 14115-331, Iran)、S. Ali Moosawi-Jorf .(Department of Plant Protection, Faculty of Agriculture, Shahid Chamran University of Ahvaz, Ahvaz, Iran)、Masoomeh Shams-Ghahfarokhi(Department of Mycology, Faculty of Medical Sciences, Tarbiat Modares University, Tehran, 14115-331, Iran)、Mehdi Razzaghi-Abyaneh(Department of Mycology, Pasteur Institute of Iran, Tehran, 1316943551, Iran)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Maryam Besharati-Fard, S. Ali Moosawi-Jorf ., Masoomeh Shams-Ghahfarokhi, et al. Asperpentyn disrupts cell membrane integrity and 2,3-dihydrophomalactone potently inhibits aflatoxin B1 biosynthesis in Aspergillus flavus. Scientific Reports 2026-09-18. DOI: 10.1038/s41598-026-72394-1. 原著ライセンス:CC BY.