著者の所属・活動拠点の国は、アラブ首長国連邦です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:成分の量と食べやすさは同じ時間でそろうのか

赤いビーツ(ビートの根)は、赤い色素のベタレインやポリフェノール類などの成分を含む野菜として知られています。家庭ではゆでて調理することが多い一方、加熱によってこうした成分が分解したり、ゆで汁に溶け出したりすることがあります。逆に、加熱で組織がやわらぎ、成分が取り出されやすくなる場合もあるとされています。

これまでの研究の多くは、成分量、色、食感、味のどれか一つに注目していました。研究チームは、ゆで時間がこれらにまとめてどう影響するかを一つの実験で調べました。そのうえで、測定される成分量が高くなる時間と、食べる人に好まれる時間が一致するのかを確かめることを目的としました。

何を調べたか

著者らは、アラブ首長国連邦の地元市場で同じロットのビーツを購入しました。皮をむかずに丸ごと約100℃の湯でゆで、ゆで時間は15分、30分、45分、60分の4通りとしました。比較対象には生のビーツ(0分)を使っています。ゆで時間以外の条件は、鍋、水の量、ビーツの量などをそろえました。ゆでた後は氷水で冷やし、皮をむいて1センチ角に切りました。

測定項目は、水分やたんぱく質などの基本的な組成、ポリフェノール類の総量(総フェノール含量)、ベタレイン量です。抗酸化性の指標として、試験管内で不安定な分子(ラジカル)をどれだけ打ち消せるかを見るDPPH消去活性も測りました。さらに、機器で色(赤みや、色の鮮やかさを表す彩度など)と、細い針を刺したときの最大の抵抗力を調べました。後者は硬さの目安になります。

官能評価には、18〜56歳の一般消費者62人が参加しました。参加者は甘さやジューシーさなどの強さを点数で評価し、見た目、香り、風味、食感、全体の好ましさを9段階で採点しました。甘さや硬さなどが「ちょうどよい」かどうかも答え、5つの試料の中から最も好きなものと最も好きでないものを1つずつ選びました。論文によると、官能評価の結果は主に記述的なデータとして解釈されています。

主な結果:成分と色は30分、好みは60分が最も高い数値

成分の値は、ゆで時間に対して一方向には変化しませんでした。総フェノール含量は、生で新鮮重1グラムあたり2.21ミリグラム(没食子酸換算)でした。15分でいったん下がり、30分で最も高い7.61ミリグラムになりました。60分では5.06ミリグラムでした。DPPH消去活性は、生の13.35%から30分で35.68%に上がり、60分の34.06%は30分と統計的な差がありませんでした。ベタレイン量は、生の1グラムあたり0.21ミリグラムから30分で0.54ミリグラムに上がりました。60分では0.25ミリグラムまで下がり、生や15分と差がなくなりました。著者らは、ほどよい加熱で成分が取り出されやすくなった可能性を挙げていますが、その仕組み自体は直接測定していないと述べています。

色では、赤みと彩度が30分で最も高くなりました。どちらも45分でいったん下がり、60分で再び上がりましたが、30分よりは低い値でした。針を刺したときの抵抗力は15分で最も高く、その後は下がり、60分が数値上最も低くなりました。

消費者の評価では、全体の好ましさが生では9段階の1.85でした。ゆでた試料では5.08〜6.88に上がり、どのゆで時間も生より明らかに好まれました。数値上の最高は60分の6.88でしたが、ゆでた試料どうしの間に統計的な差はありませんでした。最も好きな試料には60分を選んだ人が最も多く(38人)、最も好きでない試料には生を選んだ人が最も多くなりました(44人)。「ちょうどよい」かどうかの回答からは、甘さ、硬さ、ジューシーさが好ましさと特に関係していることが示されました。

基本的な組成では、45分と60分でたんぱく質の測定値が高くなりました。著者らは、これはたんぱく質が増えたためではなく、水分量の変化による見かけ上の濃縮で説明しやすいとし、慎重な解釈を求めています。

この研究が示すこと

この研究の条件では、測定された成分量や色の値が最も高くなったゆで時間(30分)と、消費者の好みの数値が最も高くなったゆで時間(60分)が異なりました。ゆでることには良い面と悪い面の両方があり、どのゆで時間が「最適」かは、何を品質の基準にするかによって変わります。

著者らは、一つの普遍的なゆで上がり時間を決めることを目的にしていないと明記しています。そのうえで、家庭でのビーツのゆで方を考える際には、成分、色、食感、おいしさといった複数の観点をあわせて見る必要があると結論づけています。

原著論文の著者・所属:Abir Bahi(Nutrition Department, College of Medicine and Health Sciences (CMHS), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Nuha M.K. Yousif(Food Science Department, College of Agriculture and Veterinary Medicine (CAVM), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Sarah Abdul Kaleem(Nutrition Department, College of Medicine and Health Sciences (CMHS), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Nooran Sabbagh(Nutrition Department, College of Medicine and Health Sciences (CMHS), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Dana Alzarouni(Nutrition Department, College of Medicine and Health Sciences (CMHS), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Yara Maraqa(Nutrition Department, College of Medicine and Health Sciences (CMHS), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Anuj Niroula(Food Science Department, College of Agriculture and Veterinary Medicine (CAVM), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Akmal Nazir(Food Science Department, College of Agriculture and Veterinary Medicine (CAVM), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Yazan Ranneh(Department of Nutrition and Dietetics, College of Pharmacy, Al Ain University, Al Ain, United Arab Emirates)、Hafiz Muhammad Shahbaz(Nutrition Department, College of Medicine and Health Sciences (CMHS), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)、Abdulmannan Fadel(Nutrition Department, College of Medicine and Health Sciences (CMHS), United Arab Emirates University, Al Ain, United Arab Emirates)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Abir Bahi, Nuha M.K. Yousif, Sarah Abdul Kaleem, et al. Balancing nutritional quality and consumer acceptance in boiled beetroot (Beta vulgaris L.): effects of household boiling time on bioactive compounds, color, texture, and sensory attributes. Scientific Reports 2026-10-20. DOI: 10.1038/s41598-026-76952-5. 原著ライセンス:CC BY.